やり直しシステム
私は神経を指先に集中させ動かせるか確認した。ピクリと指先が動いた感覚で、どうやら体は動かせそうだと判断した。
ユックリと体を動かし起き上がると、やはり少し気持ち悪い。
「あの…今の…何ですか?」
「今のって?」
「間違えた…って何をですか?」
私は軽薄な神様を改めて視界に入れた。キョトンと首をかしげる神様は真っ黒な装いだった。
漆黒の髪の毛はボサボサで長くて目が隠れているし、身に纏う衣服も黒いローブだ。
「あー、間違えてキミを死亡させてしまった話かな?」
「それです!肝心な事抜けてましたよね?」
間違えた!から急に話が飛んだ気がしたのだけど?死亡って単語消えてたよね?
「いやー、本当にゴメンね!実は…最近忙し過ぎて疲労困憊でさ。神の世界も部署によってはブラックだからさ」
(部署?)
「本当はキミの横にいたご老人の御霊を頂くハズだったんだけど、眠気で手元が狂ってしまってね…うん」
(この神様…って…もしかして)
「…死神…ですか?」
恐る恐る確認する。すると神様は驚き嬉しそうに笑った。
「そうでーす!死神に最近配属されたばかりの新人死神です!」
「(だから!軽すぎるから!ってか)神様に異動とかあるんですか?」
「闇落ちした神の職場なんだよね、死神業務って」
「闇落ち?アナタが?」
全くそんな感じに見えない。闇落ちした神がそんなに明るく対話するだろうか。常識的に考えて、それは無いだろ。
「病んだ時の記憶は無いからね」
「え?」
「まぁ、まぁ、自分の事は置いといて…」
それはそれで気になるのだが。
「お詫びと言うのも何だけど、転生先を優遇してあげようと思って!チャンスは3回までね」
突然の申し出に一瞬止まる。お詫びで転生先を選べるって何?
「仮体験は1年分だけで、選ぶ人生が決まったら誕生から始まる感じだからね」
「仮体験?」
「今のキミと同じ年齢で体験して決めてくれれば良いよ。2つの人生を体験して3度目に寿命を全うする感じ」
「はぁ?そんな事が出来るんですか?」
「最近死神部署のミスが多くてクレーム増えちゃってて、その対応策でやり直し人生選択やらせてもらってます」
「死神業務大丈夫ですか?ミス多発なんてダメでしょ…そもそも反省してますか?自分がやらかした事に対して」
逆にクレームになりそうですが?その軽さ。私は呆れてタメ息をついた。選ばせてくれるのは面白そうだからちょっとラッキーとか思えるのだけど。
チラリと死神様を見るとキョトンとしていた。もしや反省していない?
「自分やらかしてないんで」
「…やらかして私を死なせたんですよね?」
「部下がね」
話口調からして自分の事じゃないのか?と、首をかしげる。それに気付いたのか死神様は手をポン!とさせた。
「あー!えっと、語尾に【部下が】と付け加えていただけたら!」
「は?」
えっと『あー、間違えてキミを死亡させてしまった話かな?部下が』『そうでーす!死神に最近配属されたばかりの新人死神です!部下が』って事なんだろうか。
「そういう事で上司であります、私が持つ特権でやり直し人生システムを実施させていただきます。ちなみに先程までの口調は…キミを怖がらせない為だったのだけど」
「え?そうなんですか?」
「…同僚に怖いと…釘を刺されたので、陽気な感じで…対応させていただきました。自分…人間の女性は苦手なので...」
それであの軽さで対応出来るのもスゴいと思うのだけど。気まずそうに視線を反らす死神様が少し幼く見えて可愛いく思えた。
よくよく見るとイケメンな体をしている気がする。顔をもっと見せてくれたら良いのに…。
「話が脱線してしまいましたが、まずはどの人生を歩みますか?」
「あー…えっと、何があるんですか?」
「無理が無い範囲なら要望のままに」
全て自分が選ぶのも迷うな。欲張りが出てしまいそうな…。ただ、今が日本人女性だったから他の人生を体験してみたいのもある。例えば今流行りの異世界転生とか?
「異世界転生とか出来ますか?」
「異世界?…あー…地球以外の土地って事ですか?出来ますよ、色んな世界がありますからね。お互い認識してなくて干渉出来ないだけで」
異世界ってそんな感じで存在しているのか。
「どの世界を希望しますか?」
「魔法が使える世界を体験してみたいです!」
「…本当…魔法が好きなんだね…」
死神様は優しく笑った。もしかしたら私、はしゃぎすぎた?ちょっと恥ずかしくなる。
「では、キミの人生…もう一度やり直してください」
それ以上の要望を特に聞くこと無く、死神様は光を発した。
(え?細かい設定は無しですか?欲張りはダメ?美少女とかお姫様とか…無し?)
「よき1年を」
まずは魔法が扱える世界へGO