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2-14.フェニックスの息子

 馬車は、ポクポクと、町の中へと続く 大きな門をくぐった。 町の広場に近い空き地は、馬車が止まるには 都合の良い場所であった。


「はいっ。 馬車を降りたら、すぐにあちら。 エセクタ旗をもった 男の人の前に集まってください。」


 その方向を見れば、エセクタの職員と思われる男性が、小さな旗を 頭の上で軽く振っている。 私たちが馬車を降りた時には、すでに数人の生徒が、その前に集まっていた。


 30人くらいが集まったら、また移動。 別の 男の人が、旗を持って 同じ場所に立つ。


「はいっ。 学年と、クラスを見て、名簿の自分の名前にチェックを入れて。」


 男性職員は、名簿とペンを持って、私たち ひとりひとりにチェックを入れさせる。 チェックが終われば、その名簿に 魔力を通す。 こうすることで、この魔術具の効力が発動したのが分かる。 おそらく、迷子になったり、はぐれたりする生徒が 無いようにしているのだろう。


 その後、生徒たちは、その目的地別に、30人程度のグループに分けられた。 もちろん、普段は、このような 分け方はしない。 闇の魔法使いの復活のせいで、生徒たちには、集団行動が 課せられているのだ。


 往来を抜け、テントが並ぶ広場へと向かう。 エセグバートの街は、今日も賑やかだ。 きっと、アードルフ・シタラ=ヒムゥラの復活も、この街の魔法使いたちにとっては、ちょっとしたニュース・・・ くらいの扱いであったのだろう。




[風と水の魔法使い]  【 2-14.ヴェセックス魔女魔法使いギルド 】




 古い建物が見える。 そう、【ヴェセックス魔女魔法使いギルド】は、グリテン島西南部で最大で、西南部では、最も古い魔術系ギルドだ。


 さて、都市には、徒弟制と称される 厳格な身分制度が存在する。 エセグバートの街も、例外では無く、その頂点に立つ親方は、職人や徒弟を労働に従事させた。 もちろん、職業教育、職能教育も担っており、職人や徒弟は、親方の元で、働くと同時に、指導を受け、教育を受ける権利を有する。


 そして、重要なことは、ギルドに参加できるのは、親方資格を持つ者だけに 限られていたということである。 そう、職人や徒弟は、ギルド構成員とはされず、ギルド構成員である親方の庇護下の者として 規定され登録されている。


 しかし、魔術系ギルドだけは、その傾向に違いがある。 もちろん、民間の魔法素材店や、魔術具のお店の親方や徒弟であれば、通常のギルド構成員と同じように、親方だけが、ギルド構成員の扱いだ。


 しかし、魔法使いには、例外が、存在する。


 エセグバートの街であれば、エセクタの生徒が そうであった。 彼らは、ギルド間やその内部の取り決めなどへの 議決権は保有しないものの、ギルドの構成員と同様に扱われ、その権利を行使することが出来るのだ。




 その日のヴェセックス魔女魔法使いギルドは、いつにも増して、ごった返していた。 というのも、準構成員扱いであるエセクタ魔法魔術学院の生徒たちが、その休日に合わせて大量に・・・ 言い方は悪いが、ゴキブリのように あふれていたからだ。


「ちょっと、ジェイコブっ。 素材店へ売りに行くための登録は、こっちじゃないの?」


「先に、こっちで証紙を買っておいた方が、早いんだよ。 ケイシーとルナは、そっちに並んでおいてくれ。 証紙を買ったら、合流するから。」


 そうして、ケイシーとルナは、素材店への販売を目的とする 証明を得るため、その受付の長い列へ並ぶ。 その間に、ジェイコブは、証紙の自動魔法販売機の前へと並んだ。 やがて自分の順番が来ると、彼は、硬貨を投入し、数枚の証紙を購入した。


 必要なだけの 証紙を手に入れたジェイコブは、急いで ケイシーとルナの元へと戻る。


「おそいわよっ。 ほら、順番が来るかと思って 焦ったじゃないの。」


「わりぃ。 ただ、前のおっさんが、紙幣しか持ってなくて、手間取ってたんだ。 オレのせいじゃねぇよ。 えーと、書類は?」


 ケイシーが、数枚の書類・・・ 魔法素材販売の申請書を取り出すと、ジェイコブは、さっき買ったばかりの 証紙を、ペタペタと それに貼り付けていく。 そうして、貼り付けた書類は、ルナに ポイっと渡す。


 すべての申請書に 証紙を張り終えた時は、もうギリギリ。 受付の順番が 迫っていた。


「アブねぇ。 間に合わないかと思った。 あっ、ルナ、ありがとな。」


 ルナが差し出す書類を受け取ると、そのまま受付へと 提出する。


「ほう、古代森林公園の素材っ。 1年生か。 優秀だな。 苔は、すぐ採取できるから、ともかくとして、角モグラの血とその角・・・ しかも、美品か。 ウィッチベイビーズブレス草に、マジャンディの根、ゼルチュルナー草・・・。 お前ら、本当に1年か? この季節に、花のついたウィッチベイビーズブレス草を 採ってくるなんて、熟練の採取者でも、難しいぞ。」


「あぁ、運が 良かったんですよ。」


「あのね、おじさんっ。 申請書の名前を、ちゃんと見てよ。 ジェイコブ・ペプシコカ・フェニックス・・・ あの、チウゾノラヒ・ペプシコカ・フェニックスの息子なんだよっ。」


「おいっ、ケイシー。」


 ケイシーが、自分のことのように自慢するのを、イヤそうな顔で、ジェイコブが制止する。


「おっ、あそこの男の子か。 いや、そう言われれば、似ているな。 覚えてないだろうけれども、赤ん坊の時、私と 会ったことがあるはずだぞ。」


「え? 本当ですか?」


「まぁいい。 後ろにも、魔法使いが いっぱい並んでいる。 チウゾノラヒ氏の息子さんなら、問題ない。 全部OKだ。」


 受付のおじさんは、中身を ほとんど確認することなく、ポンポンポンと、全ての書類に 判子を押していく。


「よしっ、完了だ。 坊主っ。 いい値が付くといいなっ。 ほらよ。」


 おじさんは、ギルドに保管する控えの書類を 数枚除いてから、許可書類だけを ジェイコブに戻した。


「ちょっと、どこ行くのよ。 ルナっ、行くよ。」


 書類を受けとると、周りの目を気にするように、ジェイコブは、そそくさと その場を去ろうとする。 ケイシーは、ルナの手を掴むと、慌てて その後を追った。


「しかし、女の子2人連れで、素材の販売とは・・・。 チウゾノラヒさんも、かなりモテたらしいが、血は争えないな。」


 魔女魔法使いギルドの受付に座ったおじさんは、その背中を見ながら ひとりごち、そうして、次の魔法使いが提出する 書類を取り そのチェックを始めた。

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