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103.その長い黒髪を撫でた。

「主!?」


 ベルナベルの声が聞こえる。

 どうやら隠れ家に戻ったようだった。


「ベルナベル。安心してくれ。すべて終わった」


「……そうか、聖痕はすべて創世の女神に渡ったのじゃな?」


「ああ。地球人たちは俺を残して、全て故郷へ帰還させた。死者は例外だが、……まあ望んだ通りになったよ」


「そうかそうか。それならば良かった」


 ベルナベルが俺に抱きつく。


「まったく創世の女神め。契約悪魔を除け者にするとはな。本当に性根が腐っておるわ」


「俺もベルナベルが一緒でなくて心細かったよ。そこだけは想定外だったかな」


「どうせ狭量な女神のことじゃ。悪魔を自分のテリトリーに入れたくなかったとかそんな理由じゃろ」


「そうかもな」


 俺はベルナベルを抱きしめ返して、その長い黒髪を撫でた。




「コウセイさん。オーバン商会の会頭さんがコウセイさんにご用があるって……」


「そうか。……義父さん、厨房を少しお任せしますね?」


 義父のチェスカルはチラリとこちらを見て、頷いた。


 俺はクロエとともに宿の食堂に出る。

 そこにはオーバン商会会頭であるレイドリック・オーバンが、俺を待っていた。


「タクミはおらぬか? この宿に宿泊しているはずだが……」


「いません。タクミなら故郷に帰りました」


「なに? いつ、なぜ……」


「それは私では答えられない質問ですが……とにかくタクミはもうここにはいません。そして、二度と帰ってくることはないでしょう」


 レイドリックはずずいと迫り、「そんなはずはない!!」と言った。


「タクミは故郷は遠すぎてもう帰る手段はない、と言っていたのだぞ!?」


「そのタクミが幸運にも故郷へ帰れてしまったので、遠すぎてもうここへは戻ってこれなくなったんです。それ以上は俺もお答えしようがないのですが」


「くっ……ならば同郷のエミコとやらは……」


「そちらも同様に、故郷へ戻れたはずですよ」


「そうか……本当に故郷へ帰れたのだな?」


「はい」


「…………分かった。時間を取らせて悪かったな」


 レイドリックは踵を返して宿を出ていった。


 クロエは不審げに「タクミさんとエミコさんは故郷へ帰ったのですか?」と俺に問うた。


「ああ。唐突だから女将さんにも何も言ってないだろう。荷物もどうなっているかな……。悪いけど確認してもらえるかな?」


「分かりました」


 クロエはパタパタと女将さんのところへ向かった。




 サキュバス娼館は領主肝いりの事業として、利益を見込んで始まった。

 もちろんそれは表向きの話で、主導しているのは俺だ。


 ローレアとの結婚を控えている俺が娼館を開業する事業を主導するというのは、さすがに外聞が悪すぎたので仕方のない話だから何も不満はない。

 むしろ精を求めていたサキュバスたちに早めに居所を作ってやれたことの方がありがたかった。


「私の未来の旦那さま? まさか私を放置して娼館で遊んでこようなどとは思っていませんわよね?」


「ないない。有り得ないよローレア。君に我慢を強いているのに、俺だけが楽しんでくるなんてことはないから」


「な、ならよくってよ」


 ローレアは頬を膨らませながらそっぽを向いた。

 肩を抱き寄せて、軽く頬に口づけをする。


「……もう。早く結婚したいわ」


「そうだね。もう少しの辛抱だから、待っててくれよ」


 パっと離れてローレアは「責任はちゃんと取ってくださいましね、ご主人様?」と言った。




 カーシャはフリルの付いたエプロンを身に着けて、料理をしていた。

 俺はそのカーシャの姿を見ながら、食卓で料理の出来上がりを待っている。


「もう少しお待ち下さい、コウセイさま」


「ああ。慌てなくていいからね。火傷に気をつけて」


「はいっ」


 この時間が至福だと、俺は知っている。

 きっとカーシャも。


 いつも通りの幸せ。

 変わらない幸せがここにある。


 俺は思わずほころびそうになる顔を引き締めながら、カーシャの後ろ姿を堪能した。




「今日は何のお祝いなんですか?」


「個人的なことなんだけどね。一通り、終わったから」


「……?」


 マニタは首をかしげる。

 切り分けられたレッドキャトルの肉のうち一部を、今日はフライパンでステーキにしてくれている。

 まだ数の少ないレッドキャトルを一頭、潰すのはなかなか勇気がいることだったが、聖痕をすべて集めきった記念としては悪くないだろう。

 肉の半分は黒影族に渡して、残る半分は〈アイテムボックス〉に保管することにした。

 ベルナベルが食べたがっていたから、マニタに何枚か追加で焼いてもらおうと思う。


 そういえばドラゴンの肉もあったな。


 熟成が足りないとかで冷暗所で氷漬けにされて保管されているはずだ。

 しばらくは美食に困らないだろう。


「マニタ? ステーキが二枚あるのだから一枚はマニタの分だよ?」


「え? 私も食べてもよろしいのですか?」


「もちろん。黒影族にも分けているのだし、マニタだけ食べられないなんてことはないよ」


「そ、そうですか。ありがとうございます……」


 メイド服姿のマニタは、自分の皿を出してステーキの一枚を取り分ける。

 さて美味とされているレッドキャトルの味やいかに。




「ところで主。今晩はわしと肌を重ねる日じゃぞ」


「そうだな」


「ささ、ベッドへ参ろうぞ」


「分かった。袖を引っ張るな」


 俺はベルナベルに導かれるようにしてベッドへ向かう。

 黒のゴスロリがスルリとほどけて消えた。


 一糸まとわぬ白い肌のベルナベルが、俺を抱きしめる。


「さあ長い夜の始まりじゃ!!!!」


 互いに睡眠不要なので、本当に長いのだ、これが。

 俺は快楽に溺れながら、日が昇るまでベルナベルを貪った――。


 第一部「聖痕収集編」完結です!

 第二部以降の構想はありますが、形になっていないため一旦、本作品は完結とさせていただきます。

 まだ拾っていない設定もありますし、地球人がコウセイひとりになってからの世界はどうなるのか、そもそもまだ最強と呼べないだろ、などなど色々あるので続きを書きたいのですが。

 ちょっと今、手が止まっているので動き出すまで時間がかかりそうです。

 続きに関しましては期待せずにおいてください。

 というわけで、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

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