1-7.古代森林公園を行く
古代森林公園。その魔法の森には、様々な動植物、魔獣などが生息する。 その入り口には、大きな石碑。 『賢き魔女の石』と呼ばれる 魔法石が組み込まれた石碑である。 南の賢き魔女『アガサ・ボナム=カーター』・・・ つまり、オリヴィアの母親が、この石碑に 埋め込んだとされる石は、ドリコケブスの魔術が かけられており、森の中での位置情報と連動している。 この魔術は、いまだに最先端の強力なもので、魔法の森に『賢き魔女の石』の欠片を 持ち込んだ人物を表示し、追跡することができる。
オリヴィアたち、Cクラスの生徒は、この日の朝、魔法の森の入り口『賢き魔女の石』の前に集合していた。 もちろん、森の中で行われる フィールド教練のためだ。
ヨーク、ジェイコブ、ケイシー、そして、オリヴィアの順に並んだ4人は、一番前・・・ というのも、ヨークは、アメリア先生の一番のお気に入りであったためだが・・・ とにかく、一番先頭に横に並んで、説明を聞くこととなった。
空は晴れ渡って、青色がこぼれ、木々の隙間から光が射す。 そこでは、変わった色の鳥たちが、うっそうと茂った枝を 飛び移っている。
「わぁ・・・。」
オリヴィアは、思わず小さな声をあげた。 まるで絵本の中に入ったよう。 カラフルで美しいな小鳥が 飛びまわる姿に、彼女は、見惚れていた。
[風と水の魔法使い] 【 1-7.重いは、禁句? 】
「オリヴィア、聞いているのですか?」
「はひっ。 聞いてます!」
ボーっと木々を眺めていると、アメリア先生の声が聞こえてきた。 やばっ。 一番前って、目立つのよね。
「まぁ、仕方ありませんね。 この森は、あなたのお母さまの 庭のようなもの。 いろいろな話を聞いているのでしょう。 しかし、注意事項を聞いておかないと、思わぬ事故に繋がります。 アガサ・・・ あなたの母君が、この地を離れてから、既に20年近く経っています。 昔と違うことも あるのですよ。」
先生の言葉に、うなずいて答えるものの、ママから、そんな話を聞いたこと1回もない。 ふと横を見ると、キラキラした目で ヨーク、ジェイコブ、ケイシーが こちらを見ている。 ちょ・・・ハードルが上がってない? 私、何にも知らないよ? あぁ、後ろを見るのが怖い。 絶対、ほかの子たちも 同じような目をしてるに 決まってる。 うぅ・・・。
「ほかの皆さんも、そうですよ。 もちろん、救援の緊急信号を発すれば、エセクタの職員が、すぐに駆け付けますが、間に合わぬことだって あるのです。 緊張感を持って 課題・・・ 教練に取り組んでください。」
アメリア先生の、ながぁい お話が終わると、代わって説明に立ったのは、ナイチ先生。 優しい目で、生徒たちを見渡した後に告げた。
「おはよう。 今日は、とてもいい天気だ。 太陽の光が気持ちいいね。 しかし、森の中に入ってしまうと、この光もあまり届かない。 奥に入ってしまうと、ほとんど届かない地点もある。 みんなに必要なことは、その状態でも 冷静に パニックを起こさないことだ。 この3か月間、Cクラスのみんなは、とても一生懸命に トレーニングを積んできた。」
そういって、ナイチ先生は、ふっと、オリヴィアの方に目を向け笑った。
「いつも通りの力を発揮すれば、大きな問題は起こりにくいはずだ。 自分の力を発揮して 困難を乗り越えてほしい。 今日の宝は、私が設置した。 もし、チームに余裕があるならば、その獲得も 狙って欲しいと 思っている。 それでは、頑張ってチャレンジしよう。」
「はいっ。 それでは、グループごとに、順番に森に入って行ってもらいます。 最初は、ヨークの組からです。 5分遅れて、アビーの組に入ってもらいます。 5分ごとですよ。 ゴールタイムは、その5分の差を 調整して計測しますから、焦らずに スタートしてください。 それでは、ヨーク、行きなさいっ。」
アメリア先生の スタートの合図で、4人は、出発した。 オリヴィアは、最後尾で ついていきながら、後ろをそっと振り返る。 アビーが、リーダーの腕章をつけて 出発に向けて待機しているのが見えた。・・・ それにしても、アビーが、リーダーだったのね。 私が、アメリア先生だったら、絶対 選ばないけどね。 トラブルの原因に なりそうだもの。
「オリヴィア。 後ろを見てないで、足元に注意して。 滑るよ。 この岩の部分。」
ヨークが、後ろを見ながら、注意する。 下を見ると、岩には、緑色の苔。 あぁ、言われなければ、こけちゃったかも。
「ヨーク。ありがとっ。 でも、苔なんか 生えてなければ 滑らないのにね。」
「オリヴィア。 この苔は、感染症に 効果のある薬になるんだよ。」
「うんうん。 有名な南の賢き魔女の薬だね。 知らなかったの? 賢き魔女の娘さん?」
ケイシーが、オリヴィアをからかうように言う。 そう、先日の授業で 習ったばかりの内容であった。
「ちょ・・・ ちょっと忘れてただけよ。 そっか。 ママの・・・。 ねぇ、瓶を100本持って来てるの。 苔をちょっとだけ持って帰ってもいいかな?」
「はぁ? 瓶って、この前 魔法ガラス屋さんで、かわいいっって言って、買った採取瓶でしょ? 小さいのが100個、箱に詰まったやつ。 そんなの持ってきたの? 重いだけよ。 後半に、体力的にキツくなるから、荷物は、減らすように 言われたのに・・・。」
アメリア先生の注意に、たしかに そういうのがあった。 でも、魔法の森には、いろんな植物や、生き物がいるという。 オリヴィアは、それを少し、持って帰りたいと 思っていたのだ。
「いいよ。 体力的にキツいって思ったら、ボクに言って。 オリヴィアの荷物くらい 代わりに持つから。」
ヨークは、優しくオリビアに 笑いかけた。
「うわぁ。 ズルいっ。 じゃぁ、私は、ジェイコブに、おぶってもらうから!」
「おいっ、それは無理だ。 オリヴィアならともかく、ケイシーは、重すぎる。」
「重いって 何よ。 私、軽いわよ! きゃっ。」
プンプンと怒りながら、苔に足を取られて滑ってしまった ケイシーに、ヨークも、ジェイコブも、オリヴィアも、大笑い。
「ほら、気をつけろよ。」
ジェイコブが、ケイシーに手を差し出す。 ケイシーは、その手を取って・・・ 思いっきり引っ張った。
「エイッ。」
「おいっ、なんだよ。」
つるりーん。 ジェイコブも頭から、すってんころりん!
「女の子に、重いなんて言ったら、バチが当たるのよっ。」
「おいっ。 今のは、バチが当たったんじゃなくて、完全にケイシーが、引っ張っただろ。」
今度は、ケイシーが 大笑い。
そうして、森の中に、笑い声が響いたとき、第2組のアビーたちが スタートしようとしていた。
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