136.ここからはゴロウの腕次第だ。
俺は準備を整えて再度、本体のもとから青葉族の〈別荘〉へと〈帰還〉した。
結局、ディアリスは両親を殺して自分が族長になることを選んだ。
その胸の内は計り知れないが、ひとまず自分の死を望んでいないことは分かった。
俺は〈個人輸入〉で購入した戦斧を手にして、〈別荘〉から出る。
「決心は鈍っていないだろうな?」
「それは……。ああ、大丈夫だ。私はミウのために父母をその手にかける」
戦斧を受け取ったディアリスは、凛々しい表情で言った。
そして俺の後ろにいる森人族を見て「そちらは?」と問うた。
「ディアリスひとりで氏族をすべて相手にするのは厳しいだろう。俺や青葉族は直接、協力する気もないしな。代わりと言ってはなんだが、君の同族の魔術師を用意した。有効に使ってくれ」
「初めまして。俺の名はゴロウ。魔術師だ、よろしく」
ゴロウと名乗った森人族は、もちろん〈百面相〉した〈代理人〉である。
俺はというか本体が錬金術のために世界樹の素材を欲しがっているのを記憶を共有して知っていたので、このような形でメルシヨン氏族に〈代理人〉を送り込むことにしたのだ。
なお名前は大迷宮探索部隊の続きである。
男の森人族の良い名前が思いつかなかったし、時間もなかったのだ。
「そうか、よろしく頼むゴロウ」
「前衛は任せるぞ、ディアリス」
身長は高めで痩身、耳は尖っていて長く、これぞ森人族というイケメンである。
ゴロウは族長を継いだディアリスの婿に収まるのが理想だ。
そうすれば世界樹の素材の入手は可能だろう。
……俺も随分とベルナベルに毒されたな。
この計画を考えて実行に移そうと決心したのは、俺自身なのだ。
今回はローレアのときのようにベルナベルは介入していない。
それだけ世界樹の素材は魅力的だし、入手困難なのだ。
「じゃあ健闘を祈っている。ディアリスをよろしくな、ゴロウ」
「分かっている。では早速、氏族の森へ向かうとしよう」
ゴロウがディアリスを促すようにして、青葉族の里を出ていく。
さあ、ここからはゴロウの腕次第だ。
* * *
ディアリスを追って来ていた三人の森人族が、青葉族の里を覆っていた結界を出た瞬間に襲いかかってきた。
しかしディアリスが傷ひとつなく、その手に戦斧を持っているのを見て、驚いた顔でその足を止めた。
「マズい、ディアリス様が戦斧を手にしているぞッ」
「――反撃開始だ」
ディアリスが一気に距離を詰めてひとりを真っ二つにした。
良い動きだ。
俺も役に立つところを見せておかなければならない。
「我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍。――〈ホーミングジャベリン〉」
宙に浮いた二本の投槍がそれぞれ残ったふたりに向けて恐るべき勢いで射出される。
ふたりは腹を撃ち抜かれて臓腑を撒き散らして絶命した。
「……今のがゴロウの魔術かい。槍を飛ばすなんて変わった魔術だね」
「そうだろう? ディアリスの背中を預けてもらえそうかな?」
「凄腕だというのは分かったよ。想像以上だった。これで満足かい」
「お褒めに預かり光栄だ」
俺はボーンガーディアンを一体だけ召喚した。
これから強行軍になるだろうから、〈寄生〉して体力を補う必要があるからだ。
「召喚スキルまであるのかい。本当に腕利きだね」
「まあね。それじゃあディアリス、君の故郷まで案内を頼むよ」
「……ああ」
ディアリスを先頭にして、俺はメルシヨン氏族の森へと向かった。