1-9.水晶への魔力供給
「ここよ。 やっと着いた。」
アビーたちは、滑る苔の岩を超え、木々をかき分けるよう抜け、ようやくその場所に、たどり着いた。 森の奥深くの、小さな湖。 その湖のほとり・・・ 岩壁に不自然に開いた大きな穴・・・ ほこら である。 だが、不思議なことに、祠の中は きれいに清められていた。 このような森の中で、開け放しの入り口であれば、森の虫や動物、野獣が 入り込んでも おかしくないというのに。
入り口の壁には、小さな黒い透明な石が埋め込まれてある。 アビーの小さな手が、それに触れよう・・・ として、止まった。 そうして、アビーは振り返ると、ルナに言う。
「ルナっ、これ 触って! たぶん、属性判別水晶と 同じ性質を 持ってるはず。」
「えっ、属性判別水晶? これ 色が黒いよ。 それに、なんで こんなところに あるの?」
「いいから、魔力を通してみてっ。」
ルナは、手を水晶にかざし、そっと触れる。 そのまま グッと魔力を通した。 黒水晶から光があふれる。 赤色・・・。 少し弱い青色・・・。 そして非常に弱い黄色・・・。 ルナは、火魔法が得意で、水魔法は苦手。 土魔法は、素質があるとは思えない。 そういう適性が見て取れる光り具合だ。
「ホントだっ。 面白いね。アビー? これって、南の賢き魔女の 残したものかな?」
面白そうに、黒い水晶をなでるルナ。 その後ろから、イヴリンを支えるように、追いついて来た オリバーが、アビーに 言う。
「おいっ アビー。 ここは、なんなんだ。」
「たぶん、ルナのノートにあった、聖なる魔の祠よ。」
「えっ? 聖なる魔のほこら・・・。 それって、最後のチェックポイントの先に あるんじゃなかったっけ?」
[風と水の魔法使い] 【 1-9.最初のチェックポイント 】
オリヴィアたちが、最初のチェックポイントに 到達した時には、スタートから すでに60分ほどの時間が 経過していた。
「一応、俺たちが1位みたいだな。」
「どうだろ? 出発時間を差し引いたら、たぶん、1位は無いわよ。 あれだけ 採取に時間を使ったんだもの。」
「でも、ケイシー。 採取した ウィッチベイビーズブレス草は、欲しいだろ?」
ヨークが、ふわふわとした 小さい可愛らしい白い花のついた草・・・ ウィッチベイビーズブレス草だ・・・ それが、何本も入った採取瓶を振る。
「当り前よ。 『呪われた無垢の感謝と幸福の薬』は、ウィッチベイビーズブレス草が無ければ 作れないのよ。 それとも、ヨークは いらないの?」
「もちろん、必要さ。 よく、オリヴィアは、この花が あんなところにあるのに 気づいたね。 普通は、5月から7月に咲く花なのに。」
「偶然よ。 なんか白い花があるな って 触ってみたら、ジェイコブが、ウィッチベイビーズブレス草だっ て 気づいたんだもの。」
「まぁ、オレの親父は、魔法植物の研究家だからな。 そのくらいは、見ればわかるよ。 ただ、見つけたのは、オリヴィアだ。 本当は、もう少し暖かくて 石炭質の土の場所でないと、生えてないから、注意して探していないと、見つけられるものでは ないと思う。」
「なによ。 オリヴィア、オリヴィアって。 私だって、注意して探してるんだからね。」
「ケイシーは、マジックキノコを踏んで、爆発させてたからな。 すごく注意力があると 思うね。 ハハハハ。」
「もぉ、あれは、ジェイコブが、後ろから 押したからじゃないの。 普通にしてたら、あんなの踏まないわっ。」
「あっ、魔力の供給が終了したみたいだ。 次は、ジェイコブだな。」
ヨークが、チェックポイントの水晶から手を離した。 この水晶に、4人分の魔力を供給し、水晶に、魔力を満たすことで、チェックポイントの通過が、認められる。
「これってさ、1人が4人分、供給したら ダメなの?」
「ケイシー、先生の話を聞いてないだろ? 4人分の波長の魔力を、同じだけ供給して、水晶を満たさないと、光らないんだよ。」
「聞いてるわよ。 ちょっと忘れてただけ。 光ったら、持って帰れば いいんだよね?」
「そうだな。 おっ、終わった。 次は、オリヴィアだ。」
オリヴィアが、チェックポイントの水晶に 魔力を流す。
「面白いな。 指先を当てて 供給するんだ。」
そう、ヨークと、ジェイコブが、水晶に手の平をかざし 魔力を供給したのに対して、オリヴィアは、指先をあてて、水晶に魔力を込めている。
「なんか、時間が かかりそうね。」
「私、魔法と一緒で、指先でしか、魔力を放出できないの。」
「気にしないでいいよ。 ナイチ先生も、時間をかけて魔法効率を上げていけば、いいって言ってたし。」
「そうだな。 たぶん、指先だけでも、ケイシーとそう時間は、変わらないだろっ。」
「そんなことないわよっ。 だいたい、ヨークとジェイコブが 早すぎるのがおかしいのよ。 私と、オリヴィアが普通なのっ。」
魔力放出の技術は、訓練によって改善できるものの、魔法のセンスが物をいうのことは、いうまでもない。 ヨークとジェイコブの水晶への魔力供給が、早く終わったことは、2人の優秀さをあらわしている。
「あっ、おわった。 ケイシー、ごめんね。 時間をかけちゃって。」
「気にしなくていいのよ。 なんだかんだ言って、採取にかかった時間の方が、長いんだし。」
「あれ? ケイシー、まだ、供給おわらないのか? おっせぇなぁ。」
「いま、始めたばっかりよっ。 無茶苦茶 言わないでよ。」
「ジェイコブは、いつも、ケイシーに絡むよね。」
「ははっ、好きな子に イジワルするって やつだな。」
「おいっ、ヨーク。 そんなわけないだろっ。 なに ふざけたこと言ってるんだ。」
「もぉうるさいなぁ。 私が、魅力的なのが悪いんでしょ。 ごめんね。ジェイコブ。 あぁ、美しいって、罪だわぁ~。」
「ふざけんなっ。 お前なんかより、オリヴィアの方が、可愛いに 決まってるだろっ。」
「もぉ、照れちゃって。 それに、オリヴィアに手を出したら、ヨークに 殺されるわよっ。」
「ちょっ・・・。」
ヨークとオリヴィアは、顔を見合わせ・・・ そして、オリヴィアは、真っ赤になって ぱっと目を伏せた。
「いや・・・そうだな。 オリヴィアに手を出したら、ジェイコブでも、許さないね。」
ヨークは、そう言って、オリヴィアの手を取った。
「オリヴィア、ボクじゃダメかな?」
「えっ? その・・・ 私なんかが・・・ ヨークと?」
「うん。 オリヴィアがいいんだ。」
「ちょっと、私、水晶から手を離せないんだからね。 目の前で、そういうのしないでよ。 ちょっとは、気を使ってよね。 あっ、ジェイコブは、私に、言ってくれないの?」
「おいおい、2人には、目の前でするなって 言っておいて、オレには、2人の目の前で、言えっていうのか? おかしくないか?それ。」
「そうね、じゃ、帰ってから、言ってくれるのかな・・・って、なにっ これ?」
うっそうと茂る 木々のせいで、少し 薄暗かった 森の中が、急に明るくなった。 突然、水晶が、光を放ったのだ。
「あぁ、水晶が 4人分の魔力で 満たされたんだよ。 ケイシー、取り外して それを こっちに渡してくれるかな?」
「よいしょっ。 わっ、重いよ。 これ。」
ケイシーは、石にハマった水晶を外し、ヨークの カバンの中に 放り込む。
「これってさ、オレらが、チェックポイントにある水晶を 全部、外して 持っていったら、勝ちじゃね?」
「バカじゃないの? ジェイコブって。 それをしたら、魔力切れで、次のチェックポイントの水晶を 光らせることが 出来なくなるわよ。」
「うんうん。 ズルは、良くない。 ただ、考え方は面白いと思う。 ボクは、そういうの思いつかないから。」
「そう思うだろ。 オレは、ヨークより、頭が いいんだよっ。」
「ジェイコブは、バカだって。 オリヴィアもそう思うでしょ?」
「ううん。 ジェイコブも、ケイシーも、頭いいと思う。 私、水晶を 全部持って行くなんてアイデアも、それをしたら 魔力が足りなくなることも、思いつかなかった。」
「そうね。 私は、頭いいもん。 ってか、水晶って、結構重いわよ。 今のは、ヨークが運ぶんだから、次のチェックポイントのは、ジェイコブが、運びなさいよ。」
「あぁ、元々そのつもりだ。オリヴィアと、ケイシーは、持たなくていい。」
色々な素材を採取した小瓶や、チェックポイントの水晶。 そんなものをたくさん詰め込み、ちょっと重くなった ヨークのカバンとともに、オリヴィアたちは、第1チェックポイントを通過。 次のチェックポイントへと 向かうのであった。
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