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2-16.アシリア・マーガレット・センティ=トーストの魔法植物素材園芸店

『裁判官と公証人のギルド』。 それは、裁判官、弁護士、公証人の管轄するギルドである。


 ある日のこと、ひとりの書記官が 書類の束を ばさりと床へと落としてしまった。 あわててその紙の束を拾い集める書記官。 そこへ、速記術士の マルクス・トゥリ・ティティが 通りかかった。


「おやっ?この書類、体裁はあっているけど、内容が、ちょっとおかしくない?」


 書記官を手伝って紙の束を集めるティティが、つぶやく。 書記官は、腕の中の書類を横に置き、ティティの手の中にあった1枚の紙を受け取った。


 それは、エセクタ魔法魔術学院の生徒が申請した 素材販売のための書類の控え。


「ペプシコカ・フェニックス・・・ 彼の親類の名前か? というか、良く気づいたな。 書類の形式が間違っていないから、普通は、こんなのに 気づくことなんて出来ないぞ。」


「いやいや、季節的にありえないもの。 しかも、見てごらんよ。 申請者の身分が、エセクタの1年生だよ。 これは、申請時に 注意してチェックしていれば、止めることが 出来たんじゃないかな?」


「確かに。ティティ、君の目は、素晴らしいね。 君の前では、1匹のアリがこっそり侵入することすら難しいだろう。 さすが、マルクス・トゥリ・キケローの娘と言ったところだな。」


「よしてよ。 親は、関係ない。」


「あぁ、ただ、親が、子供を利用することは、良くある話だ。ジェイコブ・ペプシコカ・フェニックスか・・・ エセクタの1年生ならば、おそらく、チウゾノラヒの息子だろう。 ヴェセックス魔女魔法使いギルドへの 査察を入れるよう 進言しておかねばならぬ。」


 この日、この1枚の書類の控えが見つかったこと。 それが、あの騒動の元となるのであった。




[風と水の魔法使い]  【 2-16.ワロス・ネックローリ 】




 『アシリア・マーガレット・センティ=トーストの魔法植物素材園芸店』は、保守的で、庶民も 足を運ぶことのできる 魔法素材の老舗である。


 その店主 ワロス・ネックローリーは、今日も、ネコのミセス・イグリン・セシルを 膝に抱いて、その古ぼけた椅子に腰かけていた。


「ごめんくださーい。 って、きゃっ。」


 ケイシーが、ワロスさんに声をかけると、ミセス・イグリン・セシルが パっと目を覚まして、膝から 逃げ出した。 そうして、ネコは、ケイシーの足元を抜け、店の外へと駆け抜けていった。


「おや、ずいぶんと 可愛らしいお客様だね。」


「ほら、ジェイコブ。 ラヴェッロで、みんな、待ってくれてるんだから、急いでよ。」


 この日『アシリア・マーガレット・センティ=トーストの魔法植物素材園芸店』に用があるのは、ジェイコブたちだけ。 他の生徒たちは、エセクタの職員と一緒に、ラヴェッロというサンドイッチや マフィンが 美味しいカフェで、お茶をして 待ってくれているのだ。


「あぁ、すみません。 こっちの素材なんですが、買い取りを お願いできますか?」


 ジェイコブが、柳で編んだ箱形の入れ物を、ワロスさんの前に置き、その横から、ルナが、書類を差し出した。


「あらあら、こちらも 可愛いお嬢さんだこと。 ふぅん。ジェイコブ・ペプシコカ・フェニックス。 あぁ、よく似ているわ。 たくさんの女の子を 連れて歩いている所も。 大きくなったわね。」


 ジェイコブは、何も言わず、頭をちょっと下げた。 どうやら、ワロスさんも、ジェイコブの父を 知っている人物で あったようだ。


「魔女の苔に、マジャンディの根、ゼルチュルナー草。 角モグラの血は、この容器の中ね・・・。 あぁこれは、すぐに保管庫へ入れなければダメっ。 劣化させては、もったいないわ。」


 ワロスさんは、立ち上がり、角モグラの血の入った容器を 近くの魔法ケースの中へと 移動させた。


「それから、角モグラの角・・ ・美品ね。 ちょうど4本。 花がついたウィッチベイビーズブレス草は、貴重だわ。 この時期に、よく見つけたわね。 魔法の森では、季節外れの植物が生まれることもあるから、あなたたちに 幸運の天使が ほほ笑んだのかもしれないわね。 それに、今も昔も、古代森林公園では、不思議なことが起こるものだわ。 もしかして、あなたたちが、アードルフ・シタラ=ヒムゥラの復活に かかわっているのかしら?」


 ウィッチベイビーズブレス草を 鑑定し終えたワロスさんは、それを 柳の入れ物に戻すと、ジェイコブの方へと向き直った。 ルナが、少しおびえたように、ジェイコブの後ろに隠れる。 そして、ケイシーが、ジェイコブの服の袖を掴んだ。


「アードルフ・シタラ=ヒムゥラの復活ですか・・・。 直接的には、関係していませんが、ボクたちのクラスが、フィールド教練を行っているときに、その事件が起こりました。 実際に、どのような形で、彼が戻って来たかは、先生方しか ご存じありません。」


 ジェイコブは、無難な回答で、それをやり過ごす。


「ふーん。 そうなのね。 今年は、アガサの娘が エセクタに入ったと聞いたから、何か変なことが起こるだろうとは、思っていたけれども、因果なものね。 アデノーイまで、戻ってくるのだから。 お嬢さん方2人。 よく注意しておくのよ。 チウゾノラヒは、事件に首を突っ込むのが 大好きだった。 たぶん、この子も一緒ね。 同じ目をしているんだもの。 巻き込まれないように 注意しなさい。」


 ケイシーと、ルナは、不安そうにジェイコブの顔を見つめ、彼は、イヤそうに顔をゆがめた。


「で、買い取りは、可能なのかな?」


 話を変えるように、ジェイコブが、だずねる。


「喜んで 買い取らせてもらうわ。 植物採取や 魔獣狩りの専門家でも、この水準のものを 揃えるのは、難しい。 なので、このくらいでどうかしら?」


 ワロスさんは、計数盤を ジェイコブの前に 差し出す。


「かなり、いい値段をつけてもらってるので、すこし言いづらいんですが・・・ これ、4人で採取したんですよ。 4で割り切れるように、あと1枚だけ 足してもらえませんか?」


「採取したのは、フィールド教練の時だったって言ったわね。 うん。 それなら理解できるわ。 4人で割れるように、1枚足せば いいのね。」


 ワロスさんは、計数盤を ピンッとはじいた。 こうして、商談は成立。


「ちょっと、そこで座って待っていて。 お金を 持ってくるわ。」


 3人は、素直に椅子に腰かけ、奥の部屋へと向かうワロスさんの背を見つめた。

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