2-11.悲嘆する安らぎの興奮薬
ケイシーたちが、街へと出発したら、アメリア先生の お部屋へ。
ヨークが、さりげなく 手を握ってきた。 なんか、いい感じ。
「作るのは、悲嘆する安らぎの興奮薬で、間違いないですね。」
アメリア先生が、申請書を見ながら、確認する。
「はい。 フィールド教練の時に 角モグラの血を 手に入れたので、それを使って、調合します。」
「そうですね。 それは、倉庫の使用許可の時に確認しています。 かなり質の良い 角モグラの血ですので、素材屋に販売するのかと 思っていました。」
「半分は、今日、ジェイコブたちに、売ってきてもらいます。 残りの半分を 調合に使おうと思っています。」
「なるほど。 計画的で、よい方法です。 まぁ、ヨークでしたら、心配はないでしょう。 これが、魔法薬実験室のカギです。」
先生が、くねくねと ひとりでに動いて 形を変える鍵を取り出した。 ペセブン山脈で採れる クネクネ鉱石を使った、魔法の鍵だ。
「それでは、今から、午後1時までの部屋の使用を認めます。 大丈夫だと思いますが、くれぐれも、事故には 気を付けるのですよ。」
なぜか、アメリア先生は、事故の話の時だけ、私の顔をじっと見つめた。 うん。 まったく、理由が 分からないわ。
[風と水の魔法使い] 【 2-11.魔法薬の調合 】
ヨークが、魔法の鍵を 鍵穴に差し込む。 そして、自分の魔力を 鍵と鍵穴に、注入した。
「ちょっと、時間が かかるんだよね。」
クネクネ鉱石は、形状を 記憶することが出来る 魔法の金属の元となる 鉱石だ。 その金属で作られたのが、鍵の形に合わせて その形状を変える 魔法の鍵。 エセクタの教室の鍵は、より複雑で、鍵穴にも クネクネ鉱石が、使われている。
これによって、鍵の形が、その都度 変わるため、ひじょうに強い 防犯効果を持つとともに、少し専門的な技術が必要にはなるが、鍵を開けるために魔力を供給した人を 特定することも できる。 このため、なにか良からぬことをたくらむ 生徒たちの、イタズラを 抑止するのにも 役立っている。
2分くらいして、鍵穴が、ガチャリと音をたてた。
「うん。 開いたみたいだよ。 オリヴィア、中に入ろう。」
ヨークが、ドアを開けて、エスコートしてくれた。 ちょっとしたお姫様気分っ・・・ なんだけど、この匂いが、チョットね。 そう、魔法薬実験室は、薬品の匂いと、魔法薬用植物の匂いがこもっていて、ロマンティックというには、少し 残念なお部屋なの。
ヨークと2人で、空気を 入れ替えるために、窓を開けていく。 そうして、魔法薬準備室への扉も 開放。 そこから、必要な薬品を取ってきて 並べていく。
ニトロコンスタンティンでしょ? それから、粒状のスズ。 ハイドロシロリックアシッド。 ソディウムイヌファイトとジエチルライフエーテル。 ソディウムナイトライトレイト。 フェラッパノールにナフスキントール。
えぇと、これでOKかなぁ?
あっ、たらいを忘れていた。 ちょっとした大きさの 金だらいに、ゼルチュルナー草と マジャンディの根を入れて、天井から つるしておく。
よしっ、私の方の準備は、完了。
その間に、ヨークが、氷水に浸けた容器の中に、角モグラの血をうつしていた。 質が落ちないように、冷やしておくのだ。
さぁ、ここからは、ヨークのお手並み拝見だわっ。 ニトロコンスタンティンを ビーカーに入れたら、粒状のスズを加える。 さらに濃いハイドロシロリックアシッドを 少しずつ加え、温浴器で 温度を50度に 保つ。
そうして、この溶液に ソディウムイヌファイト水溶液を少しずつ加える。 ここで出来た沈殿が、再び溶けて 均一な乳濁液になるように、ゆっくりと。 この液体に、ジエチルライフエーテルを 少し加えて、ビーカーにフタをしたら、シェイクっ! 良く混ぜて、静置する。 落ち着いたら、上澄みを ピペットで吸い取って、容器に取る。 うん、出来上がりね。
まず、第一段階が、問題なく終了。 じゃ、次の行程は、私がやる部分。
この液体に、薄めたハイドロシロリックアシッドを加えてよく混ぜる。 これに大きめの氷をいれて、良くかき混ぜたら、そのまま ゆっくり混ぜながら、ソディウムナイトライトレイトを 少しずつ加える。
わぁ、液体の色が 淡黄色に 変わった。
じゃぁ、最後の仕上げは、ヨークにやってもらおう。
フェラッパノールをとり、ソディウムイヌファイトをくわえる。 そこに、さっき、私が作った液体をいれたら、淡黄色が橙色にっ。
ナフスキントールを少しとり、ソディウムイヌファイトの溶液を加えて、加熱。 溶けたならば、さっきの 橙色の液体を 注ぎ込む。
こうして出来た 橙赤色の液体と、同量の 角モグラの血を 混ぜたら、シュゥゥゥ という音をたてて、ちょっとした 煙とともに、『悲嘆する安らぎの興奮薬』の完成っ。
やった。 成功だわ。
完璧な『悲嘆する安らぎの興奮薬』。 でも、安心してはいけない。 これを、実験テーブルの上・・・ 50本並べた試験管に 詰めなくては ならない。 こぼさないように、丁寧に。 2人で手分けをして、50本の試験管に 詰める。 そうして、最後の ゴム栓を 締めた時には、お昼が 近くなっていた。
「おわったぁぁぁぁぁ。」
「うん。 なんか、すごくスムーズに いったよね? 途中、ちょっとくらいは、失敗があるかと 思ってたのに。」
ヨークの手際が、すごく良かったんだよね。 手順通り、詰まることも、間違えることも無い。
「ビーカーに『悲嘆する安らぎの興奮薬』が 残ってるね。 もったいないけど、処分しちゃおう。」
ヨークが、ビーカーに ほんの少し残った『悲嘆する安らぎの興奮薬』を 捨てようとしている。
「そうだ。 ちょっと、飲んでみよっか?」
それは、ちょっとした出来心。 私は、出来上がった『悲嘆する安らぎの興奮薬』の残りを 飲んでみようと思ったのだ。
それが、どんな結果を 招いてしまうかも 知らずに・・・。
今日は、後書きを先に書いたことに気づいた人は、高評価を押して次の話へ⇒
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
何がヤバいって、20時過ぎに電話がかかってきたこと。
延々と、少なくとも30分間・・・
ちょっとした、ご相談ごとのお電話でした。
私、この時、【乃木坂の事件簿】を書いていました。
ということで、【乃木坂の事件簿】第 17 話に、スマホで、
着信音が流れる場面が出てくるのは、そのせいです。
あっ、その段階で、[風と水の魔法使い] は、1行も書いて
いませんでした。というより、乃木坂の事件簿ですら、
スマホの着信の所でしたから。
ということで、さぁ、いまから書こっと・・・。
(まだ、書いてないんかいっ。)




