117.俺は誰の手の平の上で踊らされているんだ?
早朝、ホロウィンドウがポップアップしてきた。
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈王威〉のクラススキルを習得しました》
だから、自宅警備員になにをさせようというんだ。
創世の女神のクラス設定、絶対におかしいだろ。
「ベルナベル、新しいスキルを得たんだが、効果を教えてもらえるか?」
「んー? なんじゃ主。遂に〈王威〉なんぞ習得したんじゃな」
「名前からして俺には分不相応っぽいんだけど、これなんなんだ?」
「王としてのカリスマと威圧感を同時に発揮するスキルじゃ。アクティブスキルじゃから、使わなければ今まで通りじゃ。気にするでない」
「これまでも気になっていたんだけど、俺のクラススキル、途中から露骨に王様路線になったんだけど、これそういうものなのか?」
「クラスは同じでも習得するクラススキルは本人の適性によって異なるぞ。例えばナイトのクラスを持っている者がいたとして、攻撃的な騎士か、防御的な騎士か、あるいは他の騎士を動かす軍師的な騎士か、個人個人の適性でレベルアップして習得するクラススキルはまったく異なる。つまり主のクラスは途中から、主の適性に寄った成長をしていたことになるのじゃ」
「俺が王って器か?」
「実際、ふたつの魔族の集落と魔王城を支配下におき、魔王として振る舞っておるではないか」
「結果的にはそうだけど全部、ベルナベルのお膳立てが前提だったような気がするぞ」
「そもそもわしを召喚したという事実が重いと思わぬか? わしが言うのもおかしな話じゃが、七大罪の悪魔のひとり“淫蕩の”ベルナベルを契約悪魔にできたという事実が王への道の第一歩じゃとしたら?」
「あまりおだててくれるなよ。俺はそんな大した人間じゃない」
「事実を直視せよ、主。わしを召喚して魔王として君臨し、しかしそれすら仮の姿のひとつに過ぎぬ。主が王の器であるかどうかはともかくとして、凡夫でないことは確かじゃぞ」
「…………」
やっぱりベルナベルにおんぶにだっこ、な気がしてならない。
俺自身はどこまで行っても凡庸なのだ。
ベルナベルを召喚したことがすべての始まりだというのならば、終わりはどこへ繋がっている?
俺は誰の手の平の上で踊らされているんだ?
朝食後、ベルナベルと大迷宮探索部隊はブイユゲット王国の宿に向かった。
エチゴヤは今日、宿屋『鍋猫亭』にやって来てシルクを三反、クロエの婿であるコウセイに売る予定だ。
魔王は今日から顔と名前を変えることになっている。
名前はシューベルト。
かの歌曲『魔王』を作詞作曲したシューベルトにあやかっている。
俺は日中、錬金術の実践に時間を使う。
昨日も錬金術をやっていたが、コツというかノリが段々と分かってきたところだ。
レシピ通りに作っているだけだが、これがなかなかに面白い。
掃除機のようにゴミを吸い込む魔法の道具や、異性に対して軽い魅了効果のある香水、植物由来の紙の束、インク不要の羽根ペンなど、面白い道具を作成できた。
ただしこれらの上位互換に相当するダンジョン産の魔法の道具もあるため、不用品は〈リサイクル〉の対象なのだが。
ひと通りレシピ集の品々を錬成してみたら、どうしようか。
魔王城のアルドロンにレシピ集を見せて、載っていないレシピを教わるか?
そもそも新しいレシピというのはどういう経緯で思いつくものなのだろうか。
その辺のことも聞いておきたいところだ。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 97
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈槍技〉〈暗視〉〈気配遮断〉
〈性豪〉〈料理〉〈醸造〉〈錬金術〉〈農耕〉〈礼儀作法〉〈審美眼〉
〈ウワバミ〉〈痛覚軽減〉〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉
〈創造:槍〉〈精霊:使役〉〈同時発動〉〈高速詠唱〉〈通信販売〉
〈新聞閲覧〉〈相場〉〈個人輸入〉〈魔力眼〉〈多重人格〉
〈睡眠不要〉〈ボーンガーディアン召喚〉〈別荘〉〈夜の王〉
〈隠れ里〉〈牢獄〉〈テイム〉〈監視カメラ〉〈ホットライン〉
〈帰還〉〈領土〉〈百面相〉〈領域支配〉〈隠れ家Ⅲ〉〈代理人Ⅲ〉
〈眷属強化〉〈ダンジョンマスター〉〈浮遊島〉〈城塞〉
〈リサイクル〉〈監視衛星〉〈永続召喚〉〈地下迷宮〉〈天運〉
〈視界共有〉〈ボーンアーチャー召喚〉〈地脈操作〉〈霊脈操作〉
〈全異常無効〉〈王威〉〈アイテムボックス〉〈経験値100倍〉
〈契約:ベルナベル〉〈隷属:青葉族〉〈隷属:黒影族〉
〈隷属:魔王軍〉〈従魔:マーダーホーネット〉
〈従魔:レッドキャトル〉〈従魔:アイスドラゴン〉》