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2-13.お目覚めの魔法は、愛のキス

 抱きかかえた ヨークの頭をなでる。


 少しカールした 金の髪が指先に絡まるのが 心地よい。 愛しい私の王子様。 彼のひたいに、私の頬を ぴたっり くっつけた。


 彼と、もっともっと くっついて いたい。 体と体でさえ 邪魔に感じてしまう。 引き寄せた彼の体の、ドキドキという胸の鼓動が、自分の心臓の音と、重なって聞こえた。 2個の心臓が 1つになったような 不思議な感覚。


 窓から差し込む 午後の太陽のせいなのか、それとも、彼の体温のせいなのか。


 体が、熱い。


 わたしたちは、まだ大人じゃない。 けれども、子供ってわけでもないんだよね。


 彼の体温を感じながら、そっと体を起こした。 もう少し、ぬくもりを感じていたいけれども、そろそろアメリア先生に、この部屋の鍵を 返さなければならない。


 唇をそっと、彼の唇に 押し当てる。 ちょっと惜しいけれども、今は、これで おしまいっ。


 転がる金だらいを、右手で そっと押しやると、私は、左手の人差し指で、水魔法を発動した。 今の私の魔法の力では、チョロチョロとしか 水を出すことが出来ないけれども、うすーい 水の膜を張るには、それで十分。


 ヨークの顔に、そっと 水の膜を当ててあげる。 優しく、窒息しないように、鼻と口は 避けて・・・。 まぶたが、ぴくぴくと動いた。 もう一度、チュっと くちづけたら、耳元で ささやく。


「ヨーク、起きてっ。 もう、鍵を返さないと、ダメだわっ。」


 すると、どうだろう。 私の愛しい王子さまは、そっと まぶたを開け、そうして、私の顔を、じっと 見つめた。


 ほらっ、王子様が、目覚めた。


 恋している魔女が使う 魔法にかなう魔術なんて、この世界のどこにも 無いんだからっ。




[風と水の魔法使い]  【 2-13.微熱は 重力にだって逆らう。 】




 唇が、離れるのを感じた。 あんっ、もう少しだけ。 離れたくない。 けれども、ヨークと、その唇は、私の顔から 離れて行ってしまう。


「お・・・オリヴィア。 いいかな?」


 もぉ・・・ ヨークったら。 こういう時は、何も言わなくていいの。


 少しだけ、たぶん、ほんの少しだけ、飲んだ『悲嘆する安らぎの興奮薬』の量が、足りなかったのかもしれない。 男の子には、もう少し勇気が必要。 でもね、優れた魔女は、簡単に 男の子の勇気を 増幅することが出来るものなのよ。


 私は、そっと、彼の胸におでこをつけた。 OKなんて、返事はしてあげない。 そのまましばらく、じぃっとしているだけ。


 うん。 ヨークにもちゃんと、伝わったみたい。


 そっと、愛しい唇が 降りてきた。 その唇は、私の髪を優しくなでた。 そうして、おでこを伝い、そのまま 頬っぺたへ。 アゴの位置で 少し躊躇した後、それが、私の首筋に移動した時には、とても熱い吐息を 感じた。


 吐息は、破れた服を乗り越えて、私の胸へと降りてくる。 浮き出た鎖骨に その唇が触れた瞬間、思わず、私は、ピクリと 動いてしまった。 そのちょっした動きに、いまだ、後頭部に当てられたままの ヨークの指が、反応した。 指は、私の髪の毛を サラサラと撫で、奥深く頭皮までたどり着くと、皮膚をサワサワと、もてあそぶ。


 熱くて、痛い。


 実験台の火を消した時に 頭からかぶった 水のしずくさえ、熱く感じる。 体が絡まって、頭の中まで こんがらがっちゃったのかもしれない。 彼の唇が通った道が、熱くて痛い。 けれども、もっと、痛くしてほしい。


 そんな思いを ヨークの冷たい耳たぶが、すっと冷ましたかと 思うと、すぐさま唇が、肌を熱した。


 このまま、あなたをを 感じたい。 イケないことを経験したい。 私の心臓の音を、ヨークの冷たい耳たぶが、聞いている。 私の鼓動を、ヨークの唇が、感じている。


 ぎゅっと、腕に力を入れ、彼の頭を 胸に抱え込んだ。


 動きにくくなったのだろう。 息苦しくなったのだろう。 彼の頭が、逃れようと 強い力で離れていく。 ダメッ。 私は、両腕に力をこめると、ぎゅっと頭を抱える。 逃がさないっ。


 私たちの頭の上では、ぐぁんぐぁんと、何かが 回る音が聞こえる。 きっと、私たちを 包む微熱がたてる音。 私たちの体・・・ 37.5度の微熱は、絡まった体を熱して、全てに逆らう。


 そう、強い闇の魔法にだって、重力にだって、逆らうことができるだろう。



 グアァァァアン



 うん。 ごめん。 重力に逆らうのは、無理だったみたい。


 ヨークの頭の上に、少し重い 何かが 落ちてきた後、バラバラと「ゼルチュルナー草」と 「マジャンディの根」が、実験台の周囲に広がって、散らばった。


 「ゼルチュルナー草」は、ベンジルイソノキリコン型アルカロイドの一種である ヒネモールを成分に含む魔法植物。 脳内や脊髄に作用し、興奮を脳に伝える神経の活動を抑制する。 強力な鎮痛作用を 持つことでも知られている薬草だ。


 アカネ科の多年草「マジャンディの根」は、トピトピ語で「吐き気を催す草」の意味を持つ。 その言葉のとおり、催吐作用のある ケファエロリンや エッチヤネン などの アルカロイドが 含まれ、特に、エッチヤネンは、スライム赤痢に効果があるため、古くから、根を乾燥させたものが、民間薬として 魔法使い以外にも 使われていたことで 知られている。


 つまるところ、散乱しているのは、「神経の活動を抑える薬草」と「悪いものを吐き出す薬草の根」だ。


 まもなくして、ヨークの口が、ドロドロの液体を、魔法薬実験室の床に 吐き出した。


 間違いない。 吐き出したのは、さっき 飲み込んだ 勇気120% のお薬 だろう。


 そうして、すでに 体の中に吸収されてしまった 勇気の出るお薬 についても、ゼルチュルナー草が、空気中に ふりまく匂いの効果によって、打ち消されてしまうだろう。 残念だけれども、夢は 冷めてしまったのだ。


 私のすぐ隣で、まだ、グワングワンと、床の上で音を立てていた 金だらいが、その動きを止めた。


 そう、この金だらいは、私が、実験前に、「ゼルチュルナー草」と「マジャンディの根」を入れて、天井に つるしていたもの。


 この、金だらいは、結構 重かった。 こんなものが、直に当たって、ヨークの頭に、たんこぶとか、出来ていないだろうか? ちょっと 心配。


 私は、もう一度 ヨークの唇にキスをした後、その耳元に、呟いた。


 「もうちょっと だったのにね。 ホント、金だらいに 邪魔されるなんて・・・ もぉ、私の覚悟を返して欲しいわっ。」


 お片付けを始めるには、私の体の上で、スヤスヤと眠る 王子様を お起ししなければならない。


 少し恨めしい気分で、金だらいを 指で つつく。


 ヨークの頭を抱えて、もうちょっと、このままの状態で居たいな。 そんな風に思いながら・・・。

金だらいを吊るした段階で、オチが読めていた人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★


 この部分、無理があるような気がしますけど、

 頭に落とすためには、吊るさざるを得ませんでした。


 あっ、たらいを忘れていた。

 ちょっとした大きさの 金だらいに、

 ゼルチュルナー草と マジャンディの根を入れて、

 天井から つるしておく。


https://ncode.syosetu.com/n9635hm/47/

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