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1-8.アビーの出発

 先頭の4人が出発した後、アビーたち4人は、1冊のノートを広げていた。 クラスで一番、座学を得意とするルナが、魔法の森について調べたことを 書き込んだノートだ。


 突然、風が舞う。急に空が暗くなり、雲が太陽を隠したのだ。


 風で、ノートのページがどんどんと、めくれてゆく。 空を飛んでいた小鳥たちが、一斉に姿を消した。 森に音が無くなり、世界が、この瞬間だけ止まったかのようであった。


 再び太陽の光が射した時、森の奥から大きな笑い声が聞こえた。 先に出発したオリヴィアたちのチームの声だろう。


「あら? あの子たち、ずいぶんと 余裕がありそうですね。」


 アメリア先生は、眼鏡のふちを キラリーンと光らせて、そうつぶやいた。




[風と水の魔法使い]  【 1-8.きっちり4等分だからね 】




「それでは、アビー、準備はいいですね。」


 アメリア先生が、声をかけた。 アビーと、寮で同室のルナ、そしてオリバーとイヴリンの らぶらぶカップル。 この4人組のチームが2番手だ。


「準備できています。 出発していいですか?」


「はい。 それでは、スタートしなさい。 気をつけて頑張るのですよ。」


 アビーを先頭に、ルナ、そして、オリバーとイヴリンは、並んで森の中へと入って行く。 先頭のアビーは、後ろを気にすることなく、ドンドンと 奥へと進む。 意外にも、このチームは、静か。 風が吹き、木の葉が 擦れ合う音がするだけの森。 木々の間から日の光がこぼれる。 太陽の光は、4人の背に射す。 奥へ奥へと向かってゆく小さな影。 おかしなことに、その影は、なぜか3つしかなかった。


「アビー。 さすがに、ちょっとペースが速すぎる。 俺はいいが、2人にとっては、ついていくのが、やっとだ。」


 オリバーが、後ろから声をかけた。 いつの間にか、先頭のアビーと後ろの3人の間には、かなりの距離が開いていた。 オリバーは、ルナと イヴリンを気にしながら、3人並んで歩くようにして、アビーを追いかけていたのだ。


「ついて来れないなら、そこらへんで座って待ってればいいのよ。」


「おいっ、チェックポイントは、4人 全員が居ないと 通過したことに ならないんだぞ。」


「あのね、私は、宝を探すの。 チェックポイントは、それを見つけてからよ。 あぁ、そうだわ。 3人で最初のチェックポイントに向かっておいて。 私は、宝を見つけたら合流するわ。」


「勝手なことは、よせっ。 おいっ。」


「オリバー。 いいの。 私が、ちょっと頑張ればいいだけ。 あなたは、イヴリンを助けてあげて。」


 最初に遅れて始めたルナが、そう言って2人の間を取りなすと、一気にスピードを上げて・・・ というよりは、走って・・・ アビーの後ろに駆け寄った。


「ほら、大丈夫でしょ?」


明らかに 無理をしているのは分かるが、ルナが頑張るというなら仕方ない。 オリバーは、イヴリンが 肩にかけていた荷物を パっと取り上げると、自分の肩に担いだ。


「イヴリン。 これで、ついていけるか?」


「うん。 オリバー、ありがとう。 何とかなると思う。」


 息を切らし、追いかけるルナのことも、支え合いながら 必死でついていこうとする オリバーとイヴィリンのことも、アビーは、まったく見ようとしなかった。 彼女が、後ろを振り返ることはなく、前だけを見て、ずんずんと突き進む。 まるで 目指すべき地が 分かっているかのように・・・。



******************************



「オリヴィア~ ちょっと急ごうよ。 なんか見つけるたびに 瓶に詰めてるんじゃ、ぜんぜん前に進めないよ。 ねぇ、ヨークも、そう思うでしょ?」


 何度目かの採取をはじめたオリヴィアの背中に、ケイシーの いらだった声が刺さる。


「うーん。 ジェイコブとケイシーは、魔法研究者志望だったよな? じゃぁ問題ないんじゃないかな?」


オリヴィアが見つけた 植物の瓶詰めを 手伝いながら、ヨークが答える。


「なんでよ。 ゴールの速さで成績が決まるんだよ。 ゆっくりしている暇なんか ないじゃない。」


「いや、ヨークの意見は、間違ってないぞ、ケイシー。 まぁ、帰ってから オリヴィアが採取した植物を オレたちに分けてくれるのが 条件だけどな。」


「うんうん。 ケイシー、成績と言っても、たかだか1年のフィールド教練の成績だからね。 魔法省の財務部に就職するのでもなければ、気にする必要ないと思うよ。 後で、いつでも取り返すチャンスはある。 むしろ、今回みたいに、低学年の生徒が、魔法の森に堂々と入れる機会は、そう簡単にない。 ここでしか取れないとは言わないけれども、珍しい素材を 手に入れておいた方が、後のことを考えると お得なくらいだよ。」


「なによ。 2人とも。 オリヴィアの味方をしたいだけじゃないの? あっ、オリヴィア、私にも素材分けてよ。 ちゃんと4等分だよ。 瓶詰め 手伝ってあげるんだからっ。」


 ブツブツと、文句を言いながらも、しゃがんで、採取した植物を瓶に詰めるのを手伝ってくれるケイシー。 ヨークは、植物の入った容器を、自分の荷物の方に詰めていく。 優しくオリヴィアに声をかけながら。


「重くなるし、詰めた瓶は、ボクが運ぶね。」


「おいおい、おまえ、そのまま 素材を、自分の物に するんじゃないだろうな。」


 横から くだらないチャチャを入れる ジェイコブは、ぼーっとしているわけではない。 採取の間、無防備になる3人が 危険にならないように、周りを警戒しているのだ。


 こうして、珍しい植物や、貴重な素材を見つけるたびに 立ち止まる オリヴィアたちは、なかなか前へ進めない。 けれども、後ろを追うアビーたちは、チェックポイントを目指すことなく、どんどんと、あさっての方向・・・ 暗い森の奥へと進んでいくため、まだまだ その距離を詰められることは、なさそうだ。


 深閑とした魔法の森に、生徒たちの足音が響く。


 こうして、ヨークたちがスタートしてから30分が過ぎた頃、Cクラス最後のグループが出発した。

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