2-25.作ったのはオリヴィア
ナイチ先生の お部屋のドアは、すでに開いていた。
部屋の応接ソファーには、すでに、アメリア先生が座っている。 先生は、ナイチ先生と何やら話していたようだが、私が エセクタの職員に連れられて中に入ると、私の方を振り向いて、微妙な感じ? 何とも言えない 微笑みを浮かべた。
「いやぁ、オリヴィア。 よく来てくれた。 ちょっと 聞きたいことがあってね。」
ナイチ先生は、いつもと同じ感じ。 けれども、アメリア先生から、妙におかしな緊張を感じる。
「オリヴィア、先日の『悲嘆する安らぎの興奮薬』の鑑定を、ナイチ先生に頼んだんですよ。」
あぁ、そのことで呼ばれたのか・・・。 でも、それならば、ヨークが 呼ばれていないのはなぜ? あれって、半分くらいは、ヨークが調合したんだから、私だけ呼ばれるって、おかしくない?
「うん。 ヨークと一緒に作ったんだってね。 よく出来ていた。 ただ、ちょっと 気になることがあったので、確認しておきたい。」
そう言って、ナイチ先生は、開いたままのドアに近づき、エセクタの職員を 外へと追い出した。 手には、クネクネ鉱石の鍵。 先生の手元でからは、カチャリという音が、聞こえた。
「こちらのドアも、閉めておくことにしよう。では、2人とも こちらへ」
そう言って、アメリア先生と、私は、そのお部屋の隣に続く、ナイチ先生の実験室に通されたのであった。
[風と水の魔法使い] 【 2-25.お呼び出しっ 】
2羽の伝書バトが向かった先。 それは、教員室にあるアメリア先生のお部屋と、Cクラスの寮にある オリヴィアたちの部屋であった。
アメリア先生の元に向かった鳩の足の筒・・・その中には、魔法薬の鑑定における 問題が見つかったことを簡単に伝え、ナイチ先生の部屋へ来てもらいたいという希望が書かれたメモが、入っていた。
そうして、オリヴィアの鳩には、『エセクタの職員が、今から向かうので、ナイチ先生のお部屋に来られるよう準備しておくように』というメモが、持たされていた。
「アメリア先生、申し訳ありません。 ただ、鑑定途中で、ここを離れるのは、良くないと思いまして。」
「いえ、当然です。 鑑定途中で、席を外すことは、その鑑定への疑義を生じさせます。 それに、この鑑定は、私が依頼したものですから、こちらへ出向くのが当たり前ですよ。」
恐縮して 頭を下げるナイチ先生に、アメリア先生は、問題ないと 軽く手を振った。
「しかし、どういうことです ?ヨークが作った魔法薬で、そのような 問題が起こるとは思えないのですが?」
「いえ、あの魔法薬を作った主となる魔女は、オリヴィアです。 先生が、おっしゃったように。たいへん良く出来ていますが、少し、オリジナルの発想といいますか、独自性を持った薬になっているようです。」
「まさかっ。オリヴィアが?」
「いえ、もちろん、ヨークも、魔法薬作りに かかわっていると思います。 おそらくですが、教科書どおりにきちんと調合していく部分は、オリヴィアではなく、ヨークが行ったと思いますよ。 出来上がり具合の丁寧さは、作り手の性格が現れますから。 しかし、あの魔法薬には、アガサの知恵が 少し加わっているようです。 それも、私でも理解できない水準のものが・・・。」
「アガサですか・・・。 そうですね。オリヴィアは、あの子の娘でしたね。 時々、そういうことを忘れそうになるほど、オリヴィアは・・・ いえ、いい子ですし、大切に育てたい魔女の卵ですが、魔力の放出の力が、少し弱い。 しかし、その知恵は、受け継がれていたということですか。」
「どこまで、知識を受け継いでいるかは、分かりませんがね。 そもそも、アガサが 亡くなったのが、あの子が、まだ、小さなころでしたから・・・。」
ナイチ先生は、オリヴィアの母である南の賢き魔女だけでなく、その父親のことも良く知っている。 そうして、そのアガサが 亡くなった時のことも。
そのことを、アメリア先生は理解しているため、彼女は、何も反論することなく、ナイチ先生に向かって 小さく頷いた。
「失礼します。 オリヴィア・ボナム=カーターを お連れしました。」
開け放したままのドアの向こうから、職員の声が聞こえた。 オリヴィアが到着したのだ。
「どうぞ、入ってくれ。」
ナイチ先生は、彼女を部屋へと迎え入れた後、エセクタの職員を追い出し、部屋を魔法の鍵で閉じた。 魔法薬の鑑定結果について、仔細を、オリヴィアに たずねるためだ。
「まずは、実験室に向かいましょう。 アメリア先生、オリヴィア、こちらへ。」
そうして、先ほどのメモ用紙が並び、試験管たてに『悲嘆する安らぎの興奮薬』が置かれた実験台の前に、3人は、並んで立つことになった。
「すまないね。普通は、開封しての鑑定は行わないんだが、教科書的な素材以外の成分が入っている可能性が高いので、それを調べるために、開封させてもらっている。」
「異物が入っている? しかし、ナイチ先生、先ほど、たいへん良く出来ていると・・・」
立会人のような立場であるにもか関わらず、思わず、アメリア先生は、口をはさんでしまった。
「あぁ、改良された魔法薬になっていることが予想できるという意味です。 流通している『悲嘆する安らぎの興奮薬』よりも、おそらく良いものだと考えています。」
ナイチ先生が、アメリア先生に答えている姿を見て、オリヴィアも、つい、口をはさんでしまう。
「えーと・・・、私、何か変わったことをしたつもり、無いんですけど。」
「うんうん。 それで構わないので、このメモを見てもらえるかな? 成分同定の鑑定は、どうしても、スピードが必要でね。 読みにくいだろうが・・・」
ナイチ先生の指がつまんだ物は、取り上げたのは、先ほど、成分同定のペーパー魔術符で鑑定した際に、ペンで殴り書きをしたもの。 そのうちの2枚を取り上げると、彼は、オリヴィアの目の前に その紙を突き出した。
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