2-4.キディヒ先生の授業とお昼寝
少し早足で、東棟のはずれから離れた後、ゆっくり歩いて寮まで、戻る。 次の授業は、魔法素材工学。 教科書と、魔法素材図鑑、それから、素材実験の手引きという参考書を 持っていかなくてはならない。
魔法素材図鑑って、けっこう 重いんだよね。
階段を上って、寮のお部屋へ。 ドアを開けると、ケイシーの大きな声がした。
「おっそぉぉぉい。」
えっ? ケイシー? それに、ルナっ。
「ルナが、わざわざ、オリヴィアのために、サンドイッチを確保してくれたんだよ。 どこに行ってたのよ。 あっ、時間が無いから 答えなくていいわ。 あなたの教科書と参考書は、もうバッグに 放り込んだから、さっさと 食べなさいよ。 ホント、オリヴィアを待ってたら、遅れちゃう。」
「え? ルナが・・・? ありがとう。」
「ううん。 ごめん。 私が勝手にしたことだから、気にしないで。 キライだったら、残していいからね。」
ルナが、用意してくれていたのは、食堂で一番人気の「BLT」サンドイッチ。
パンとパンの間に、ベーコン B と レタス L と トマト T が 挟まれている。
香ばしく焼けたベーコンと、みずみずしいレタスとトマトのシャキシャキ感が、たまらない。
そして、トマト、玉ねぎ、人参、セロリ、合挽ミンチと、オリーブ油とにんにく、そして、生クリームとみりん、胡椒、ナツメグを混ぜた 特製ソースが、その こぼれ落ちるおいしさを 引き立てる。
「うわぁ、BLTだ。 これ、いつも、すぐに無くなっちゃうから、なかなか 食べられないのよね。」
「そうよ、ルナが、オリヴィアのために並んで、確保したんだから、感謝して食べなさいよ。」
[風と水の魔法使い] 【 2-4.BLTと特製ソース 】
「もぉ、オリヴィアが、特製ソースを ローブに こぼしちゃうから、遅れちゃったじゃない。」
「ごめん。 あんまりにも美味しそうで、パクって 一気にいったのが、失敗だった。」
「急いで 食べなきゃダメなのに、BLTを選んだ 私が悪かったの。 ごめんなさいっ。」
ルナが、かわいすぎる。
私が、ソースを 服にこぼしただけなのに、ルナが、ケイシーに謝り続けている。 教室までの数分間、ケイシーとルナを見ていると、すごく面白かった。 うん。いいコンビだ。
「オリヴィアっ。 何、笑ってんのよ。」
こうして、仲良く3人 遅刻して、教室に飛び込む。
「おそいっ。 スグに、席に着きなさい。」
白ヒゲの おじいちゃん先生が、遅れてきた 私たちを にらむ。 あぁん。ごめんなさいぃぃ。
このキディヒ・ワカラシー先生は、極端に 魔力が少ないことで有名。 ただし、魔法素材学と魔法材料工学の研究家としても、有名な魔導化学者・・・ らしい。 私は、知らなかったけど。
「えーと、まず最初に、注意事項から。 光の柱を見た者も居ると思うが、東棟のはずれで、闇属性の魔力が検知された。 エセクタの境界付近に近づくときは、必ず3名以上で行動するように。 分かったな。 特に、オリヴィア君。」
「は・・・ はいっ。」
突然、キディヒ先生に、名指しで 注意された。
もしかして、私が、あそこに居たことは、先生方全員に、伝わっているのかしら?
「それでは、ラクッチン・ナッタデコッコ触媒を使った、ポリレアチーズン重合について 勉強していこう。」
それでは、教科書の666ページを開いて・・・ と言った後、キディヒ先生の声が、流れるように続く。
まずは、「魔法不活性アルアルガス」下で、魔法触媒である「テトラブトキシラスコヴニク」と「トリエチルアクシャヤヴァタ」を「グウィディオン」のような有機溶媒に溶かすことで、均一系「ラクッチング・ナッタデコッコ触媒」溶液を 調製する。
室温で1時間の熟成を行い、さらに150℃の温度で1時間の間、高温熟成を行った重合容器に その触媒溶液を・・・
キディヒ先生の声は、とても低く、心地よい。
ルナの BLTサンドイッチで おなか一杯になっていた私は、お昼の ポカポカ陽気にも 誘われて、夢の世界へと旅立っていった。
パシンッ
突然の頭への衝撃で、目が覚めた。
「どうやら、偉大な南の大魔女さまの娘 は、このような素材学には、興味がないらしい。 母親も、私の教える実習で、大きな失敗をしてくれたが、親子ともども よく似ているっ。」
あら? ママも この先生に教わったんだ。 そうね。 こんなお年寄りなんだもの。 長くエセクタで 教えていても、おかしくないわよね。
そんな風に考えていたら、ツンツンっと 指が伸びてきた。 ん? ヨーク?
「これ、使って。」
ヨークが、ハンカチを出してくれてる。 えっ。 よだれ? ちょっ・・・。 ヤダ・・・ ヨークに寝起きで、よだれを垂れてる顔を 見られた。 顔が熱い。 しかも、ハンカチ使っちゃった。 洗って返さなきゃ・・・。 もぉ、恥ずかしいっ。
そうこうしている間に、授業終了。
「今日の授業の内容を、次の授業の最初に 小テストで 確認をする。 きちんと復習しておくようにっ。」
えっぇぇえ。 全く聞いてない。
寝て起きて、ハンカチのことを考えてたら、授業が終わってた感じ。 あっ、ケイシーが、ルナにノートを借りようとしてる。 わ・・・ 私もっ。
「いやぁ、オリヴィアって、度胸あるよね。 キディヒ先生の授業だよ。そこで、一番前の席で、ぐっすり 眠れるんだもの。」
ジェイコブが、笑いながら言う。
「ちょっと 疲れてたみたいだし、そんな時だって あるよ。」
ヨークは、かばってくれてるけれども、たぶん、同じように 思ってるんだろうなぁ・・・。
「あっ、そだ。光の柱って見た? 私とルナは、食堂に居たから 見てないんだけれど。」
ケイシーが、ジェイコブに聞く。
「あぁ、ヨークとオリバーの部屋に行く途中で、見えたよ。 かなり派手だった。 あれ? オリヴィアは、ケイシーたちと、一緒に居なかったの?」
うーん・・・ どうしよう。 下手に隠して、後で知られた方が、問題が大きくなりそうな 気もする。
「えーと・・・私、そこに居たんだ。 光の柱が、立った場所・・・東棟のはずれに。」
「はぁ? オリヴィアっ、あなた、さっき そんな事、一言も 言わなかったじゃないの。 なんで黙ってたのよ。」
ちょっと待って、ケイシーっ。「時間がないので、答えなくていいから、サンドイッチ食べろ」 って、さっき、言ったよね?
理不尽に 責められながらも、私は、お昼の時間に起こった出来事を・・・ まぁ、ほとんど 嘘だけれども、ごまかしながら、みんなに 話すことに なったのだった。
「トマト、玉ねぎ、人参、セロリ、合挽ミンチと、オリーブ油とにんにく、そして、生クリームとみりん、胡椒、ナツメグを混ぜた特製ソース」を作ったことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒