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2-8.君のすべての指を・・・

 その日の朝早く、まだ、朝日が刺し込むこともない 寮の部屋に、エセクタの女性職員が やって来た。


「オリヴィアさんは、いらっしゃいますか?」


 あっ、いません。 寝てます。


 私は、寝ていたかったんだけど、ケイシーに、たたき起こされた。 仕方なく、ベッドから はいずり出て、顔を洗ってから、ドアを開ける。


「おやすみのところ、すみません。」


 うん。許さない。 だいたい その顔は、すみませんって 思ってないよね? 私は、にっこり笑って答える。


「大丈夫です。 もう、起きてましたから。」


「ナイチ先生が、お呼びです。 正門まで、お越しいただけますか?」


 えぇ、もう一回 寝ようと思ってたのに・・・。 仕方ない。 着替えるか。 エセクタの女性職員を廊下に待たせて、早着替え開始っ。 バタバタッと、パジャマを脱ぎ、服をパパパッと着る。


 最後に、ハンガーにかけてあった ローブを手に取る。 装備すると魔力と魔法回避率が上昇したような気持ちになる ダークブラウンの それを羽織ると、お着替えは、完了だっ。


「お待たせしました。」


 ドアを開け、廊下に飛び出す。


 そうして、私は、エセクタの職員に連れられ、まだ薄暗い 正門へと 向かうことになった。




[風と水の魔法使い]  【 2-8.カボチャの馬車と、ネズミの馬 】




「あぁ、オリヴィア。 朝早くごめんね。」


 正門にたどり着くと、ナイチ先生が、優しく 声をかけてきた。


 足元には、カボチャが10個くらい? それに、3つの木カゴに分けて入れられた ネズミが イッパイ。 30匹? もうちょっと 居るかな?


「オリヴィア。 実は、この前の『魔法治療学』の試験結果が、ちょっと良くない。」


 あっ・・・ そういえば、休日前に教えてくれるはずだった 点数を、まだ教えてもらってない。


「いや、実技は、学年で1番だ。 おそらく、オリヴィアは、今すぐ 治癒の実践部隊に配備されても、遜色ない働きが 出来るだろうね。 だけど、筆記試験が少しね。 なので、街に出かける生徒たちの馬車と 馬を用意する お仕事をしてもらうことで、少し、加点することにしよう。」


 このままじゃ、試験に合格できないから、こっそり 点数を足してもらえるってことね。 ナイチ先生は、優しくていい人だわっ。


 正門の前、5メートルほどの間隔をとって、かぼちゃが置かれていく。 一番向こうまで カボチャを持って行ったエセクタの職員が、ちょっと小さく見える。


 ナイチ先生が、かぼちゃの上に ペーパー魔術符を置く。


「あれ? 前の時と違いますよね?」


「これが、分かるのかい? オリヴィアは、本当に ルース魔法文字が読めるんだね。」


 うん。 書いてる内容が、ぜんぜんっ 違うもん。


「実は、こっちは、私が書いたものだ。 前のペーパーは、魔法省の魔術符研究部から購入した 正規品だ。 だけど、今回は、150人近くの生徒と、それに帯同する 引率のエセクタの職員を連れて行かなくては ダメだからね。 馬車の中の空間を 拡張する術式を 組み込まなきゃダメだ。 ちょっとだけ 法に抵触するけれども、魔法省の人間も 時々やってる行為だから、問題になることは、無い。」


 ふーん。 ってことは、ナイチ先生も、ルース魔法文字を 理解しているって ことだよね? たしか、ルースの後継国家の キナコ公国でも、ペラルース公国も、帝政ロスマであっても、これを読める者はいないって、フィールド教練の時に、ヨークが言ってたような気がするんだけど。


「いや、私は、エセクタ在学中に、君のお母さんと、もう一人に教わったんだよ。 2人とも、本当に、優秀な生徒だったんだ。」


 私は、キディヒ先生の研究室で聞いた話を 思い出した。


 ・・・それって、アードルフ・シタラ=ヒムゥラってことかな?


「おっと、それを 大きな声で 言ってはいけない。 そうか、オリヴィアは、彼が、在学中に私たちと 交流があったことを 知っているのか・・・。 そうだね。 私は、まさに、彼とアガサの生徒だったんだよ。 まぁ、3人とも、その時点では、エセクタで学ぶ生徒だけど。 まぁ そのくらい、オリヴィアのお母さんは優秀だったってことだ。 そういうことで、私は、ルース魔法文字を理解しているとは言えないが、いくつかの文字と、文法は、解読することができるよ。」


 そう言いながら、ペーパー魔術符を指差して、ナイチ先生は 言う。


「昔話は、これくらいにしよう。 それじゃ、魔力を通して もらえるかな?」


 ペーパーに魔力を通さないと、カボチャは、カボチャのまま。 出発の準備は、出来ない。 私は、うながされるままに、左手の人差し指の先を、カボチャに当てて、魔力を通した。


「よし、じゃぁ、後ろに下がろう。」


 今日のカボチャは、緑色じゃない。 たぶん、ペポカボチャ。 その橙色のカボチャが、見る見るうちに大きくなっていく。 まずは、1個の馬車が完成。 そうしたら、5メートルほど歩いて、もう1個。 さらに、もう1個・・・。 全部のカボチャの馬車が完成したころには、30分ほどの時間が過ぎ、正門の周辺も、気持ちの良い 朝日で 明るくなっていた。


「うんうん。 オリヴィアは、とっても優秀だね。 これで、みんなも 街へのお出かけを、楽しめるよ。 じゃぁ、最後に、ネズミを 馬車をひく馬に変えて、終わりにしようか。」


 3つの木かごを、2人のエセクタの職員が、こちらまで 運んできた。 移動しながら、カボチャの魔術符に 魔力を通していたから、私たちは、最初に 木かごを置いていた正門から、もう50メートル以上も 離れてしまっている。


 地面の上に置かれた木かご。 周りには、10人以上の エセクタ職員が取り囲む。


 えーと・・・ そんなに囲まれたら、気になって 仕方ないんですけど・・・。


「オリヴィア。 気にしなくていい。 今回は、45匹のネズミを馬に変えるからね。 さすがに45頭の馬を、管理するには、このくらいの人数が必要なんだよ。」


 そっか。 150人も街に行くんだもんね。 そのくらい たくさんの馬が、必要なのね。


 ナイチ先生の取り出した ペーパー魔術符。 こちらも、この前の時とは違って、かなりの大きさのペーパーだった。


「まぁ、こっちのペーパーは、大したことをしたわけじゃない。 魔術符研究部のペーパーに 描かれている普通の術式に、いくつか足して、より多くのネズミを 馬に変えられるようにしただけだ。」


 そう言って、ナイチ先生が、3つの木カゴ全部に、かかるよう調整しながら、ペーパー魔術符をのせた。


「さぁ、オリヴィア。 魔力を通してくれるかな?」


 ナイチ先生にうながされ、今度は、片手ではなく、両手の人差し指を 大きなペーパー魔術符にくっつける。


 そして、魔力を通そうとした。


「オリヴィア、ちょっと待ってくれるかな? このペーパーの発動には、ちょっとだけ 魔力が多く必要だ。 両手の指を 全部くっつけて、魔力を 通してみてごらん。」


 えっ? 両手の指を全部? 10本 全部ってこと?


 私は、思わず顔を上げ、ナイチ先生を見上げた。 先生は、いつもと同じ笑顔で、私の目を見て、軽くうなずいた。


 嘘っ・・・どうしよう?

「カボチャは、黄金色の馬車」。「ハツカネズミは馬」。じゃぁ、「とかげ」は、何になったか知っている人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★

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