1-5.リーダー腕章と副リーダーのゼッケン
ヨークが、腕に巻き付けられた ヒモを取ることが出来るまで、3か月の時間が 必要であった。
「ヨークっ。 腕を見せてごらんなさい。」
「はいっ。 アメリア先生。」
ヨークは、素直に左腕を先生の目の前へと差し出した。 巻き付いていた 緋色のヒモは、先生が指先で触るだけで、粉々となり、そして霧散した。 床に落下するのではなく、消失したのだ。
「はい。 きちんと、反省できているようですね。 みなさん。今の現象を ご覧になりましたね。」
アメリア先生は、Cクラスの全員に向かって、話しかけた。
「ヨークの 左腕に巻き付いていたヒモは、【反省のヒモ】と呼ばれます。 このヒモは、魔法使いの腕に巻きつけておくと、魔力を吸収する性質が あります。 ヨークが、この3か月間、左手から 魔法を出すことが出来なかったのは、このためです。 ヒモに込めることが出来る魔力が、満杯になった場合、ヒモは 先ほどのように消失します。 しかし、皆さんのような 小さな子供の魔法使いが、ヒモ いっぱいに 魔力を込めようと思っても、数年の時を必要とします。 それでは、困りますよね。 ですので、ヒモを巻きつける前に、反省すべき事柄について、ヨーク自身に宣誓をしてもらいました。 その事柄について、十分な反省が出来た時には、ヒモに魔力が満たされた時と同様に、消失するように 制御することが出来る 魔法契約を結んだのです。 ヨークは、自分の行ったことを、3か月間 きちんと反省しました。 これは、素晴らしいことです。 みなさん、拍手でヨークを称えましょう。」
パチパチという音が、教室中に響く。
もちろん オリヴィアも 手が痛くなるほど、一生懸命に拍手をした。
「それでは、アビーこちらへ、いらっしゃい。」
[風と水の魔法使い] 【 1-5.フィールド教練 】
『アビーのヒモ』も 同じ時間だけ 巻き付いているであろうことを、オリヴィアも、そして他のCクラスの生徒たちも、推測していた。
ざわめく生徒たちを尻目に、すくっと 椅子から立ち上がった アビーが、アメリア先生の元へと向かう。
「アビー、腕を出しなさい。」
アビーは、先生と 目を合わせようとせずに、両腕を前に上げる。
この3か月間、アビーの手首には、リストバンドのような リングブレスレッドが、巻かれていた。 そう、まさに今、アビーの手首に巻かれている物だ。 そのため、誰も、アビーの【反省のヒモ】を 見ることが 出来ないでいた。
「なるほど、魔力銀のブレスレッドですね。 外してごらんなさい。」
魔力銀と呼ばれる素材に、いくつもの 輝く石を 埋め込んだブレスレッドを、アビーがそっと手首から外す。 その下には・・・なんと、「緋色のヒモ」が、しっかりと巻き付いていた。 あの時、蛇となって床へ吸い込まれたはずなのに・・・。
アメリア先生が、その指先で、そっと緋色のヒモを撫でた。 まずは、右手首・・・ その次は、左手首。 先生の指が触れた部分から、ボロボロと 光の粒子が舞い散り、そうしてヒモは、その姿を消していく。
「いいですね。 よく反省できているようです。 アビー、あなたの行った行為は、良くないことでした。 しかし、失敗は、誰にでもあるものです。 もちろん、私にもあります。 その後の行動が大切です。 今日、あなたは、自分が行った失敗に対して、真摯に向き合ったことを証明しました。 素晴らしいです。」
「ありがとうございます。」
少しうつむいたまま、アビーが答えた。
「みなさん、アビーに拍手を。」
教室には、拍手が響く。 パチパチという音が舞う中、アビーは、自分の席へと戻っていった。
「それでは、実習について ご説明します。」
アメリア先生が、続ける。
「明日から始まる、古代森林公園でのフィールド教練は、みなさんの1年度の成績に 大きくかかわってきます。 みなさんには、森林公園内に設置された指定ポイントを通過し、ゴールを目指してもらいます。 もちろん、よいスコアを取ることも 大事です。 しかし、第一は、事故を起こさないことです。 注意事項をきちんと守って、反省のヒモの出番が無いように 頑張ってください。」
古代森林公園は、エセクタ魔法魔術学院から 20キロほど離れた河口の横にある 森林公園である。
公園といっても、整備された分かりやすいものではない。 なんというか、森・・・ そう、要は、ある程度、人の手が入って整備された 魔法の森である。
アメリア先生は、スコアという言葉を発したが、このスコア・・・ ポイントは、ただ指定された地点を通過して ゴールに向かうだけでは、得ることが出来ない。 先生方によって 隠された宝を、森の中で発見し、ゴールまで持ち帰ることで、加算され、得点と判定されるのだ。
クラスの中が、ざわざわと騒がしくなる。 今からはじまる グループ分けによって、自分の1年度の 成績が変わってくるのだから 当然だ。
「はい、それでは、みなさん。 4人ずつのグループに分かれて ください。」
28人の生徒たちは、自分の机から離れ、おのおのグループを作り始める。
「オリヴィアっ、ボクと、一緒に参加してくれないか?」
一番に声をかけてきてくれたのは、当然、ヨークであった。 そして、ヨークの隣には、少し背の低い男の子・・・。 えーと・・・ 誰だっけ?。
「ジェイコブだ。 ぼくも、一緒にいいかな?」
「もちろんっ。 えーと、じゃあ、もう一人は・・・。」
もちろん、名前知ってたわよ。 といった感じで オリヴィアは、ジェイコブと握手をし、そして、教室を見渡した。ぱっと、目が合ったのは、ケイシーであった。
エセクタ魔法魔術学院の 生徒たちは、寮生活をしている。 例にもれず、オリヴィアも、寮で生活する。 その 2人部屋の同室者・・・ ルームをシェアしているのが、ケイシーであった。
「オリヴィア、私も いいかしら?」
「もちろん大丈夫。 ケイシー。 ヨークも、ジェイコブも 大丈夫だよね?」
「あぁ、もちろん。」
2人の男の子たちは、ケイシーと握手をすると、にっこりとほほ笑んだ。
「あら? ここは、グループを作るのが早いですね。 しかも、ヨークとジェイコブが同組ですか。 期待できそうです。 それでは、リーダーは、ヨークが務めなさい。 ケイシー、オリヴィア、協力して 頑張るのですよ。」
ぐるりと、教室を回っていたアメリア先生が、4人に気づいて近づいて来たのだ。 どうやら、ジェイコブの評価も、先生の中で高いようだ。 リーダーの腕章を ヨークに渡し、注意を与えている。
「この腕章には、緊急時には、信号を発する魔法が、かかっています。 魔力を込めると、赤い光が 空へと打ち上げられるとともに、魔力の波が、森の入り口に届く仕組みです。 危ないと思ったら、魔力を込めなさい。 そして、こちらが、副リーダーがつけるゼッケンです。 こちらも、同じ仕組みです。 ジェイコブに渡しておきますので、明日の朝までに、ローブに 縫いつけておくのですよ。」
「 「 はいっ。 分かりました。 」 」
ヨークとジェイコブは、声を揃えて、先生に答えた。
「うぇぇぇ。 縫い付けるって、裁縫なんて 出来ないよ。」
アメリア先生の背中が、遠くなると、ジェイコブが、おでこに しわを寄せながら、つぶやいた。
「じゃ、私が 縫い付けてあげる。」
ケイシーが、ジェイコブの手から ひょいッと ゼッケンを取り上げる。
「授業が終わったら、裁縫道具を持って、男子寮にいくわっ。」
「あ・・・あぁ、ありがとう。 ケイシー。」
「ボクも、腕章じゃなく、ゼッケンであったら、オリヴィアが寮まで来て縫い付けてくれたかな?」
ヨークが、悔しそうに、つぶやいた。
ちょっと考えたオリヴィアは、にっこり笑って、ヨークに答えた。
「そ・・・そうね。 でも、腕章だから簡単でいいよ。 それに、ゼッケンより、腕章の方が、ヨークに似合って、かっこいいよ。」
あ・・アブなかった・・・。 裁縫なんてできないし。 あっ、でも、ゼッケン縫い付けるだけなら出来るかな? いや、危ない。 下の生地ごと 縫い付けるとか なんか 失敗しそう。 うん、神様、リーダーの印を 腕章に してくれて ありがとう。
「そうかい? かっこいい? じゃぁ、古代森林公園の教練で、もっと かっこいい所を 見せられるよう 頑張るよっ。」
機嫌が戻った ヨークは、イケメンスマイルで、ニッと オリヴィアに 笑いかけた。
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今は、思いついたことを1日1話書いて投稿していますが、それが、出来なかった場合は、数日間、投稿が無い場合があると思います。なお、寒い時と、疲れた時に、投稿が遅れる傾向が顕著に見られます。