132.割りとしんどいな。
俺は宝箱設置を担当しているダンジョン管理人だ。
御存知の通り、〈ダンジョンマスター〉の効果で魔力を込めて宝箱を出すのがおれの仕事なわけだが、ちょっと思いついたことがあったので、本体にもうひとり〈代理人〉を寄越してもらうことにした。
〈隠れ家〉を通って早速、もうひとりの〈代理人〉がやって来た。
「面白いことを考えついたな」
「まあな。魔力を少しでも多く使えるようにするのが、俺の仕事みたいなものだからな」
もっとも多ければいいというわけじゃない。
〈ダンジョンマスター〉の効果でどのくらいの魔力を消費すれば宝箱の中身がよくなるかは分かっている。
俺の魔力は本体同様、大量にあるがそれでも高ランクの宝箱にはまったく手が届いていない状態だ。
日々レベルアップしたり、魔力枯渇状態から全快することで魔力を増やしたりと、様々な工夫で俺自身の魔力を増加させてきたが、ここで新しい方法があることに気づいた。
結論から言えば、俺が〈代理人〉に〈寄生〉するというものだ。
俺自身の莫大な魔力を基準にして10%もかさ増しできる裏技である。
これで宝箱のランクがふたつほど変わるのだから、やらなきゃ損だ。
「〈代理人〉が〈代理人〉に〈寄生〉するとはね。しかし能力値の10%減少はなかなか堪えるな」
「どんな感じになるんだ?」
「そうだなあ……全身がダルい感じかな。10%でも結構キツいわ」
「そうか……すまんが我慢してくれ。宝箱の2ランクアップは大きい」
「分かっている。椅子出してのんびり見学させてもらうとするよ」
〈ダンジョンマスター〉の効果で魔力を消費して椅子のオブジェクトを出して背もたれに身体を預ける〈代理人〉。
さて彼の苦痛を和らげるためにも、さっさと宝箱を設置しよう。
ちょうど宝箱のランクが変わる辺りを狙って魔力を消耗する。
にょきり、と床から宝箱が生えてきた。
罠も鍵も設定していないので開けて中身を確認するだけだ。
さて中身は……お、スキルオーブだ。
〈ダンジョンマスター〉の効果で何のスキルオーブかが判明する。
どうやらこれは〈危険感知〉のスキルオーブらしい。
「さすが〈天運〉、いきなり有用なスキルオーブだ」
「そりゃ良かった。俺がしんどい思いをした甲斐があったってもんだ」
「おっと悪い。〈寄生〉は解除する。……まあ記憶の共有をしてから入れ替わって来る俺がまた〈寄生〉して宝箱設置するわけだが」
「…………割りとしんどいな。暇なのも辛い」
同じ俺のことだから、気持ちはよく分かる。
何か暇つぶしになることを考えた方が良いだろう。
本体に読みたい本でも決めてもらって読書でもしててもらうか。