2-43.【閑話】王都の液晶ビジョンエイプリル放送局を救え!
「ケイシーさん、王都の魔法道具地上波液晶ビジョンエイプリル放送局を救うことができるのは、あなたしかいません。お願いしますっ!」
普段は、ただのエセクタ魔法魔術学院の魔女。
しかし、ある時は、多くの男性を魅了し虜にする絶世の美女。
またある時は、美しすぎる映像制作プロデューサー。
私の名は、ケイシー・リィデング・エトガンっ!
そんな私に情熱的な口説き文句で、私に依頼を申し込んできたのは、液晶ビジョンエイプリル放送局の制作統括であるライアーヌさんであった。
[風と水の魔法使い] 【 2-43. ケイシー奮闘する! 】
不祥事により、王都のエイプリル放送局は、現在、多くのスポンサーよりCMを止められて苦境に陥っていた。
そんな私の元に、飛び込んできたのが4月改変の新番組企画の依頼。
仕方がない。引き受けることにしよう。
だって、この苦しい状況を打開できるのは、私しかいないのだから!
用意されたかぼちゃの馬車に乗りこんで、王都へと向かう。
しかし、そこで私が出くわすのは、かつてないほどの苦難の道であった。
わんっ!わんわんわんっ!
な・・なによ、この犬っ!
エイプリル放送局番組制作室の一角に部屋をもらった私を襲ったのは、3匹の犬であった。
1匹は、私が馬車の中で考えて書き連ねてきたアイデアメモを全て破り散らかしてしまう。
1匹は、私につけられたスタッフに襲い掛かり、誰彼構わず噛みついてケガをさせる。
最後の1匹は、小さな子犬だったが、なんとテーブルの上に飛び乗ってウンチをしはじめたではないかっ!
ちょ・・・番組を作る段階じゃないって!
「調教師っ・・・いや、保健所よ。保健所っ。このけだものを殺処分してっ!」
声を張り上げるけれども、スタッフ一同逃げ回って自分の身を守るのに精一杯で、なんら有効な手立てを打つことができない。
人生最大のピンチだ。
私は、逃げ惑うスタッフを残して、エイプリル放送局を飛び出した。
いや、外に逃げたわけではない。
ピンチは、チャンスであることに気づいたのだ。
外に出た私が飛び込んだのは、エイプリル放送局の向かいの建物。
いや・・この建物は、保健所ではない。
そう、ここは、お豆腐屋さんであった。
えーと・・・油揚げに、あっ、そのお豆腐で作った偽物の骨付き肉も頂戴ッ!
私は、エイプリル放送局のツケで、油揚げや模造肉を大量購入。
これを大きな段ボール箱に入れて、番組制作室の私の部屋へと駆け戻った。
わんっ!わんわんわんっ!わぉぉぉんっ!!
あぁ、もぉ現場は、めっちゃくちゃ。
しかし、もう大丈夫。
私は、大声で叫んだ。
おすわりぃぃぃぃぃぃいっ!!
右手に持つのは、模造肉。
よしっ、3匹ともぺたんと座り込んだ!
うんうん。首輪をしているから、どこかの飼い犬のはずなんだよね。
お座りやお手ができるはずと考えた私の想像は、間違ってなかったみたい。
こうして3匹の凶暴な犬を手懐けたのには、訳がある。
それは、視聴率だ。
数字に困ったら、動物を使え!
これは、映像制作の鉄則で、格言のようなもの。
幸運なことに今回は、性格はともかく、体が小さくお顔が可愛い子犬が混ざっている。
これは、天からの贈り物だ。
3匹の犬たちと、スタッフの中で可愛らしさのある女子を絡ませて、きゃはは♪うふふ♪な映像を流しておけば、数字は勝手についてくる。
全日、プライム、ゴールデン・・・視聴率3冠は、すでに私の手の中にあるようなものだ。
こうして、犬と女子が新しい家族としてきゃはは♪うふふ♪な生活を送る番組の骨格が出来上がった。
しかし、企画書を提出するだけでは弱いっ。
というのも、今回の番組作りには、競合相手がいるのだ。
悪名高き制作プロデューサー・・・その名も、ヘドファン=アリー。
企画を作ってそれを比べ、どちらを新番組として使うか。
そういう対決であったにもかかわらず、彼女は、すでに撮影に入っているという。
おそらく、すでにVTRが出来ているという既成事実を盾に、自分の映像を使わせようという魂胆だ。
いままでの、相手ならば、その手法で勝つことが出来たのであろう。
しかし、今回ばかりは、相手が悪い。
同じことをするならば、企画力の差でこちらの勝利は、間違いないっ。
私は、わざとライアーヌさんに確認することなく、番組の撮影を開始した。
うん、相手も同じことをしているのだから、文句は言えまい。
こうして、ひとつひとつのシーンを撮影していく。
もちろん、動物相手なので、予定外のハプニングは起こる。
しかし、それも想定内。
そのハプニングこそが、視聴率を上げるポイントなのだ。
だいたい、犬が、ちょっとでも反抗的な態度を取り始めたら、カメラに写り込まない場所から、油揚げや模造骨付き肉をちらつかせておけば良い。
彼らは、すぐに大人しくこちらの言うことを聞くようになる。
追加の油揚げと肉を購入するよう豆腐屋にスタッフを走らせたので、これらの在庫は、まだまだ大丈夫。
連続番組の放送期間の単位でいうとワンクール分。
週1回放送の3か月分である13本を流せるだけの撮高があれば、さすがに、ライアーヌさんもこちらを選ばざるを得ないだろう。
こうして、次々と映像データが積みあがっていく。
その時、事件が起こった!
「ケイシーさんっ、肉がありませんっ。油揚げも・・・」
えっ?さっき、追加購入したよね?
「そ・・それが・・・いきなりライリューンという女性が制作室に入って来て、段ボールごと油揚げと模造肉を持って行ってしまいました。」
やっ・・・やられたっ。
ライリューンと言えば、あのヘドファン=アリーの親友として知られている女・・・
妨害工作に違いない。
油揚げと肉が無くなってからは、散々であった。
3匹の犬は、元の通り暴れはじめたのだ。
スタッフを豆腐屋に追加購入のため走らせても、さっきの私たちの買い占めで売り切れだと追い返される・・・
ドォン!ガシャン!!!
わぁぁぁぁぁぁ、カメラがっ!
スタッフの顔は、出演している女の子を含めてひっかき傷だらけ。
カメラの被害は、4台・・・
これ、放送したところで、元を取ることは可能なのだろうか?
あぁ・・・数字に困ったら、動物を使え!
これは、映像制作の鉄則で、格言のようなもの。
しかし、もう一つの格言があることを忘れていた。
動物は、思い通りに動かないので、使うな!
これも、映像制作の鉄則なのだ。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。
ここまで来た以上、ワンクール分のVTRだけは作らなくては・・・
しかし、撮れた映像を確認しても、きゃはは♪うふふ♪どころか、もはや、犬を捕まえる何かの競技にしか見えない。
私は、これ以上の撮影を諦め・・・というか、スタッフが、もう無理だと白旗を挙げた。
出演している女の子が泣き出して、もう撮影にならなくなったのだ。
仕方ない。
ここからは、私の編集技術でどうにか放送に耐えうる映像に仕上げてみせよう。
うーん・・犬が暴れだしてからの映像が、どうしてもネックだ。
ここからの映像が無いと、撮高が足りないし、かといって、暴れ狂う犬の映像は、それまでとギャップがありすぎて使いようがない。
どうすればいい?
無理っ、無理っ、無理っ!
どこをどう切って繋げても、これがうまくいく気がしない。
ううん。だめっ、あきらめちゃ。
そうよ。私は、ケイシー・リィデング・エトガン。
いままで、成功を続けてきた美しすぎる映像制作プロデューサーよ。
きっと何とかなる。
こういう時、まずは、番組のコンセプトが何だったか考える。
えーと、犬と女の子が新しい家族としてきゃはは♪うふふ♪な生活を送る番組だったわね。
そう、春らしく新しい家族、新しい生活。
新しい・・・
そうだっ!
これが、キーワード。
新しい家族、新しい生活だわっ!
飼い主に捨てられ、野良犬として生活していた保護犬が新しい家族と出会い、徐々に心を許していく番組。
それならば、暴れる映像があっても、問題ないわ。
私は、VTRを切って繋いでを繰り返した。
逆順に・・・
「出来たぁぁぁぁぁ!」
思わず歓喜のダンスを踊りそうになる。
危ないっ。
誰かに見られたら一生モノの黒歴史になるところだった。
さぁ、あとは、出来た映像データをライアーヌさんに見てもらうだけ。
逆順の編集にしたため、暴れ者だった保護犬が、女の子の献身的な愛でおとなしくなっていく心温まる13話の物語になっているはずだ。
っと、立ち上がった時、私の後ろのドアが、大きな音を立てて勢いよく開いた。
バタァァンッ
「ケイシーさんっ!一体どういうことですか?」
鬼の形相をしたライアーヌさんは、なぜかアフロヘアになっていた。
そのアフロに隠れるように後ろに立っているのは、出演したうちの女子スタッフ。
「え?新番組の映像なら、今できたところですよ。」
私は、編集したところのVTRをまとめた塊を指さした。
「違いますっ。エイプリル放送局が、苦境に陥っている理由は、説明しましたよね?番組を担当していたエグゼクティブディレクターによるパワハラですっ。なんですか?無理やり番組に出演させられたスタッフは、顔に一生モノのキズを作り、制作スタッフの半数が、狂犬病の注射さえしていないと思われる犬に嚙まれたとか・・・」
あ・・・そういえば、首輪は確認したけれども、注射したっていう証明は、ついていなかったな・・・
そんなことを考えている間につかつかとライアーヌさんが近づいてきて、私の襟首をつかんだ。
「あなたを呼んだのは、私の判断ミスでした。無断で使った経費は、エセクタ魔法魔術学院のケイシー・リィデング・エトガン宛に請求しますからねっ!」
そういうや否や、ずりずりと音をたてて床の上の私を引きずる。
ぽいっ!
あっという間に、私は、部屋というか・・・エイプリル放送局からつまみ出されて転がった。
茫然自失とは、このことだ・・・
暦の上では春を過ぎたとはいえ、風は、まだ冷たい。
地べたに座り込み震える私を、小さな女の子を連れたお母さんが、横目で見ながら言う。
「ダメっ、見ちゃだめよ。目を合わせちゃダメだからね。」
そそくさと、立ち去る親子連れを見る私の前に、さっきまで私の指示で動いていた番組スタッフがあらわれた。
あぁ、私の頑張りを分かってくれるスタッフも居たんだ。
少し救われた思いになった。
しかし、そのスタッフの右手にあった紙きれを見て私は、絶望に包まれた。
そう、1枚の紙が突き付けられたのだ。
請求書
エセクタ魔法魔術学院 ケイシー・リィデング・エトガン様
金 1、000、000、000、000 -
支払は、4月1日迄となります
おでこの上にペチリとのせられた紙を慌てて両手でつかみ、ゼロの数を確認する。
ひゃ・・1億っ?!
そ・・そんなお金どこにあるのよっ!
紙を両手につかんだまま、ショックであおむけに倒れた私のおでこを、さっきの妨害犬3匹が、ぺろぺろと舐めるが、追い払う気力もない。
どれくらい時間がたっただろう?
星がきれいだなぁ・・・と夜空を眺める私の前に、親友がやって来た。
「ケイシー、大丈夫?」
「お・・オリヴィア。ねぇ、聞いてっ。大変なことになったの。助けてっ!」
「うん。知ってる。でもね、私は、1円も出さないからっ!自分で支払ってね♪」
* * * * *
「ちょっと、待ってぇぇぇぇ。あなたは、『悲嘆する安らぎの興奮薬』の新処方でお金が、がっぽがっぽ入ってくるんでしょ?1億くらい出してくれてもいいじゃないっ!」
叫んだ 瞬間、目が覚めた。
寝汗がひどい。
「どうしたの?ケイシー、ずいぶんうなされていたけれど・・・大丈夫?」
オリヴィアが、心配そうに 声を かけてきた。
夢・・・。 ずいぶんと ひどい内容の夢だった。
絶対、途中まで書いていたエセクタ魔法魔術学院文芸部の話のほうがマシだ。
もし、これが小説なら、読まされる読者が、かわいそうなレベル。
「大丈夫よ。ちょっと悪い夢をみただけ。」
私は、親友にそう答えてベッドから立ち上がった。
☆ ☆ ☆
こうして、平和が戻ったように見えたのだが・・・
さて、その部屋の隅っこのこと。
「えっ?何?この請求書・・・ヤバっ!ケイシーって、1億も借金があるの?近づかないようにしなきゃ・・・」
ルナが、ケイシーの机の上にあった1枚の紙きれを見ながらなにやら呟いていたことに、ケイシーが気づくことは、無かった。
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