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厳選短編集

双子伯爵令嬢の入れ替わりティーパーティ

作者: 白夜いくと

 わたくしの妹は、何でもわたくしの真似をしてきます。化粧も着物も髪型も……。おまけに一卵性の双子だから、姿もそっくりなのです。

 しかし、唯一違う点があります。それは一つの首筋のほくろ。小さな星形をしています。これはわたくしにしかありません。妹はそれに気づいていない様子。


 何故なら、長い金の髪でそれを隠しているから。


「エルザお姉さま! また恋文を頂きましたの?」


 この声もわたくしとほぼ同じで、妹のものです。恋文。そう、わたくしは16歳にして、悩んでおりました。リヴァイ第二王子からの熱すぎる求婚に。伯爵家であるわたくしが断ることなど、断じて許されないのですが……。

 わたくしは溜息をつきながら、


「ええ。でも、あの方は、性格が傲慢で押しが強くて苦手なのです」


 そう言いました。妹は子どもの頃から交流のある王族に興味があるらしく、「あーうらやましい!」と嘆いていました。それでも、嫌なものは嫌なのです。


 わたくしは、ソファーに座って恋文の内容を確認しました。内容は、数十枚に渡るわたくしへの愛の言葉と、近々行われるティーパーティにわたくしたちを招待してくれるというものでした。


(こういうところが嫌ですのよ……)


 まず恋文の内容。「俺様の物になってくれないか」とか「俺様は真実の愛を知っている!」とか、薄っぺらい内容で最後まで読む気になれません。

 

 こんなにもリヴァイ第二王子がわたくしに執着しているのには、訳があるのを知っているだけに何とも……。リヴァイ第二王子の兄、ジェームズ第一王子とわたくしが仲良しなのを快く思っていないのです。ホントに、それだけなのです。意地っ張りですね。


 妹は、リヴァイ第二王子からの恋文を穴が開くまで見ていました。その姿は乙女そのものです。彼女はわたくしに、


「ねぇお姉さま。ティーパーティにはどのような容姿で参加しましょうか!」

 

 そう言ってきました。何でもお揃いにしたがるのね。もう慣れましたわ。……っと、そこでわたくしは妹に一つの提案をしてみました。


「エリー。わたくし、ちょっと面白いことを思いつきましたわ」

「何ですの、お姉さま」

「ティーパーティの時だけ、このエルザの名を使ってみませんこと?」

「え。お姉さまの名前を?」


 妹のエリーはきょとんとしておりました。でも、姿も身長も翡翠の瞳の色も何から何まで同じなら、他人からとっては同じ者のはず。

 リヴァイ第二王子のいう「真実の愛」とやらが本当なら、この事に気づくでしょう。うふふ。エリーは、大そう喜んでいました。そんなに誰かになりきることって楽しいのかしら。


 そして、ティーパーティの日。

 芳ばしく新鮮なハーブの香りや、甘いミルクや砂糖の香りに合わせて、ピアノの演奏が鳴っておりました。ティーカップの奏でる音色は鈴虫のようにあちらこちらで響いています。

 

 私と妹が二人そろっているところに、リヴァイ第二王子が気合の入った服とすました顔でやって来ました。自信家ですね。

 彼は、


「おやおやぁ~? エルザちゃんが二人もいるね。どちらが本物かなぁ?」


 そう言うと、品定めするようにわたくしたちを見てきました。妹は、その様子がおかしくて、つい笑ってしまったようです。その笑顔が気に入ったのか、リヴァイ第二王子が選んだのはエリーでした。


 妹は、良い遊び相手を見つけたようで、意気揚々と彼と一緒にダンスや会話などを嗜んでいます。わたくしにもお相手は居たものの、こういう場は好きではないのです。


 わたくしは、こそっとパーティ会場を抜けて、花や草木を眺めていました。スーッと抜ける風が心地よく、とても居心地が良いのです。


 ――パキッ……、


 何でしょう。枝か何かが折れる音がしました。条件反射で振り返ると、そこにはジェームズ第一王子が立っていました。わたくしは、エリーになりきって、


「花が綺麗ですね。ジェームズ王子!」


 と、元気に言いました。彼も騙されたら、わたくしに対しての本音を言ってくれたりするのでしょうか。気になりますわ。

 ジェームズ第一王子は、ひざを折って赤いバラの花を眺めながら、


「ああ。綺麗だ」


 そう言いました。ちょっとだけドキドキします。わたくしとエリーが入れ替わったことに気づいていないのでしょうか。普段なら、「花なんて興味がない」と言うのに。

 ジェームズ第一王子は、スカイブルーの瞳で、わたくしの方を見ると、


「……エリー。少しだけ話をしてもいいか」


 そう言いました。その目は真剣そのものでした。王族たるもの悩みの一つや二つはありますよね。ここは、


「なんでもお話しください」


 そう返さなくては。

 ジェームズ第一王子は、わたくしの返答を聞くと穏やかな顔で話し始めました。


「私には、好きな人が居る。君のお姉さんのエルザ……」


 え。

 

「どうかしたのか」

「い、いえ! 何でもありません‼‼」


 え~!?

 仲が良いとは思っていたけれど、こんなにストレートに言ってしまえるものなのですか!? どんな顔をすれば、どんな顔をすれば……!


「エリー。大丈夫かい? ナッツみたいな顔して」

「わ、わたくしはいつもこのような顔をしております!」


 ごめんねエリー。きゅっと顔をすぼめたら、ナッツのようだと言われてしまいました。ジェームズ第一王子は、「じゃあ、話の続きを始めるね」と言いました。


「エルザは、子どもの頃から大人しくて賢い女性なんだ。それに、ころんだ僕の膝に薬を塗ってくれる優しい女性でもある。あまり社交的でない僕にも声をかけてくれるし。……でもなんだか今日は、リヴァイと一緒にいる方が楽しそうで、ちょっと悔しいんだよ」


 あら。嫉妬されているのかしら。目の前に好きな人が居るというのに。ということは、もしかしてエリー役をしているわたくしと相手がしたいということかしら。

 だとしたらわたくしは断固拒否しますわよ。なぐさめに使われるような妹が可哀想だもの! ジェームズ第一王子は、ふくらんだ私の頬をみて、


「リスのようで愛らしいな」


 と笑いました。

 これは口説く気満々ですわね。そうはいきませんわよ!


「リスだって、威嚇のために噛みつくことはありますわよ」

「……ふふ、君も賢いね。お姉さんそっくりだ」


 私が本物のエルザですからね! ついでに妹の株も上げておきましょう。ジェームズ第一王子は、話を続けます。


「彼女には、ちょっと可愛いほくろがあってね」

「……お姉さまに?」


 バ、バレているですって!? あのほくろ。妹のエリーでさえ気づかなかったというのに! 口元に手をあてて驚く私を見て、段々ジェームズ第一王子の表情が真剣になっている気がします。

 

「また、花や草木を見るのも好きだ。そして控えめな性格で、本来ならリヴァイの誘いに安易に乗ったりなどしない」


 うーん……。

 ここまで来ると、きっともうバレているのですわ。わたくしは覚悟を決めて、真実を述べようとしました。

 そうしたら、ジェームズ第一王子は、


「言わなくていい。僕はエルザを愛している」


 とだけ言って、その場を立ち去ろうとしました。


「待っ――」


 引きとめようとした瞬間。強い風が花や草木を揺らしました。長い金の髪もブワッと乱れてしまいます。


(ほくろを見られてしまいますわ!)


 ジェームズ第一王子は、戸惑っているわたくしを見ると、フッと笑って、


「ほら、時折見せるそんな姿が愛おしい」


 そう言いました。

 


 ティーパーティが終わり、自室の中で妹のエリーと話し合います。


「お姉さま。今回のティーパーティは面白かったですわね♪また入れ替わっても良いかしら」

「……わたくし、髪を切ろうと思いますの」

「え! 失恋でもしましたの!?」

「……気分転換です」

「じ、じゃあわたくしも切りますわ!」

「良いですわよ」


 首筋のほくろは、見る人にとって、唯一無二の存在ですもの。隠すのは勿体ないものね。それに、まだちゃんとした求婚をされておりません。

 ジェームズ第一王子。その時は、どうかよろしくお願いします――――

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― 新着の感想 ―
[一言] 第一王子のラストの台詞が実に良いと思いました。 こうやって、騙されてるふりして見極めて情熱的な言葉をそっとかけてくるところとか、そういうのが本当の意味での真実の愛ってやつなんじゃないかなと…
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