2-23.ヨークの石化魔法
正門の付近は、エセクタのローブを まとった生徒でいっぱいであった。 やっとのことで、見つけたケイシーとルナ、そしてジェイコブは、大きな紙袋と箱を、いっぱい持ってフラフラしていた。
「ケイシーっ、おかえっ・・・」
「あっ、オリヴィアとヨークじゃない。 丁度よかった。 コレ持って。 はいっ。」
「え? なに? ちょっ・・・。」
私と、ヨークは、ケイシーとルナが持っていた 紙袋の半分を渡され、さっきまでの 彼らと同じような状態に。
女子寮に向かって、ふらふらと 歩くことになるのであった・・・。
なお、ジェイコブが持っていた荷物については、そのままで、紙袋1つですら、減らされることは なかった。
「おいっ。 こらっ。ヨーク。 ちょっと 俺のも、もてよっ。」
[風と水の魔法使い] 【 2-23.ふたりっきりなんだらからっ 】
気になっていた、ナイチ先生の お呼び出しは、無かった。・・・んー。 たぶん、馬や馬車は、自動的に ネズミやカボチャに戻るのを 待つんだろうね。
あっ、そうそう。 ケイシーの荷物の話っ。 女子寮の中は、男子禁制。 なので、ジェイコブやヨークに、荷物を 運ばせるわけには、いかなかった。
3往復っ。
これ、ケイシーとルナと私が、寮の入り口と階段、それから お部屋までを 往復した回数。 つまり、お部屋まで3回も、荷物を 運ぶことに なっちゃったのだ。
「ごめんねー。 いやぁ、久しぶりの お買い物だったから、すごく楽しくなっちゃって、欲しいの 全部、買っちゃった。」
クローゼットの中に、紙袋や箱を放り込んで、お部屋を出る。 ちょっと、あふれ出ているのは、見ないことにした。
「っていうか、あのシルクのローブって、いつ使うの? どう見ても、すごく高いでしょ?」
「うんうん。 高い、高い。 私、数字を見間違えててさ、一桁。 ゼロが1つ多かったのよ。 支払いの時、金額を言われて、えっ? って なっちゃた。」
「ちょ・・・ それ、大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃなかったわよ。 だから、私のお金も、使ったもん。」
「え? ケイシー?」
「ん? 何?」
「自分のお金・・・も、つかった?」
階段を降りきると、入り口はすぐソコ。 寮の入り口では、ヨークと、ジェイコブが、3人を待っていた。
「あ、うん。 そうよ。 全部、ジェイコブに 買ってもらう予定だったんだけど、さすがにね。 あのローブの分だけは、自分で 払ったわよ。 ホント、目が飛び出るくらい、高いんだからっ。」
その言葉が 発せられた瞬間、私とルナは、入り口を出たところで、ヨークと談笑するジェイコブの顔を、じぃぃっと見つめた。 そうして、次の瞬間、私は、ルナが、自分と 全く同じことを考えていることが、分かった。
ジェイコブっ、か・・・ かわいそう・・・。
「でも、今日は、楽しかったわぁ。」
うん、ケイシーは、そうでしょうね。
「じゃぁ、食堂で、ご飯にしましょ? あっ、そういえば、魔法薬作りは、どうなったの? 私、それ、気になるっ。」
私とルナから、思いっきり突き刺さっている視線にも、ケイシーは、お構いなし。 先頭をきって、食堂へと 突き進んでいく。
「うわぁ、今日は、混んでるな。」
食堂に足を踏み入れた瞬間、ヨークが、驚いて声を上げた。 それもそのはず。アードルフ・シタラ=ヒムゥラで、生徒たちの数が減って以来、この食堂がこんなに混んでいたことは、1度も無い。
「街へのお出かけに行っていた 子たち全員が、重なって 集まっちゃったのかもね。」
「あぁ、それは、確かにありそうね。 あっ、オリヴィアとルナで、席を確保しておいてよ。 私たち3人で、てきとうに、食べ物を みつくろってくるからっ。」
ケイシーは、返事も聞かず、ジェイコブの腕を取って、さっさと歩き始めた。 ヨークは、苦笑いをし、私とルナに手を振って、それに続く。
「ルナ。行きましょ? あそこなら、5人そろって 座れそうよ。」
私は、ルナの手を取って、空いた席を目指す。 隣どうしに並んで座ったら、質問タイムっ。
「今日、どうだった?ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店。」
「えっと・・・。 うん。 すごくよかった。 ・・・ホントに。」
ちょっと、途切れ途切れって感じに、何かを思い出すように 話すルナは、可愛い。 この話し方だと、たぶん、本当に 楽しかったんだろうと思う。 ケイシー、ルナのために、走り回ったかいがあったね。
そうして、テーブルの上には、フィッシュアンドチップスのお皿がドーン。
このお皿には、天ぷら似た感じ・・・ だけど、衣がふわっっとして美味しい白魚のフライが、ポテト、グリンピースと一緒に乗っている。 これに、塩を軽くふりかけて、モルトビネガーをちょっとだけふりかけていただくと、美味しい。
そして、お皿の端っこに 3切れ のっていた ブラックプディング・・・ これ、私は、嫌い。
腸詰め・・・ 太いソーセージを 輪切りにしたような感じなんだけれども、これが、ブラック・・・ 黒い理由って、豚の血が、入っているからなんだよね。 ごめん。 味は、嫌いじゃないけれども、イメージで、アウトです。
ツンツンと、ヨークの腕をつつくと、自分のお皿から、ブラックプディングを ヨークの方へとうつす。 お願い、食べてっ。 ヨークは、ニヤッと笑うと、そのプディングを 口に放り込んだ。 うわぁ、よく食べられるなぁ。
お腹がすいていたのか、みんな、もぐもぐ、くちゃくちゃが、止まらない。 それでも、20分もすれば、全員のお皿は空になり、もぐもぐ、くちゃくちゃは、ぺちゃくちゃ へと 変わっていった。
「それでさぁ、魔法薬は、上手くいったの?」
「うんうん。 すごく手際よくできて、ビックリした。 ヨークって、ホント、すごいわ。」
「えー。 うそっ。 もぉ、ヨーク、真面目に作っちゃったの?」
ケイシーは、なぜか、『悲嘆する安らぎの興奮薬』を、真面目に作ったことを、責める。 しかも、私じゃなくて、ヨークを・・・。 なぁんか、イヤな予感がする。
「え? だって、みんなで、頑張って採取してきた素材だし、失敗するわけには いかないだろ?」
うんうん。 優等生の回答だわ。 ヨークらしいね。
「もぉ、優等生って回答ね。 ホント、ダメよ。 あのね、魔法薬実験室って、クネクネ鉱石の鍵がかかるでしょ? だから、鍵をかけちゃえば、先生だって、入れないのよっ。 そこで、ふたりっきりなんだらから、何するかって、決まってるじゃないの。 オリヴィアだって、期待して待ってるんだから。」
ヨークの顔が、真っ赤に染まる。 うん。私も、顔が熱い。 そ・・そうですね。 ケイシーさんが、おっしゃっていること、良く分かりますっ。
「もぉ、ヨークは、まだまだ お子ちゃまねぇ。 真っ赤になっちゃってる。」
えーと、そのお子ちゃまに、押し倒されて、キスされましたけれども? そんなことを、思っていると、ケイシーの話が、ルナの方へと 飛んで行く。
「オリヴィアの服が、朝とは違っているのを、ルナが、さっき帰って来た時に気づいたのよ。 『何かあったかのかも』って、ずっと、ルナも言ってたのよ。 でも、今の2人じゃ、何も起こりそうにもないわっ。 残念っ、楽しみにしてたのに・・・。」
ルナは、私の服が変わっていることに、気付いてたんだ。 あっ、彼女のほっぺた、まっかっか。 赤くなってるっ。 これは、何か 頭の中で ご想像 あそばされていらっしゃいますね? うーん。 じつは、ルナって、こういう話 好きなのかしら?
あっ、ヨークが、まだ 固まっちゃってる。 解けそうもない石化の魔法を見て、ヨークに 代わって、私が、ケイシーに反撃することにした。
「もぉ、そんなこと言って。 ケイシーだって、ジェイコブと 2人きりだったんでしょ? もちろん、スゴいことを、してきたんだよね?」
うん。 2人っきりで、買い物に行ったけれども、どうせ、服ばっかり 選んでたんでしょ?
「甘いわね。 オリヴィアは、ジェイコブを ナメすぎよ。 ジェイコブって、すごいんだからっ。 アリス・テーキラのオシャレ魔女洋装店でね。 服を試着しようとしていたら、私が入っている試着室のカーテンをグイっと開けて、ジェイコブが入って来たの。 そのまま力強く、私を抱き寄せて・・・」
「嘘つけっ。」
しかし、こちらのケイシーの話には、すぐに、ジェイコブのツッコミが入った。
「お前が、前と同じサイズじゃ、ファスナーが閉まらなくて、閉めるのを手伝うために、試着室に入ったんだろうがっ。 しかも、抱き寄せたんじゃなくて、無理やり ファスナーを閉めようとしたから、バランスを崩して、倒れそうになったのを 助けただけだっ。 いい加減にしろっ。」
ケイシーは、舌をペロッとだして、ケラケラと、笑った。 そうして、それにつられるように、ヨークと、ルナの石化も解除されたようで、5人みんなが、爆笑した。
今日は、みんなにとって、いい休日になったみたい。
あっ、そういえば、食堂から出るタイミングで、ルナから、お土産のマフィンを渡されたんだよね。 おーい。 そんなのがあるんだったら、先に教えておいてよっ。 それなら、デザートのケーキ、食べなかったのに・・・。
寮のお部屋に戻ると、ケイシーは、スグに シャワーを浴びに行ってしまった。
そうして、ひとりお部屋に残された私は、晩御飯の食べ過ぎで、ポコッと膨れてしまったお腹をさすりながら、美味しそうな「キャラメルマフィン」と、にらめっこ することに なったのであった。
ううう・・・。
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