表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/80

2-27.偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ者

 2つの薬草・・・ ゼルチュルナー草と、マジャンディの根。


 ゼルチュルナー草は、脳内や脊髄に作用し、興奮を 脳に伝える神経の活動を 抑制する 『ヒネモール』を成分に含む魔法植物。


 マジャンディの根は、催吐作用のある『ケファエロリン』や『エッチヤネン』などの アルカロイドを 成分に含む魔法植物。


 そう、これらは、「神経の活動を抑える薬草」と「悪いものを吐き出す薬草の根」であり、『悲嘆する安らぎの興奮薬』に加えることで、その魔法薬の作用を 直接的に 助けてくれることはない。


 しかし、ゼルチュルナー草の成分である ヒネモールは、『南の賢き魔女のオシニカイス法則』にある通り、『悲嘆する安らぎの興奮薬』の力を増強する。 これは、ナイチ先生が、指摘したとおりである。


 じゃぁ、それ以外に、この2つの薬草のエキスを 加えるのは、なぜかっ?


 うん。 それは、魔法薬物依存症患者を作らないために、ママに教えてもらったお話が、理由なのだ。




[風と水の魔法使い]  【 2-27.3日間の論文作成! 】




「『悲嘆する安らぎの興奮薬』には、依存性があります。 快楽を得るために、この魔法薬を使うには、通常の治療用量の50倍ほどの 服用量が必要ですよね。 ここに、ゼルチュルナーチンキや、マジャンディエキスが、数滴ずつ 加わっていたら どうでしょうか?」


 私は、そこまで話して、言葉を切り、ナイチ先生の顔を見上げた。


「なるほど、そういうことか。 アガサらしい やり方だ。」


「ナイチ先生。 どういうことですか?」


どうやら、アメリア先生は、まだ、分かっていない様子。 それを見て、ナイチ先生が、説明役を 買って出てくれた。


「オリヴィア、間違っていたら 指摘してくれよ。 おそらく、こういうことでしょう。 通常の使い方をしている分には、ゼルチュルナーチンキや、マジャンディエキスは、数滴なので、効力を発揮しません。 しかし、50倍量を 服用した者に対しては、ヒネモールの 興奮を 脳に伝える神経の活動を抑制する作用で、鎮静効果を与える。 その上、マジャンディが、クスリを吐き出させようとする。 うん、これは 素晴らしい手法だ。」


「はい。 数滴では、効力を発揮しなくても、50倍量を服用したら、十分な力を持ちますから。 『依存症の魔女や魔法使いが、意思が弱い人、ろくでなしな人 ということではなく、彼らの多くは、治療が必要な 病人。 病を癒したり、それを防ぐ手助けを することも、魔女の務めだ。』と、ママは、言っていました。」


 私は、ママから 教えられた話を 胸を張って 答えた。


「なるほど、良く分かりました。 オリヴィア、アガサの知恵を 記憶して 正しく伝えてくれたことに感謝します。 これは、発表が 必要になりますね。」


 アメリア先生は、そう言いながら、試験管を持ち上げ、部屋の水晶が放つ光に かざす。


「なるほど。 確かに、論文発表して、流通品を、直ちに この処方に切り替える措置を 魔法省と、ギルドを通じて 行うべきです。」 


 ナイチ先生・・・ 論文発表? 魔法省? ギルド? えっ?


「では、オリヴィアの名前で発表。 指導教官は、ナイチ先生。 後見に 私という形で よろしいですかね。」


「そうですね。 あとは、この『悲嘆する安らぎの興奮薬』を 3本つけることになりますから、ヨークを 魔法薬の共同制作者として 登録することも 必要でしょう。」


 ちょ・・・ 先生? 何を 言ってるの?


 私が、何が何だか よく分からないまま 目を白黒させていると、ナイチ先生が、その手を 私の頭の上に置いて 優しくなでながら 言う。


「オリヴィア、この知恵は、アガサが、魔法世界に残した素晴らしい遺産だ。 社会の みんなで共有しなければならない。 今の社会に流通している『悲嘆する安らぎの興奮薬』には、これらの成分が、入っていないことは、言ったよね。 それを変えていくために、これを 魔法薬学会に発表した後、流通品を アガサの処方に切り替えるんだ。 そのためには、君の名前を 出してもらわなければならない。 私たち2人が、君を後見する。 大丈夫だ。 安心して。」


「あっ・・・ えーと。 はい。 分かりました。」


 先生が、安心しなさいって、言っていたけれども・・・ 何も、分かっていなかったけれども・・・ 良く分からないまま、分かりました って 答える。



 でもね、それからが、大変だった。



 まずは、伝書鳩で、ヨークが呼ばれた。 魔法薬の共同制作者として、名前が出るからだ。 アメリア先生から 説明を受け、意気揚々と 返事をするヨーク。 理解できるんだ・・・ 先生が 言ってる話を。


 そうして、論文作成は、なぜか、私のお仕事。 ヨークの助けを借りながら、やっと 書き上げたら、ナイチ先生から、ダメ出しの連発・・・。


 これを繰り返すこと 3日間。


 超スピードで書き上げられた 論文もどきは、魔法薬学会の魔法薬誌『ネイチャーマジックサイエンス』に掲載され、その詳細は、魔法省の魔法薬研究部や、ヴェセックス魔女魔法使いギルドへと 伝達された。


 あっ、3本の『悲嘆する安らぎの興奮薬』は、それぞれ、魔法薬学会、魔法省、ギルドへとサンプル魔法薬として提出されている。


 制作者であるヨークと、私の名前を添付して・・・。


 こうして、私の名前は、偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ者として、魔法省やギルドの知る所となった・・・。


 あのね、私、ちゃんとママから、教わったわけじゃないから、『知恵を継ぐ者』なんて 名前つけられても、すごく困るんだよね・・・。 あの時「後見するっ」って、ハッキリ言ったんだから、今、殺到している講演依頼とか、魔法誌への原稿依頼とかいうメンドクサイ話は、ナイチ先生と、アメリア先生で、どうにか対処してもらいたい。



「はぁ、疲れたぁ。 もうヤダ。」


 寮のお部屋のベッドに、ゴロンと 転がる。


「あれぇ、偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ魔女様が、ちょっと 魔法専門誌の取材を受けただけで、根を上げるんですか?」


「もぉ、ケイシー、うるさいっ。」


「きゃっ、ちょっと、枕、投げないでよ。」


 ケイシーも、ジェイコブも、今回の論文騒ぎに、大はしゃぎ。 いつも こうやって からかってくる。 あっ、ルナは、目をキラキラさせて、論文の写しを読んでいた。


「だって、私、何にも 分かってないのに、ママと 同じくらい知識があると 思われてるんだよ? ヨークは、横で ニコニコ笑ってるだけで いいのにっ。」


 そう、ヨークは、魔法薬の共同制作をした、前途有望な ハンサムな男の子として、すごく 持ち上げられている。 なのに、私と違って、知らないことや、答えられないことが あっても、誰にも、責められない。 まだ、発展途上の魔法使いで、前途有望だからっ!


 ヨークの方が、私より、頭いいのにっ。


「確かにっ。 ヨークって、そういう所、要領が いいよね。」


「でしょ? あっ、私の代わりに、ルナを 連れて行けばいいのよ。 それなら、ほぼ完璧に答えられるわ。」


「確かにっ。 論文も、完璧に覚えてたし、ナイチ先生と 話している時なんて、オリヴィアより、きちんと成分について 話を出来てるもん。」


 そう、ルナは、論文を 読み込んだだけじゃなくて、いつの間にか、その他の成分についても、完璧に その効果を把握していた。 あの子こそ、『偉大な南の賢き魔女の知恵を継ぐ魔女』の称号が相応しいかもしれない。


「もぉ、辞めたいよ。 実力もないのに、こんな風に、妙に 持ち上げられたままの生活。」


「無理無理。 1度、そういうレールに乗っちゃったら、隠遁でもしなければ、降りるのは、不可能だって、ジェイコブが言ってた。 お父さんが、そうだったみたい。」


 あぁ、そういえば、ジェイコブのお父さんは、有名な 植物研究家だった。


「もういいっ、寝る。 おやすみっ。」


 私は、ケイシーに、枕を返してもらうと、お布団を、ガバっと 頭から かぶった。


 専門誌の取材で疲れていたのだろう。 気づいたときには、私は、夢の世界へ。 そうして、今回の論文騒動が、エセクタや、ジェイコブを救うなぁんて話は、この時の私には、知る由もなかった。

今日枕投げをした人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ