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2-21.ナイチ先生に手をひかれ・・・

 本を眺めていると、その世界に引き込まれてしまう。


 その時、私は、横から聞こえてきた声に、ふっと、顔を上げた。 ここは、活版書店の中にある一室。


「ルナ、そろそろ 時間だよ。」


 ナイチ先生の声。 見れば、部屋の入り口に、先生と、シュツアさんが 立っている。


 時間? あっ、もう、こんな時間なんだ。


「お嬢ちゃん。 いつでもいらっしゃい。 もう何年も、その本は、ここにある。 それが、売れることはないだろうから、大丈夫じゃ。 いつでも読める。」


 シュツアさんの優しい声。 あぁ、うれしい。 ここに読みに来ていいんだ。 私は、期待を込めて、ナイチ先生の顔を見た。


「うんうん。 休日に、エセクタから 街に出てくることができるならば、出来るだけ 私が付き添うから、大丈夫だよ。 まぁ、今は、外出自体が、そう簡単ではないがね。」


 危険な闇の魔法使いであるアードルフ・シタラ=ヒムゥラが復活してから、まだまだ、日がたっていない。 緊急事態体制が、解除されたからと言って、重点警戒措置が、そう簡単に解けることは 無いのだ。


 ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店の前。


 私は、振り返って、シュツアさんに大きく手を振った。 ナイチ先生と話をしながらだけど、店の前まで、見送りに来てくれた彼が、こっちを じぃっと見てくれていたからだ。


 そうして、私は、ナイチ先生に手をひかれ、エセクタの生徒たちの集合場所へ。 帰りの馬車へと 向かうのだった。




[風と水の魔法使い]  【 2-21.報告書を提出せよ 】




 手元に、状況証拠しかない。


「この、証拠の弱さをどうにかしなければ・・・。 まぁ、状況証拠を いくつか積み上げて、ヴェセックス魔女魔法使いギルドへの 査察を入れる手法を使えばいいだろう。 そうだっ。物的な証拠は、ヴェセックス魔女魔法使いギルドと、販売した先・・・ アシリア・マーガレット・センティ=トーストの魔法植物素材園芸店で 手に入れればいい。 あぁ、先に、魔法素材の製造業者と販売業のギルドにも、査察を入れる必要があるか・・・。」


 朝のかなり早い時間であった。


 定時より、だいぶ早く、人も まばらなギルドに入った モヴシャ・ショウス・リナインは、書記官に与えられた 小さな個室で、ひとりごとを、ブツブツと呟いていた。


 トントンっ


 ドアを叩く音がする。


 こんな早い時間の、来客は、珍しい。 しかも、彼が、「どうぞっ」と答える間もなく、その扉が開いた。


「これはっ・・・フローランさんっ。 このような所にお越しにならなくとも、お呼びいただければ、すぐに そちらに参りますものを。」


 慌てて、椅子から立ち上がる。 膝が、机の角に当たったが、そんな痛みは、気にしていられない。


「いや、構わん。 座ってくれ。」


 どちらが 部屋の主か 分からない。


 偉大な 元 裁判官であるフローランは、部屋の隅に押し付けられていた 粗末な椅子を こちらに引き寄せると、それに腰掛けた。


「モヴシャくんっ。 座りたまえ。 時間が もったいない。」


 いまだ、直立不動のままの モヴシャに、いらだった声で、フローランが告げる。 その声に反応し、まるで 糸が切れた人形のように、モヴシャが 椅子に座り込んだ。


「で、どうなのだ? あぁ、ヴェセックス魔女魔法使いギルドでの 不正疑惑だ。」


「はっ、非常に 疑わしいものであります。 エセクタ魔法魔術学院の1年生が、魔女の苔は、ともかくとして、マジャンディの根、ゼルチュルナー草。 角モグラの血に、角モグラの角。 そして、極めつけが、花がついたウィッチベイビーズブレス草です。 季節を考えると、状況としては、ほぼ黒と見なしても、良いと考えられます。」


「ふんっ。 そんなものは、報告書を見れば、子供でも 分かることだ。 大切なことは、それではないだろう。」


「そ・・・それが、コレだ。 という証拠が、見つかっていないのです。 順当な流れといたしましては、ここから、査察に必要な 状況証拠を積み上げ、魔女魔法使いギルドと、魔法素材ギルドへの査察に入ります。 そして、アシリア・マーガレット・センティ=トーストですね。 魔法植物素材園芸店への強制捜査。 という流れに なると思われます。」


「状況証拠を積み上げるというのは、時間の無駄だ。 過去にさかのぼって、報告書を10、20と、追加で出せ。 査察の理由は、その数で、押し切ればいい。 どうせ、査察と、強制捜査でしか、モノは出んよ。」


「はっ、では、明日の朝までに、そのように、仕上げておきます。」


「遅いっ。 明日の朝? 違うだろう。 今日の午後だ。」


「それでは、書記官を集めて、書類を作りましょう。 午後1番で、そちらに届けます。」


 いらだちを見せ、偉大な 元 裁判官が、椅子から立ち上がった。


「お前は、バカか? 書類は、ひとりで 仕上げるんだ。 他の人間が、手を出せば 出すほど、報告書の 後出しを知る人間が 増えるんだぞ? モヴシャくん、ひとりで、仕上げなさい。 そして、提出は、午後イチだ。 分かったね。」


「はっ・・ はい。 分かりました。」


 モヴシャのその答えを 最後まで聞いたかどうかも分からない。 フローランは、きびすを返し、モヴシャに与えられている 書記官個室の ドアを開けて、そこを後にした。


「今日の午後? ・・・さすがにそれは、厳しすぎやしないか?」


 しかし、このギルドで、フローラン・トライスラーに 逆らうような愚行を犯すものは、そう居ない。 ましてや、書記官という立場で、その命に異を唱え、刃を向けるなど、あり得ないことである。


 モヴシャは、机の上にいくつかの形式の書類を並べて、ペンを走らせ始めた。 どちらにしろ、彼も、チウゾノラヒが、息子を使って行った不正を暴きたいのだ。 それなら、フローラン・トライスラーの命令に従って、書類を作る方が 良いに決まっている。


 しかし、その締め切りが、あまりにキツい。 ぶつけた時の痛みを思い出し、膝をさする。 午後イチ・・・ もし、手助けしてくれるなら、ネコでもいい。 だれか、その力を貸してくれ。 そんなことを思いながら、彼は、書類を書き続けた。


 そうして、その日の午後、偉大な 元 裁判官、フローラン・トライスラーの手元には、この2週間の間に、20を超える異常報告がなされていたとされる『ヴェセックス魔女魔法使いギルド』と『魔法素材の製造業者と販売業のギルド』の許可申請書類の控えが、その報告書の束と共に届いていた。


「ふむ。このような疑惑があるなら、面倒だが 査察をせねばならぬな。」


 彼は、自分の前に立つ書記官に向かって、わざとらしく呟いた。

無茶な締め切りに悲鳴を上げたことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★


【乃木坂の事件簿】 を書いた後、【風と水の魔女】を書こうとすると、何を書いているか分からなくなりそうに。混ざりますね。あっ、【乃木坂の事件簿】が最終章に、入りました。なんとか、12日までに、最後までたどり着ければいいです。

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