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2-19.書籍と、魔法の鍵の魔術?

 チウゾノラヒ・ペプシコカ・フェニックスは、ジェイコブ・ペプシコカ・フェニックスの父親である。 彼は、有名な植物研究家であるだけではなく、登山道の整備や、湿原の保護にも、大きく貢献してきた、グリテン島の 自然・環境保護運動の象徴でもあった。


 そして、一般に、一番良く知られているかもしれない 彼の特徴というのが、各所で噂されている「アレ」・・・。


 そう、女性に 異常に モテる のだ。


 しかも、本人は、その気がなく、女性からの好意も、ソレと気づかないのであるから、なんともタチが悪い。 そして、彼は、すでに結婚し、大きな子供までいるにもかかわらず、いまだに、彼を 慕う女性が非常に多く存在している。その反面、彼を恨む男性も多いという事実も、また、現実としてあるのであった。


 モヴシャ・ショウス・リナイン。


 彼もまた、例にもれず、学生時代に、自身が恋する女性・・・ モーリンク・メーテリスの心を、チウゾノラヒが、ヒョイっと、あまりにも簡単に さらって行ってしまったことを、未だに恨んでいのであった。 どうでもいいことではあるが、彼は、まだ、独り身である。


 そして、女性には、それほど モテない 彼ではあるが、その仕事ぶりは、地道で、危なげないものであった。 それは、彼が書記官として勤める、裁判官と公証人のギルドでも、高く評価されており、彼の言葉は、ギルド内では、ある程度の 重さを持って 受け止められていた。


 そのためだろう。 彼が、「嫉妬」という理由で、1枚の書類を問題にするとは、誰も考えることが無かった。


 まさか、「堅実という言葉が 服を着て歩いている」ようなモヴシャ・ショウス・リナインという書記官が、『ヴェセックス魔女魔法使いギルドの書類に不正の可能性!』といった重大事案を、彼の頭の中の想像以外には、ほとんど 根拠がない状態で、上層部へ報告するなどとは・・・。




[風と水の魔法使い]  【 2-19.念願!『オーゼ湿原の四季』 】




 古書を多く扱っているにもかかわらず、その建物の中に足を踏み入れると、乾いたばかりの インクの匂いがする。 すぅっと、鼻を突き、胸に沁み込んでくるような 独特の匂いである。


 ナイチ先生の言葉が、頭の上から 降りてくる。


「ルナ。 私はね、このインクの匂いが、大好きなんだ。 ただ、この匂いを嗅ぐと、なぜか、トイレに行きたくなってしまう。 すまないが、しばらく、一人で、本を見ておいて くれるかな?」


 ナイチ先生の、この生理現象は、日本人が、本屋に入ると、トイレに行きたくなる 事例に似ているのではないだろか? インクが関係しているのかどうかは、分からないが・・・。


 それはともかく、ナイチ先生に その場に置いて行かれたルナは、ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店で、ひとり、本の迷宮を 探求することとなった。


 店主のシュツア・ゲンフライ・ラデンツムが、うつらうつらと居眠りする 横を通り過ぎ、奥へ 一歩進むと、そこは、魔法薬植物の書物が並ぶコーナーであった。 ルナのお目当ては・・・ そう、ジェイコブの父、チウゾノラヒ・ペプシコカ・フェニックスの著書 『オーゼ湿原の四季』であった。


『オーゼ湿原は、海抜1400メートルに位置し、マシクーフとマングーにわたり、東はギーチトに峰を連ね、北西はターニイガ及び、ネトネト水源に接している。 この湿原は、今もなお、三千年前と同じく、少しも世俗化せず、真実に、自然と 魔法の世界の境界に存在すると言える。』


 という、世に知られた 有名な書き出しで始まる その書は、一部分ずつを写した、多くの写本は、存在するものの、印刷された本の冊数少ないため、ここ、ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店など数少ない名門書店でしか 目にすることのできない 希少本であった。


 目立つ場所に、置かれていたとはいえ、数多く並ぶ本の中から、それを見つけたルナは、手を伸ばして、その本に触れようとした。 店主が、居眠りをしている今なら、その本の中を、こっそり 見ることが出来ると思ったのだ。


 それは、微妙な 高さであった。


 少し背の小さいルナが、背伸びをして、手を伸ばす。 しかし、背表紙に指先は、届くものの、本を 取り出すまでには、至らない。 ルナが、それを試していると、何回目かの背伸びの後に、後ろから 笑い声が聞こえた。


「ははは、お嬢ちゃん。すまないね。 その本には、魔法の鍵の魔術が、かかっているんだ。」


 声の主は、先ほどまで、居眠りをしていた シュツア・ゲンフライ・ラデンツム。 そう、ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店、店主である。


 『魔法の鍵の魔術』は、クネクネ鉱石を使った魔法の鍵とは、直接的には、何の関係がない魔術。


 それは、南の賢き魔女が、生み出したもので、書類や書籍などを 他の者の手が届かぬよう保管する魔術であった。


 方法は、いたって簡単。 自らの左手の魔力、そして、右手の魔力。 それに、「忠実なる者」と呼ばれる協力者の魔力を 水晶に閉じ込めたもの。


 これらを 組み合わせて、鍵とする。


 南の賢き魔女は、それらの魔力を供給し、書類や書籍の周囲に 通さなければ、保管場所から、取り出すことが出来なくする手法を 開発したのである。 そうして、この、「魔力を供給しなければ、取り出すことが出来ない」という特徴が、魔法の鍵の 鍵と鍵穴に魔力を通すやり方に 似ている所から、一般に、この手法のことを『魔法の鍵の魔術』と呼ぶようになった・・・ というわけだ。


 その上、この手法には、書類や書籍などの盗難や それを盗み見られる事を 防ぐだけではなく、副次的な効果もあった。それは、その書類や書籍を、『魔法の鍵の魔術』を使う間に 書類や書籍に少しずつ溜まって残っている魔力が、その書類や書籍から、消えてなくなってしまうまで、火事などの際の、書類や書籍などの焼失から、防ぐことが出来るというもの。


 そういう、もろもろの理由もあり、ヨハネ・ゲンフライ・グーテンの活版書店のような古く貴重な書物を、たくさん有する書店では、当たり前のように、この魔術が、使われているのであった。


「ほう、お嬢ちゃんが見たいのは、『オーゼ湿原の四季』かね?」


 ルナは、シュツアさんに向かって、小さくうなずいた。


「うんうん。 分かった。 ちょっと、お待ちなさい。」


 シュツアさんは、小さな水晶を取り出すと、その本・・・『オーゼ湿原の四季』に押し当てた。 ぐっと、魔力を込める。 水晶が、キラキラと赤い光を放った。 おそらく、協力者である「忠実なる者」の込めた魔力が、火の属性で あったのろう。


 活版書店の本に込める魔力にしては、火属性は、ちょっと、不適切かもしれないわね ・・・そんなことをを思いながら、ルナは、期待を込めた瞳で、その本と、シュツアさんをジィッと見つめる。


「そうだな。 ここでは、読むのは無理だろう。 お嬢ちゃん、こっちのスペースに おいで。」


 本を、スルリと本棚から抜き出したシュツアさんは、ルナの手をひき、奥の部屋へと 連れて行った。


 トンっと、机の上に 本が、優しく 置かれる。


「ここで、好きなだけ お読みなさい。 あっ、こっちに、ヤスミンとドゥダイムのお茶を 置いておくけれども、本を 置いてある机で 読んではいけないよ。 飲むときは、面倒でも、必ず こちらまで来るように・・・。」


 そう言うと、シュツアさんは、先ほど、居眠りをしていた椅子へと 戻っていった。


 机の前に腰掛け、念願の『オーゼ湿原の四季』を 読み始めるルナ。 その読書は、ルナを探すナイチ先生の声に 邪魔をされるまでは、途切れることが、無かった。

人が、気持良く本を読んでいるときに、邪魔する人間には、死を・・・と思う人は、高評価を押して次の話へ⇒

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