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2-36.後ろ髪を引かれる女!

 その日、エセクタ魔法魔術学院の学院長室に置かれた椅子に、ある珍しい訪問者が腰かけていた。


 背もたれにもたれ、首をグルリと回す 『魔女魔法使い人民法廷』という 特別法廷の長官を務めたこともある偉大な 元 裁判官。 そう、『裁判官と公証人のギルド』のフローラン・トライスラー氏、その人であった。


「それで、重大な お話というのは?」


 学院長のニミュエ・ダームデュレクが、いつものような 冷静な声で尋ねる。


「他でもない。 この学院のことだ。」


「あら? エセクタのことを、気にかけていただけるのですか。 ありがたいことですね。」


 さほど ありがたいと思っていないことが、ありありと分かる、その口調。 しかし、ニミュエ学院長の様子を気にすることもなく、フローラン氏は、続ける。


「今、こちらでは、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と『魔法素材の製造業者と販売業のギルド』の査察を行っている。」


「そうですね。 多少は、聞き及んでおりますわ。」


「まぁ、私も、報告を受けて動くだけなので、詳細までは分からぬが・・・ なにやらエセクタの人間が 関わっていると漏れ聞いた。」


「あら? そのような情報を 漏らして 良いものなのですか?」


「魔法界の将来を 担う者を育てる この学院のためだ。 そのくらいは、問題ない。」


 少し、奥のドアを気にした後、ニミュエ学院長は、きな臭い言葉を聞いた といったように 小さくため息を吐いた。 そうして、フローラン氏の方へと向き直った。


「それで、その見返りは、何をお求めですか?」


 その言葉を聞いた フローラン・トライスラーは、その顔に ニヤリと笑みを浮かべた。




[風と水の魔法使い]  【 2-36.寄付をしよう 】




 私と、ケイシーとルナの3人が、教員棟を出ようとした時、目の前に現れたのは、ヨークだった。


「ちょっと、ヨーク。 聞いてよ。 オリヴィアが、ケチなのよ。」


 えーと・・・・ 私が、話しかけようとしたのに、グイっと私の肩を押しやって、ケイシーが、割り込んできた。 うん。 今の、けっこう痛かったぞ。


「どうしたの? ケンカでもした?」


 ヨークは、手に持った1枚の紙を ひらひらと 振りながら、ケイシーに尋ねる。


「ほら、『悲嘆する安らぎの興奮薬』あるでしょ? あの処方って、オリヴィアが権利を持ってるんだって。 なのに、その販売手数料、私に、ちっとも 分けてくれようとしないのよっ!」


 えーと・・・ エトガンさん? 確か、さっきは、「信頼できる人に、預けたほうがいい」って言ってませんでした? 「分けてくれない」って、どういうこと なのかなぁ。


 私と、ルナの ジト目も、どこ吹く風。 ケイシーは、唾を飛ばしながら、ヨークに 文句を言い続ける。


「そっか、そうだよね。 普通に考えたら、オリヴィアにも、お金が入って当然だね。 考えてなかったや。」


 そうつぶやいたヨークに、ケイシーが、目を $ $ マークにして、詰め寄る。 うーん。 さもしい。


「え? 他に、お金が入る人、誰か居るの?」


「いや、ボクにも、ちょっとだけ 入るみたい。 ほら、オリヴィアと一緒に 魔法薬を作っただろ? だから、共同制作者としての手数料。 まぁ、オリヴィアは、処方関連の権利を 持っているから、額が、まったく 違うだろうけどね。」


 あぁ、そういえば、魔法薬の共同制作者として、ヨークの名前を書いた記憶が うっすらとあるような気がする。 その後の 論文の書き直し地獄 の 印象が強すぎて、忘れてたわ。


「うん、ヨーク。 結婚しよう! 私と。 そして、その手数料をわたし・・・ 痛っ!ちょっと、オリヴィア、髪を引っ張るのは、やめてよ。 ハゲたら、どうするのよ。」


 えーと、お金の話をしている段階なら、冗談で 済ませるけれども、私のヨークに 手を出そうなんて、どういうつもりかなぁ・・・。


 そのまま、ケイシーの髪を 後ろに引っ張ると、後ろにドスンと、しりもちをついた。


「いったぁぁぁい。 何よ。 もぉ・・・ 冗談じゃないの。 本気で怒ること ないじゃない。 あっ、そういえば、ヨークは、なんで、戻ってきたの? 教員棟に何か用でもあるの?」


 お尻のあたりをさすりながら、ケイシーが、立ち上がる。


「あぁ、この書類を 出そうと 思って。」


 そうして、ヨークが広げたのは、手に持っていた 1枚の紙きれ。


「ナニコレ? 『継続寄付の申し込み』?」


「あぁ、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と『エセクタ魔法魔術学院』への寄付の申し込みの用紙。 ほら、急に大金が入ったって、エセクタに居る分には、使うことも無いし、必要ないだろう? だから、今回の権利関係の手数料の 半分くらいを『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と『エセクタ魔法魔術学院』に 寄付することにするんだ。」


「えー。 そんなことしないで、私にちょうだ・・・ 痛っ!」


 おぉ、ナイスっ、ルナ!


 またも、ヨークに 詰め寄ろうとしたケイシーの髪を、ルナが、グイっと引っ張った。


「それいいかも。 私も、一緒に申し込めるかな?」


「うん。 書き損じた時のために、予備の紙は、いくつか貰ってきているから、使う?」


「あっ、ありがとっ。」


 私は、ヨークから、その用紙を受け取ると、教員棟の入り口に設置されている 受付カウンターに、その紙を広げた。




『寄付金等の取扱いについて』


1.寄付者は、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と、『魔法素材の製造業者と販売業のギルド』の名誉正構成員として 登録されることに同意します。


2.入金された寄付は原則として返金いたしかねます。


3.寄付者は、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と『エセクタ魔法魔術学院』への活動資金に対する「毎月」の継続的な寄付を申し込むことにより、申し込み後、継続して毎月の寄付に同意したものとみなします。


4.継続寄付の申し込みをした寄付者は、本人からの解約の申し出がない限り、指定の期日に申込金額が継続して『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』の秘匿口座から決済されることに同意するものとします。




「えーと、ヨーク? この、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』の秘匿口座って、何? 私、そんな口座、持ってないよ。」


「そうだね。 ギルドの口座っていうのは、ギルドの正構成員になったら、作ることが 出来るんだけれども、秘匿口座っていうのは、魔法世界の重要人物であったり、ギルドの役員や、お得意様だったりでないと 持てない口座なんだ。 魔法司法省の捜査でなければ、本人の同意なしには、開示されない っていう 特権も 付与されるから、持っておくと、何か秘密にしたい 取引なんかの時に、役立つんだって。」


 なんと、寄付を行うことで、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と、『魔法素材の製造業者と販売業のギルド』の名誉正構成員として 登録される上、通常口座に加え、秘匿口座まで与えられるらしい。


 取引が優遇されるだけでなく、通常では、手に入りにくいレアな素材も、優先して分けてもらえるため、珍しい素材などを求める人は、ギルドに、このような継続寄付を行うことで、名誉正構成員になろうと するらしい。


「普通は、その人の 周辺調査もされるって言われているけれども、エセクタの学生の今なら、そういう調査も無いみたいだし、損は無と思うよ。」


 へぇ・・・。 まぁ、秘密の取引なんかしたいとも思わないけれども、手数料の一部を寄付するだけで、そういう権利が得られるのは、いいな。 どうせ、学生のうちは、お金なんて ほとんど使わないもんね。


「これ、金額は、どうすればいいの?」


「ボクと、同額でいいはずだよ。 たぶん、オリヴィアなら、貰える手数料の5%くらい なんじゃないかな?」


「じゃぁ、ヨークの書いている内容を写して、署名すればいいのね。」


 私は、その場で、ヨークの申し込みの用紙を横に広げて 書き写し、さらさらッと、署名を書き上げた。


「うん。 じゃぁ、先生方と、学院長のサインも必要だから、一緒に先生の所に行こうか。」


 こうして、私は、ケイシーとルナに手を振り、ヨークと一緒に、今 通ってきた 廊下を 戻ることとなった。


 ん? なんか 後ろが 騒がしいっ。


「オリヴィアーっ。私にも、5%ちょうだぁぁ・・・痛っ。」


 うん。ルナッ、ナイス!

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