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2-9.彼の厚い胸板の中で

 今、ナイチ先生は、何て言った?


 ちょっと待って。  確か「両手の指を 全部くっつけて」って言ったよね。


 普通の魔法使いは、手の平から、魔力を放出する。 でも、私は、指先から。 けれども、指先全部から、魔力を放出できるなんて、言ったことはない。


 背中に一筋の汗が流れる。 先生は、気づいてるのかな? もしかして。 尋ねることも出来ない。


 パパは、私は特別だから、風と水以外の魔法は、見せちゃいけない って言ってた。 それは、きっと、魔力についても・・・。 それに、左手の中指の魔力では、この前、失敗したばっかり。 また、同じように 白い光の柱を 立てるわけにはいかない。


 後ろで、じっと 見つめているはずの、ナイチ先生の視線を感じながら、大きめの ペーパー魔術符に、両手の指をつける。 そうして、ナイチ先生に見つからないように、人差し指以外を、ちょっとだけ 離してみた。


 あっ、だめ。 手が震えちゃう。 指を1本だけ くっつけて、他の指は、浮かせたら、安定しないから、手が プルプル震えちゃう。 仕方ない。 もう一度、10本の指 全部を ペーパーにくっつける。 そうして、左右の手の 中指だけ、3mmほど、浮かせてみた。


 うん。 これなら、何とか安定した形になる。 これで、人差し指以外からは、魔量を放出しないように気を付けながら、ペーパーに魔力を供給すればいいんだよ。 そう思ったんだけど・・・。


 困った。 ナイチ先生が言った通り、この大きなペーパーの発動は、必要となる魔力が、カボチャの時より多い。


 どうしよう・・・ 時間が、かかり過ぎちゃう。 えーと・・・ 中指以外なら、大丈夫かしら? あまりに 魔力の供給が うまくいかないため、私は、秘密にしていた、小指の魔力を 使うことにした。


 そっと、左手の小指の魔力を通す。 そして、右手の小指の魔力も・・・。 魔力を供給しながら、つま先を持ち上げる。 うん。 靴の先が、ペーパー魔術符の端に くっつけば、何とかなる・・・。 両足の先を 垂れ下がるペーパーの 端っこ寄せるようにくっつけて、両足の小指からも、魔力の供給を開始・・・。


 これで、2本プラス4本。 合計6本の指からの 魔力供給のおかげで、ネズミたちが、大きくなり始めた。


 一度大きくなり始めると、早いっ。 かごを突き破り、グングンと 大きくなるネズミたち。


「オリヴィアっ、危ない。」


 つま先を立てて、かかと立ちのような恰好になっていたため、ネズミの変化に対応できず、後ろに 転びそうになった 私を、ナイチ先生が、慌てて 抱きかかえる。


 そうして、そのまま 安全な後方へと 避難することが出来た。


 あぶないっ。 あのままの体勢で こけちゃってたら、馬に 踏みつぶされるところだったわ・・・。





[風と水の魔法使い]  【 2-9.知られてはならない秘密 】





 気づいたら、ナイチ先生の 腕の中だった。


 うわっ。 先生って、結構、筋肉質っ。 胸板も、厚いんだね。 そういえば、従軍してたって 言っていたな。 そっかぁ、知的な印象だけど、思ってたより ワイルドなんだ。


「オリヴィア。 大丈夫かい?」


「あっ、先生。 ありがとうございます。」


 慌てて、先生の腕の中から 飛び出る。 スカートの裾を パタパタとはたいて、砂ぼこりを 落とすと、目の前には、40頭を超える馬が、並んでいた。


「うーん。 さすがに 45頭を 一気に馬に変えるのは、無理があったか・・・。」


 いや、ナイチ先生。 それは、やる前に 気づいてっ。 ほんと・・・ 潰されるところだったもん。


「馬を 馬車に繋がなければダメだ。 邪魔になるから、ちょっと、ここから離れようか。」


 ナイチ先生に うながされ、エセクタの職員たちから 少し離れた場所に 移動する。


「うん。 ここなら、誰にも聞かれない。 オリヴィア、答える必要は無いから、聞いておくように。 まず、さっきのペーパー魔術符は、魔力の供給量を 測定することが 出来る。 いや、測定のルース文字なんてものは、私では、描けないよ。 そうじゃない。」


 あのペーパー魔術符は、発動に必要な魔力が、普通のペーパーと比べて多いため、普通のペーパーと 発動までの時間を 比較することで、魔力の供給量を 測定出来てしまうらしい。


「そうして、オリヴィア。 君が、左手の人差し指1本で 供給したカボチャのペーパーと比べて、10本の指で供給した 大きなペーパーでの 時間は、5倍程度だったんだ。 つまり、魔力供給で、使っていない指が 存在するってことだね。」


 まさか、ペーパーを 発動するだけで、そんなことが 分かるなんて・・・。


「いや、責めているわけじゃない。 さっき言ったように、答える必要もないからね。 私は、先日の、東塔のはずれの 光の柱の原因は、オリヴィア、君が 作ったんじゃないかと 考えている。 どうだろう? 使えなかった指は、それに 関係しているんじゃないかな?」


 思わず 頷きそうになって、顔が、ピクリと動いてしまった。 ナイチ先生が、怖いっ。


「私は、君のアガサと、アデノーイ・・・ じゃない、アードルフ・シタラ=ヒムゥラと 交流があった。 だから、魔術の世界の深淵に触れる機会も・・・ ほんの少しだけれども、あったんだ。」


 いつもは、優しいナイチ先生が、厳しい声で言う。


「オリヴィア、君のお母さんの友人としての忠告だ。 事実がどうであるかは、私は知らないし、確かめようとも思わない。 けれども、君が、3属性以上の魔法を 使うことができるのであれば、それを 徹底的に隠しなさい。 それと、魔力の放出は、人差し指からだけ 行いなうようにしなさい。 他の指で魔法は、使えない。 いや、使わないということを守りなさい。 君の安全のために、そのように 立ち回る必要がある。 いいかい。 すでに、魔法省、特に ランスロット・マーリン部は、3属性以上の魔法を使うことが出来る者を、悪と決めて、徹底的に 排除しようとしている。 オリヴィア、分かったね。」


 私が、小さくうなずくと、ナイチ先生が、私の頭を なでで言った。


「今日は、朝早くから、よく頑張った。 『魔法治療学』の得点に、50点プラスしておこう。 そろそろ、朝食の準備が出来る時間だ。 寮に、戻っていいよ。」


 正門から、てくてくと、寮へ向かう。


 ナイチ先生は、どのくらい私ののことを知ってるんだろう? 秘密には してくれそうだけれども、味方には なってくれそうだけれども、それが 分からないから、不安で 仕方ない。


 そんなことを考えながら、男子寮の前を通り過ぎ、女子寮へ向かおうとした時、ネコのウィンスチチルが、何かを くわえて 走っていくのが見えた。



 ん? お魚かな? ドスンッ。



 ウィンスチチルを見たまま、歩いていたのが 良くなかった。 前を歩いていた人に、ぶつかって、転んでしまったのだ。


「え? オリヴィア?」


「ヨーク?」


 気づいたときには、彼の 腕の中だった。 そう、ちょうど、男子寮から出てきたところの ヨークに 気づくかなかったのだ。


 私の顔の前にある ヨークの胸板は、うーん・・・ ナイチ先生と 比べちゃうと、ちょっと貧弱。 でも、ヨークも、そこそこ 筋肉 ついてるのね。


「お・・・ オリヴィア・・・ どうしたの?」


 気づいたら、私は、ヨークの胸を サワサワしちゃっていた。 そうして、目の前には、真っ赤になった ヨークの顔・・・。


 あっ・・・ 私、やっちゃったかも・・・。

お魚をくわえているのは、ドラ猫か?野良猫か? どっちが正解かをを知っている人は、高評価を押して次の話へ⇒

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