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2-12.大人の階段

 ほんの少しの好奇心。


 ビーカーの底に残る『悲嘆する安らぎの興奮薬』の液体。 ヨークが、それを捨てようとしていたのが、ひどく もったいなく思えたのだ。


「そうだ。 ちょっと、飲んでみよっか?」


 私がそう言うと、ヨークは、顔が ちぎれるかと思うくらい、ブンブンと 首を横に振った。


「オリヴィア。 たぶん、ちゃんと 出来ていると思うけれど、魔法薬の鑑定が すんでからでなければ、こういうものは、使っちゃダメなんだよ。」


 え? 小さい頃、ママと、一緒にお薬を作った時は、出来たてを その場で 舐めさせてくれたけれどなぁ。 あっ、ゴキブリ退治用『苦しまない感謝と愛情のゴキゴキコロリン薬』を、舐めようとした時は、怒られたけれども・・・。


 私が、飲むのを あきらめずに、ヨークの手から、ビーカーを そっと奪い取ったのも、良くなかったのだろう。


「ダメだよっ。 どうしてもって言うなら、ボクが、飲むからっ。」


 そう言って、ヨークは、ビーカーを私の手から、ちょっと乱暴に奪った。そのまま、底に残った『悲嘆する安らぎの興奮薬』を 一気に飲み干して・・・。


 えぇぇぇぇっ。 こういう時、普通は、ちょっと 舐めてみるだけなのに。




[風と水の魔法使い]  【 2-12.走る火柱! 】




「ヨーク。 全部 飲んじゃったの? 指先につけて、舐めるだけだったのに・・・。」


「えっ? だって、オリヴィアが、飲んでみようか? って言ったから・・・。」


「私、小さい頃は、ママと一緒に魔法薬を作った時は、毒薬 以外は、舐めさせてもらって、味を覚えていってたの。 だから、『悲嘆する安らぎの興奮薬』も、どんな味かなぁ? って思っただけだよ。」


 あっ、1回、毒薬も舐めて怒られたけど・・・。


「そ・・・そうだったんだ。 いや、オリヴィアが、飲んじゃって、危険なことが 起こるくらいなら、ボクが飲んだ方がいいと思ったんだけど、もうちょっと 良く考えたらよかった・・・。」


 ヨークは、すっかり 落ち込んでしまった。


「ごめんね。 私、ちょっと、きちんと説明すればよかった。 しばらく、そこに座って様子を見てて。 その間に、片付け を終わらせてしまうから。」


 未鑑定の魔法薬を飲んだヨークが、どんな体調になるか、予想がつかないため、私が片づけを始めておいた方がいい。 魔法薬実験室の使用許可。 時間的なことを考えた場合、アメリア先生に、鍵を返す予定時間に 間に合わなくなるかもしれないからだ。


「うん。オリヴィア、ごめんね。 じゃぁ、ボクは、ノートをまとめておくよ。」


 そう言って、ヨークは、椅子に座って、実験ノートに メモをし始めた。


 粒状のスズは、そのまま使えるから、袋に入れて封をしたら、準備室に帰しておこう。 残っているジエチルライフエーテルは、そのまま ながしに流しちゃえばいっかな? あっ、ステンレス部分に油が流れたみたいな跡がついちゃった・・・。


 流しの、ステンレス部分には、油が流れたみたいな虹色の跡が残り、水溜りに、油が浮いて そこも 虹色になっている。


 ヤバっ。


 これを そのままにしておいたら、魔法廃溶液を、そのまま流しに捨てたことが、バレちゃう。 いや、ホントは、ダメなんだよね。 魔法廃溶液を流しに捨てちゃ・・・。


 水を、ザーッと、流しっぱなしにして、他の片づけを先にしていく。 使ったビーカーや、試験管、受け皿。 全部 きれいに洗ったら、それを、乾かさなきゃ。 アセットンネンという溶液を取り出す。 これを使って、洗えば、すぐ乾くのよね。


 こうして、使い終わった器具を 乾かし終えたら、もう一度、流しを見に行く。


 どうだろう? もう、油の流れたような跡は、消えてなくなったかなぁ。


 ダメだっ。


 きれいな虹色っ。 このままにして置いたら、バレちゃうよね。 私は、器具を片づけているふりをして、実験室の隣、準備室へと駆けこんだ。 えーと・・・あれでもない、これでもない・・・ 絶対 あるはずなんだけどなぁ。


 ガタガタと、容器を動かして見つけたのは、メタメタニナール。 この液体には、不思議な特性があって、水と油の両方の性質を持っている。


 10ミリリットルもあればいいでしょ。 小さなコップ。 適当な量をそれを注ぎ、さっきの流し台へっ。 ざっと、振りかけるように 回しながら 注ぎ込んだら、水を もう一回流すっ。


 おぉ、完璧っ。 水と油に溶け込む メタメタニナールは、ジエチルライフエーテルの虹色を完璧に 水に溶け込ませたみたい。 ステンレスの流しの美しい虹は、あっという間に消え、水たまり部分の虹色も、目立たなくなった。


 あとは、水を流し続ければ・・・。 よしっ証拠隠滅成功ね。 完璧っ。


 思わずガッツポーズが、出てしまった。


 私は、油断していた。 というのも、ガッツポーズをした時の肘が、実験台のニトロコンスタンティンの瓶に 当たってしまったのだ。 おっと危ない。 慌てて それを取ろうとしたのが 悪かった。 転がる瓶のふたが開き、その溶液が、私のローブの方へっ。


 あぁん。 かかっちゃう。



 ボンッ。



 その瞬間、実験台の上に、火柱が走った。


 ニトロコンスタンティンは、特異的な臭気のある淡黄色の油状液体だ。 そうして、魔法薬安全衛生法施行令(名称を通知すべき有害物)第428号にも指定されている物質である。 可燃性があり、火災時に刺激性あるいは有毒なフュームやガスを放出する。 そうして、強酸と激しく反応し、爆発の危険をもたらす。


 そういえば、横に置いてある容器・・・ ハイドロシロリックアシッドは、アシッドというだけあって、強酸だ。 ダメっ。 混ぜるな危険っ。 ちょっと、火が付いたくらいなら、何とかなるだろうけれど、爆発はダメよっ。 あわてて、左手の人差し指で 水魔法を形成。 水の膜を作り、火を消す。 そして、ニトロコンスタンティンの瓶を 元通りに立てる。


 よかった。 何にも 起こらなくて・・・。 っていうか、何も 起こらなかった!


「オリヴィアっ。大丈夫かい?」


 あっ・・・。 ヨークが 居たんだった。 忘れてた。 うーん。実験台の焦げ目も 大したことないから、よく、擦れば 消えるだろうし、何もなかった ということで・・・。


 ヨークに、証拠隠滅を持ちかけようと、顔を上げると、目の前に、そのヨークの顔があった。


「オリヴィア、その・・服が・・・。」


 慌てて、自分の服を見る。 あぁぁぁっ。 なんと、ニトロコンスタンティンで ちょっと燃えてしまった服が、破れてしまい、下着が見えている。 もぉ、ヨークの前なのにっ。


 って、ヨーク?


 後頭部のあたりに、ヨークの大きな手が当てられた。 ヨーク顔が近づく。 何の言葉を いう間もない。 唇と唇がぶつかった。


 私の体は、そのまま、魔法薬実験室の床に押し倒される。 あれ? 私、このまま大人の階段を 昇っちゃうのかしら?

駅で、階段ではなく、エスカレーターを使う人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★


予告通り、昨日投稿の閑話は、削除いたしました。

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