表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/80

2-28.ちやほやされる女!

 その朝、『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』に、激震が走った。


 なんと、十数年ぶりかに、『裁判官と公証人のギルド』の査察が、入ることになったというのだ。 バタバタとする 朝の時間帯に、裏口から 入ってくるのは、『裁判官と公証人のギルド』の職員たちと、それを取りまとめる 査察官 フローラン・トライスラー。


「素材売買申請の許可書類に、不審な点があるとの報告が、相次いでいる。 不正を疑っているわけではないが、ここまでの数の、報告書があがって、何もしていないとなると、仮に 何か問題があった時に、ワシの責任が 問われるのでな。 すまぬが、査察に 入らせてもらう。」


 フローラン・トライスラーは、対応に 出てきたギルドの職員に、査察令状を差し出し、確認を求めた。


「はぁ、寝耳に水の話です。 いったい、何の 売買に関する許可の 話なんでしょう?」


「書類に書いてある通りだ。 エセクタの学生の申請で、そちらのギルドが許可を出した 内容に、不信な点があると いうことのようだ。 まぁ、杞憂だと思うがな。 ははっ。」


「まぁ、そういうことでしたら、仕方ないですね。 そちらも、お仕事ですし。 どうぞ、こちらへ。 用意しなければならない、必要な 書類などはありますか?」




[風と水の魔法使い]  【 2-28.熱心な布教活動 】




 あぁ、『悲嘆する安らぎの興奮薬』なんか、作らないほうが 良かったのかなぁ。


 寮の 自分たちの部屋で、小さな ため息を吐く。


 訓練場での 最初の実習で、私にぺったりと貼りついていた『劣等生』のラベルは、いつのまにか、キレイに、剥がれていた。 けれども、代わりに貼りついた『偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ魔女』のラベルは、下手をすると、前のラベルよりも、厄介かもしれない。


「あぁ、このラベル、剥がれないっ。」


 声の先を見る。 そこでは、ケイシーが、ルナのノートに貼り付けていた ラベルを剥がそうとしていた。


 そう、『基礎魔法生物学』の授業で、ノートの提出を 命じられたのだが、全くノートをとっていなかったケイシーは、ルナが 3冊の授業ノートを 作っているのをいいことに、その1冊を借り受け、名前部分に 自分の名前ラベルを 貼り付けて提出していたのだ。


「もぉ、ちゃんと、『ロジン・ゼラームマイのラベル剥がし液』を 使ったの?」


「あっ、使ってない。 机の上にあるから、取って。 私、今、手が離せないっ。」


 ケイシーの机の上の ラベル剥がし液をとって、その手に渡す。


「わぁ、剥がれるっ。 剥がれる。 きれいっ。 やっぱ、使えるわ。 コレ。」


 ケイシーは、容器の先から、ちょっとずつ、ラベルの端に液を垂らし、それを 剥がしていく。


 私に 貼りついている 見えないラベルも、そんな風に 剥がせたらいいのに・・・。


 論文発表から、1週間たち、私に対する 魔力の弱い落ちこぼれ という評価が、反転っ。 そして、逆に、急上昇。 下手をしたら、みんなから、ルナより 頭がいいと思われている。 無い 無い。 もし、ルナより、頭良かったら、えらーい 魔法学者にだって、なれちゃうよ! あぁ、ヨークは、いいよねー。 もともと、頭が いいんだからっ。


「えいっ。」


 床に座って、ぷぅぅっと 頬を膨らませていると、ぱすっと、ケイシーに、ほっぺを 両手で挟まれ、膨れた頬は、一気にしぼんだ。


「なぁに、ほっぺたを膨らませてるのよ。 『頬を膨らませた、わたしって、可愛い』とか、そんな事 考えてた?」


「違うよぉ。 論文発表した後、持ち上げられすぎて、居心地が 悪いなぁって 思ってただけ。」


「あぁ、別に、いいじゃないの。 人の噂なんて、49日って言うでしょ? 2か月もたったら、みんな、忘れるって。 それよりも、今の 超有名人状態を 楽しんだ方が、得だって。 ねっ。」


 それを言うなら、『人のうわさも75日』だと思うよ・・・。 それに、ケイシーだって、自分が、この立場になったら、楽しもうなんて 思わないはずだよ。 ほんと、ひとごと なんだからっ。 休日に、ケイシーが買ってきた、ぬいぐるみの 角モグラちゃんが、床に 転がっていたので、八つ当たり気味に、ベッドの方に ポイと、放り投げる。


「ほらぁ、ぬいぐるみに 当たり散らさないでっ。 もぉ、ルナの部屋に行くよ。」


 そうだ。 ノートを 返さなくてはならない。


「キレイに、剥がれたの?」


「うんうん。 ちょっと、表紙が ハゲちゃったけれど、大丈夫。 ルナは、怒らないでしょっ。」


 いやいや、ルナが3冊のノートを作っているのは、予習用と、復習用と、アビーが 戻って来た時に渡す用 だからねっ。 ケイシーが、借りていたのが、アビー用のノートだった場合は、本気で怒りが、炸裂しかねないよぉ・・・ と、思いつつも、ルナが 怒る姿は、思い浮かばない。


 あの子のことだ。


 なんなら、もう1冊、ケイシー用のノートまでをも、作りかねない気がする。 うん、ケイシー用をつくるくらいなら、まず 先に オリヴィア用を、作るべきだねっ。 私は、優等生扱いを され始めて、今、スゴく、困ってるんだから!


「ルナ―っ。 ノート返しに来たよー。 ありがとねっ。」


 そう言って、勢いよく ルナの部屋に 飛び込もうとした ケイシーと私は、部屋の前で、ビックリした。 だって、いつも キレイに掃除されている その お部屋に、紙の束が、散らばって、あふれかえって いたんだもの。


「え? 何? この紙の山・・・。」


 部屋に 飛び込もうとした、ケイシーが、驚いて、立ち止まる。


「あっ、ごめん。 ちょっと、整理してたの。 これ。」


 床の上に広げた 紙を拾い集め、ルナが慌てて、部屋の中に 人が 入れる場所を 作ろうとする。


「ちょっ、これ、オリヴィアの記事っ。」


 お部屋の スペース作りをお手伝いしようと、ケイシーが手を伸ばした先・・・ そこに散らばっていたのは、私の記事・・・。


 そう、魔法専門誌の取材を受けた時の切り抜き。


 あっ、こっちに落ちているのは、私が、論文を発表した時の『夜月魔女新聞』の切り抜きだ・・・。


「あっ、そのオリヴィアの記事、こっちに 紛れてたんだ。 見つからなくて、探してたんだよね。」


 ルナは、屈託のない 笑顔で言う。


「あの・・・ルナ? なんで、私の 記事なんて 集めてるの?」


「あっ ほら、オリヴィアのことを、魔力が弱いとか、色々、言ってる子たちが、いまだに 居るから、いろんな記事を見せて、スゴイ魔女なんだって、教えてまわっているの。 あのね。 怖かったけど、ABクラスにも、行ってきたんだよ。」


 やめてぇぇぇぇぇぇぇえ。 その布教活動っ、だめっ。


 私が、身の程知らずの評価に 身もだえていたというのに、まさか、貴族の子弟や、特待生たちのABクラスにまで幅広く、ルナが、布教活動をしていたとは思わなかった。 どおりで、全く面識のない 交流の無かった人たちからも、ちやほやされると 思ったわ・・・。


 はぁ、身内に 敵がいたとは・・・。


 しかし、ルナの キラキラした瞳を 見てしまっては、「なにしてるのよ。バカっ。」とも言えず、私は、顔の前で両手を合わせて、これ以上の 布教活動を行わないように、ルナにお願いするしかないのであった・・・。


 とほほ・・・。

最近、ちやほやされている人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ