2-31.木箱を持って鬼ごっこ
ひとり寮の部屋をに戻ると、バサッとローブを脱ぐ。 あぁ。 粉で、もう真っ白。 パタパタと服をはたくと、ポイッと 洗濯カゴに放り込む。 後で、識別魔法タグを つけておけば、エセクタの職員さんが 回収して、洗っておいて くれるだろう。
さささっ と、シャワーを浴び、服を着替える。 髪も乾いたし、調理実習室に 戻ろうっと・・・ ん? そうだっ。 忘れてた。
箱っ!
私は、あることを思いついて、私のクローゼットの中に置いてある 紙袋取り出した。 テレサ・アンターナッハ木工用品店と書かれた その袋のテープを剥がし、フタをあける。
入っていたのは、可愛らしい木箱っ。 うん。 私に必要なのは、コレっ。
紙袋から木箱を6個取り出す。 あと、必要なのは・・・ ママの文箱! それと、ヤスハ・チェリィフェアリ和紙店の透明和紙。 あっ、魔力銀のインク壺にインクは、残ってたかな?
こうして、文箱セットと小さな木箱を持って、ウキウキと 廊下を歩くのであった。
[風と水の魔法使い] 【 2-31.即席ペーパー魔術符 】
「おっそぉぉい! もぉ、先に、食べちゃおうかと 思ってたよ。」
調理実習室では、ケイシーたちが、お皿にマフィンを のせて待っていた。 うわっ、可愛いっ。 さすがだねぇ。
「ごめぇん。 いいこと思いついたから、用意してて、遅くなっちゃった。」
私は、空いたテーブルに、文箱などを放り出し、マフィンと、紅茶がセットされた ケイシーの隣に ピョンっと座る。
「 「じゃぁ、いただきまぁす。」 」
ってことで、3人とも、マフィンに、ざくっと、フォークを入れる。 私のは、ノーマルなプレーンマフィンだけど、外側の さっくり感がなんか、イイ。 お店で出てくるヤツみたい。
「あっ、アーモンドの一口、頂戴っ。」
って、ケイシーったら、返事も聞かずに ルナのマフィンに ざっくりフォークを入れてるっ。 しかも、めっちゃ取ってるじゃん。 ひどいっ。
「いいよー。 まだ、こっちにもあるから、オリヴィアも、食べる?」
う・・・ いただきます。 ルナにすすめられ、私のお皿には、砕いたアーモンドが 中にちりばめられた、アーモンドマフィンが プラスされる。
「ううぅ、オリブィアだげ、ずるぅヒ。」
うーん。 言いたいことは分かるけれども、何、言ってるか分かりません! ケイシーのクレームは、無視する。 ルナの マフィンを横取りして、口の中に詰めて、文句を言う人に、このマフィンの権利は 無いのだ!
もう、お腹一杯っ。
結局、私とケイシーは、2個ずつ。 ルナは、1個を食べた。 まぁ、その1個も、ケイシーに半分近く取られてたけど・・・。 でも、こんなにイッパイ食べたら、さすがに、私は、ご満足。
「それで、オリヴィアが、向こうのテーブルに 置いてあるアレ、何っ?」
ポコッと 膨れたお腹を撫で、紅茶を ゆっくり飲みながら、おしゃべりタイム。
「あっ、残ったマフィンを 小さな木箱に詰めて置いとこうかな?って。 ほら、ヨークたちにも、持っていくでしょ?」
「あっ・・・。」
ルナが、小さな声を 上げた。
「オリヴィア、ジェイコブと、オリバーに渡す奴は、もう、あの紙箱に入ってる。 そこに、残ってるのは、オリヴィアが、ヨークに渡すための マフィンを選べるように、並べてるだけだよ? ほら、ルナが、用意してくれてる 可愛い紙箱もあるでしょ?」
えぇぇぇぇ。 ルナ、そんな紙箱まで 用意してたの? しかも・・・ 私の木箱より可愛いっ。
「オリヴィアの木箱、おしゃれだし、そっち使おうよ。」
うっ・・・ 気を使われてる。 ルナに・・・。 しかも、ルナのセンスが良すぎて、紙箱の可愛さに、勝てる気がしない。 仕方がない。 木箱は、あきらめて、紙箱に・・・。
「そうね、せっかく 自分で用意したんだから、ヨークのは、木箱で いいかもね。」
ケイシーっ! 退路を断たないで。
私が、ルナの紙箱を選ぼうと、立ち上がった瞬間、ケイシーが、私の道を 遮るように 言い放った。
ふんっ。いいですよ。 私は、木箱で渡しますよっ。 ノーマルプレーンを2個、砕きアーモンドを1個、溶けチョコ串刺しマフィンを1個。 合計5個を ぎゅうぎゅうに、木箱に詰める。
でも、私のお仕事は、ここからなんだよね。
透明和紙を1枚取り出す。
高いのよね。 この紙。 文箱から、魔筆と魔力銀のインクを出すと、サラサラサラっ。筆を走らせた。
うん。 きれいに描けたね。 オッケーだ。 軽く和紙を振って、インクを乾かしたら、出来上がり。 即席のペーパー魔術符の出来上がりだっ。 これ、けっこう 使えるんだよねー。
木箱の上に紙を乗せる。 手の指を 紙の部分に当てたら、魔力を通す。 即席ペーパーは、一瞬で 白い煙となって消え去った。 まぁ、これで2週間くらいは、持つかな?
「ちょっ、オリヴィア。 何してるの? 煙 出てるじゃんっ。」
「え? ほら、食品保存のペーパー。 ほら、マフィンって、日持ちしないでしょ? 5個なんて、なかなか 食べきれないから。」
「 「えっ? ペーパーっ?」 」
ルナと、ケイシーが、驚いたように、木箱に 視線を向けた。
「あっ、それで、オリヴィアは、お土産に 買って帰った マフィンを 5日も過ぎて 食べてたんだ。 お腹が強いんだな? って、ちょっと 思ってたんだよね。」
け・・ケイシー。失礼な。 保存用のペーパーを使ってたから、貰ってから 日が経っても、劣化してなかった だけだよぉ。
「オリヴィアは、魔術符が描けるの?」
ルナが、木箱を指で撫でながら、私の顔を見る。
「え? これ、保存の魔術符っ、即席ペーパーだよ? 魔力銀で書くやつ。 キディヒ先生の レアチーズン重合反応で作るような ちゃんとした魔術符とは、ぜんぜん違うヤツ。」
「そんなの描ける人、なかなか居ないと思う。 もしかしたら、先生でも、無理かも。 私、保管庫に使われるような、ちゃんとした ペーパー魔術符以外で、そんな簡易の保存用 ペーパーなんて、聞いたことないよ。」
嘘っ? ママ、普通に使ってたのに・・・。
「まぁ、オリヴィアは、『偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ偉大な魔女』だから、知ってて 当然ね! だから、私の紙箱にも、そのペーパー 使ってっ。」
ケイシーは、紙箱を取ると、さっと私の方に差し出す。
「やめてよ。 変な呼び方定着させるの。 私、ママがしてたの 真似してるだけなんだから。 それに、紙箱だと、燃えちゃうから、出来ないよ。」
そう、和紙を使うのは、魔力を通すと、すぐ燃えて 魔力の煙になって効力を発揮してくれるから。 でも、紙箱だと、そのせいで、一緒に 燃えちゃう 可能性があるんだよね。
「えー。その木箱、可愛くないっ。 それだと、迷うわ。」
ちょ・・・ ケイシー、可愛くないって 思ってたのに、ヨークのマフィンを 木箱に詰めるようにって言ったの? それ、大問題よ?
「うん。 あきらめる。 私の保存用のだけ、木箱にするわ。 ジェイコブのは、かわいい紙箱のほうにするっ。」
ケイシーったら、そう言いながら、木箱に、ポイポイポイッと、5個のマフィンを詰め込んで、差し出して来た。
うーん。 なんか、割り切れない思いがあるけれども、さっきと同じように、即席ペーパーを書いて、即、魔力注入。 保存の魔術を発動させる。 はいっ、これで ケイシーの保存用簡易木箱完成ねっ。
喉に、つっかえるトゲは、飲み込んで、私も、自分の保存用を木箱に詰めよう。
あれ? 残ってるマフィンは5個?
私と、ルナで、2個? 3個? おかしいな・・・ 割り切れない?
ん? ん? ん?
「あっ、オリヴィア。 私、2個でいいよ。」
る・・・ルナ。 うー。 それは出来ない。 ルナは、1個しか食べていない。 私は、2個食べた。 でも、マフィン 欲しいぃ・・・。
私は、そっと 3個のマフィンを ルナの前に差し出して、すごすごと、後ろへと引き下がっ・・・ あれ? ケイシー・・・ さっき 5個マフィンを持って行かなかった? ふっと、顔を上げ、ケイシーを見る。 あっ・・・ 視線をそらした。
そうして、私は、木箱を背中に隠して 後ずさるケイシーを追って、調理実習室を、駆け回るのであった。
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