11.それはちょっと知らなかったなあ。
夕食の席で、俺は先日、商談をしていた商人に話しかけた。
この世界で会話をするのは、女将のアナベルとその娘のクロエ以外では初だ。
「初めまして。俺はコウセイ。商人の端くれです」
「……初めまして。私は旅商人のセドリックと申します。何か御用でしょうか?」
「実は、商談があるのです。偶然、手に入れた商品なのですが、コネもなにもないため、どこに売りに行くか迷った末に、あなたに――セドリックさんに売ってみようかと思った次第で」
「ほう。どのような品をお売りになりますか?」
「これです」
俺は〈アイテムボックス〉からシルクの反物を丁寧な手付きで取り出した。
「――――っ」
セドリックが息を呑む。
そりゃそうだろう、この街でシルクを取り扱っている店はない。
〈通信販売〉になかったのだから、それは確実だ。
「い、一体、それをどこで……」
「それは秘密です。価値は分かっているのですが、どうです、セドリックさん。この反物、扱ってみませんか?」
「一度、手に取ってもよろしいですか?」
「もちろん。思う様、確認してください」
俺はシルクの反物を手渡した。
セドリックはそっと反物を撫でて、身震いした。
さて、幾らを提示してくるかな?
「コウセイさん、といいましたね。これを幾らで売って頂けるので?」
「金貨四枚でいかがでしょう?」
「…………金貨三枚では?」
「それがどれほど手間がかかってここに辿り着いたかを思えば、とてもじゃありませんが金貨四枚未満で売る気にはなれません」
「そ、それもそうですな。では金貨四枚で買わせて頂きたい」
「分かりました、商談成立ですね」
俺はセドリックと握手した。
セドリックは〈アイテムボックス〉から金貨四枚を取り出し、シルクの反物と引き換えにするようにこちらに硬貨を差し出した。
俺はそれを受け取る。
「本日は良い商談ができました」
「こちらこそ。まさかこのようなところで状態の完璧なシルクに出会えるとは。幸運に恵まれていたとしか思えません」
「俺はこの宿に滞在し続ける予定です。セドリックさんは旅商人とのことですが、いつまでこの宿に?」
「もう一週間はこの街で商売をします。しかし明日の予定は変更になりましたな」
「そうですか。それではまた何かあれば、声をかけさせて頂いても?」
「もちろんです。コウセイさんは商人とのことですが、旅商人ではないのですか?」
「店舗もないし旅もしません。……ただある商人とのコネがありまして、こうして仲介のような小さな商売をしているのです」
「小さな商売などとはご謙遜を。シルクの反物を入手できるということは、王族御用達の商人と個人的な繋がりがあるということでしょう?」
「え? ええ……まあ」
シルクって王族御用達の商人しか扱えないものなの?
それはちょっと知らなかったなあ。
その後、俺たちは同じテーブルで夕食を摂り、別れた。
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