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2-22.嘘つきっ。

 新しいローブに着替えるため、私は、女子寮に戻った。 だって、前のローブは、燃えてしまったんだもの。 胸の部分が。


 さすがに、恥ずかしいので、そのままという訳には いかない。 隠すために首元から、胸にかけて巻いていたのは、男の子用のマント。 うーん。 ヨークの匂いがする。


 女子寮の前で、ヨークを待たせているので、あんまりマントの余韻に 浸っているわけにもいかない。 さっと、着替えたら、急いで階段を駆け降りる。


 あっ、マントを忘れてた。 急いで戻ってマントを掴むと、きれいにたたむ。 うん。きれいにして 返さないとね♪


 入り口には、もちろん、ヨークが待ってくれていた。 肩に手を伸ばして、マントを つけてあげる。 っていうか、私が、借りてたんだけどね。


 じゃ、アメリア先生に、鍵を返しに行きましょ。




[風と水の魔法使い]  【 2-22.帰って来たのかな? 】




 アメリア先生のお部屋に行くための 階段を上る前に、台車を職員室へと運ぶ。 職員室は、エセクタの先生以外の職員の皆さんが、待機しているお部屋だ。


「すみませーん。 これ、保管をお願いできますか?」


 そう、保管をお願いするのは、『悲嘆する安らぎの興奮薬』の試験管50本。 あとは、残った素材だね。 これを、薬品や素材の状態悪化を防ぐことが出来る 魔導倉庫に保管してもらうのだ。


 書類に、ヨークが、名前を書き込むと、職員が、台車ごと 試験管や素材を持って奥へと向かった。


「うん。 これで、保管してもらえる。 エセクタのいい所は、こういうのが、全部無料ってことだよね。」


 そう。 魔導倉庫のような保管場所は、ペーパー魔術符を使用している設備だ。 このペーパー魔術符が、目から火が出るほど とんでもなく高価っ。 けれども、エセクタの先生には、一部のペーパー魔術符について、それを自分で描く権利が与えられている。 まぁ、代わりに魔術符研究部でのお手伝いっていうお仕事が、課せられるらしいけれども。 だから、安い経費で、倉庫運営が出来るため、教員や生徒は、度を越さなければ、その保管を、無料でしてもらえるのだ。


 あっ、ペーパー魔術符は、勝手に描くと一応、犯罪。


 まぁ、みんな描いているらしいけどね。 ほら、朝のナイチ先生の馬車と、馬のペーパー魔術符。 少なくとも、ちょっと、大きい方は、ナイチ先生が、自分で描いてると思う。


 だから、魔法省の 魔術符研究部からの 許可っていうのは、エセクタみたいな公的機関が、描いたペーパー魔術符を 堂々と使うための、大義名分? 免罪符みたいなものかな?


 台車を預けたら、アメリア先生のお部屋へ。


「あら? 少し遅かったですね。」


 うん。ちょっとだけ、使用時間をオーバーしている。


「下で、薬品と素材を預けるのに、少し時間がかかりました。」


 ヨークが、平然と答えた。 嘘つきっ。 私は、心の中でニヤッと笑った。 あぁ、笑いそうになるのを こらえるのが 大変だ。


「あぁ、なるほど。 ということは、クスリが上手くできたのですね。 どうです? 鑑定は、必要ですか?」


「はい。 50本、預けています。 自分では、上手く『悲嘆する安らぎの興奮薬』が、できたと思うので、出来たら、アメリア先生に 見ていただければ、嬉しいです。」


 こういう所が、ヨークが、先生に 気に入られる ポイントだろう。 うまくできたから、アメリア先生に 見てほしいなんて、なかなか言えないわ。 私なら、鑑定お願いしますー。 で 終わっちゃいそうだもの。


「あら、それは楽しみですね。 後で、見ておきますわ。 それと、オリヴィア。 何もしなかったでしょうね? そうだ。 あなた、ちょっとだったら、飲んでみようとか してないでしょうね。」


 ギクッ。 なに? 読心術か、何かですか?


「いえ、まさか、私は、飲んだりしません。 先生、鑑定の済んでいない薬なんて、飲もう って思います?」


 うん。 私は、飲んでいない。 あと、飲もうと思うか どうかを 先生に聞いただけで、私が飲もうと 思ったかどうかは、答えてないから、嘘じゃない。


 あっ・・・ヨークの目が、泳いでいる。 うーん。ヨークは、もう1回、勇気の出る薬を飲む必要が、あるのかもしれないわ。


 そんなことを考えていると、私を見て、アメリア先生が、クククっと 笑った。


「そうですね。 あなたは、お母さまでは、なかったですね。 あなたのお母さまは、出来た薬を、少し舐めてみる っていうことを、いつもされていたんですよ。 少しでも、良い薬を作るには、必要だって。」


 あっ、昔、家で薬を作っているときも、そうでした。 それに、私も、そう教わりました。・・・ ってことは、どうやら、私が疑われた というよりは、ママの行動を思い出して、つい 聞いてみただけだった みたいね。


「うん。 2人とも、休日だというのに、よく頑張りました。 魔法薬の出来をみて、実習の点数に加えておきます。 それでは、鍵の受け渡しは完了です。 行ってよろしい。」


 ヨークと2人で、アメリア先生にお辞儀をすると、そのお部屋を後にする。 そうして、先生のお部屋からちょっと離れたら、2人で 顔を見合わせて、ケラケラケラと 笑った。


「もぉ、ヨークの嘘つきっ。 『下で、薬品と素材を預けるのに、少し時間がかかりました』なんて、私、笑わないように、こらえるのが、大変だったんだから。」


 まぁ、私を押し倒して、キスしてました。 とは 言えないだろうけれども。


「オリヴィアだって。『私は、飲んだりしません』って言った上に、『鑑定の済んでいない薬を、飲もうって思います?』って 逆に、先生に、聞くんだもん。」


「飲んでないもん。 嘘ついてないよ?」


 そう答えて、小首をかしげると、ヨークの顔が、真っ赤になった。 うん。 今のは、きっと、可愛く見えたはず。 よしっ! 心の中で、ガッツポーズをする。


 2人で、色々と話しながら、職員と、教員の塔を出ると、門の向こうに、エセクタの制服を着た 大群が見えた。


 あっ、帰って来たのかな?


「みんなも、帰って来た みたいだね。」


 ちょっと背伸びをして、向こうを見ながら、ヨークが、言う。


「素材、売れたかな?」


「もちろん。 あんないい素材に、値がつかないってことは、ないはずだよ。」


 あっ、そうだ。 ルナも、楽しんでくれたかな? 街は、面白かっただろうか? ケイシーは、うまくやってくれただろうか? そっちも、気になるな。


「夕食は、みんなで一緒に、摂ろうよ。 街の話も 聞きたいし。」


「うん。 もちろんっ。」


 っていって、すぐ思い出した。 そういえば、夕食の時間、私、馬車と、馬を元に戻すために、ナイチ先生に、呼び出されるかも・・・?


 うーん。 完全に、忘れてたなぁ。

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