107.……ベルナベル頼りになりそうだな
魔王として魔王城に赴任している俺は、さっそくベルナベルと一緒に〈錬金術〉を有している悪魔と面談することにした。
ベルナベル曰く、アルドロンという女性型の悪魔がそうらしい。
俺は一度面談しているはずだが、名前だけを聞いても覚えていなかった。
しかし白衣を着たボサボサの髪の女悪魔を見て思い出した。
ちょっとズレた感性を持った、独特な奴だったはずだ。
そうか、コイツが〈錬金術〉を持っていたのか。
「魔王様、お呼びとあって参りましたー」
「ああ。よく来てくれたアルドロン。ちょっと〈錬金術〉について聞きたいことがあってな」
「〈錬金術〉ですかーっ!! いいですよ、なんでも聞いてくださいー!!」
パァっと輝くような笑顔を浮かべるアルドロン。
隣のベルナベルは平然としているが、ちょっと前のめりになっているアルドロンに引き気味になりつつ、賢者の石について知っていることを尋ねた。
「賢者の石ぃー!? 魔王様、賢者の石を作ろうとなさっていらっしゃるー!?」
「そうだ。賢者の石があれば、この世界と魔界とを繋ぐことすらできるらしいじゃないか。せっかく〈錬金術〉のスキルが手に入ったし、作れないかな、と思ってな」
「偉い!! それでこそ錬金術師!!」
「ん?」
「えー、コホン。よろしいですか、魔王様。錬金術師の最終目標のひとつである賢者の石ですが、材料はおおよその目星がついています」
「なに、マジか」
「マジなんですよーこれが。ええとオリハルコン、エリクシール、神の力のみっつが必要だと思うんですー」
「オリハルコン、エリクシール……神の力? 前者ふたつはともかく最後のはかなり抽象的だな。具体的にどんなものなんだ?」
「神の力は神の力です。神の力が強くこもったものならなんでも良いんですよー」
横で聞いていたベルナベルが「どれも一筋縄ではいかない代物ばかりじゃな」と呟く。
しかし俺はそうでもないことを知っていた。
「実はオリハルコンとエリクシールはダンジョンのかなりレアリティの高い宝箱から入手できる」
「ほう。では主は運次第で入手できるのか?」
「いや。俺の魔力じゃ到底、手が届かない。だがこの世界にある最も深いダンジョンでなら、入手の可能性があるかもしれない」
ローレアに婿入りした〈代理人〉の知識によれば、未だに最下層に降りることができないでいるかなり深いダンジョンが存在しているとのことだ。
大迷宮と呼ばれるそれは、中央山脈にあるため挑む者も少ないが、宝箱を求めて幾つかの金ランク冒険者パーティが入っているそうだ。
そこの深い階層でなら、もしかしたらオリハルコンとエリクシールを入手できるかもしれない。
俺とベルナベルの会話にアルドロンは色めき立った。
「魔王様、オリハルコンとエリクシールの入手に心当たりがあるんですかーっ?! 凄いです!!」
「まあな。だがとんでもなく強い魔物との連戦が待っているだろうから、……ベルナベル頼りになりそうだな」
「ベルナベル様なら余裕ですねー。あのあの、私も賢者の石の錬成、興味あるんですけどー」
「まだオリハルコンとエリクシールの入手は希望段階で、確定じゃない。それに最後の神の力とやらには心当たりがない」
「そうですねー。神の力なんですから、この世界じゃ創世の女神から入手するしかないでしょうねー」
「創世の女神、か……」
聖痕を捧げたときに、もう二度と会うことはないでしょう、なんて言われたんだよな。
しかし本当にこの素材で賢者の石が作れるのだろうか?
「なあアルドロン。どうやって賢者の石の材料を推定したんだ?」
「はいー。それは私の長年の研究の成果の一端ですねー。賢者の石は固体であり液体でもあるというところから、この世界で最高品質の固体であるオリハルコンと最高品質の液体であるエリクシールを合わせればいいと考えたんですー。でもそのふたつを完全に混ぜ合わせるには、どうしたって神の力くらいの奇跡的な何かが必要だと思うんですよー」
「よく分からないが、神の力と同等のものなら、別に神の力じゃなくても構わないのか?」
「そんなものがあるんですかー?」
「…………いや、言ってみただけだ」
目をキラキラさせているアルドロンを置いておいて、俺はベルナベルと相談する。
「素材についてだが、どう思う? ベルナベルの意見が聞きたい」
「わしは〈錬金術〉には詳しくない。しかしここで最も詳しいであろうアルドロンが言うのじゃから、可能性はあると思う。どうせ暇なんじゃろ? 研究してみればよかろう」
「そうだな。よし、アルドロンありがとう。お陰で少し前進できた」
アルドロンは「いえいえー」と言いながら照れた。