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1-4.緋色のヒモ

アメリア先生の帰還は、オリヴィアたちが 思っていたよりも、ずいぶんと 遅いものであった。


「みなさん、遅くなってごめんなさいね。 角モグラは、光のある場所では、動きが遅いのですが、土に潜った途端、今までの動きは 何だったのだろうと思うくらいのスピードで 動きます。 そのせいで、少し手間取ってしまったのです。 で・・・この惨状は、何がどうなったのですか? ナイチ先生。」


「いや、ちょっと目を離した時に、火の魔法を 間違って使ってしまった生徒が居ましてね。 治療は、終わっていますので、大丈夫ですよ。」


アメリア先生は、くるりと辺りを見渡すと、アビーの髪の異常に気付いた。


「アビーですか? 火魔法を使ったのは。 私が この訓練場を出ていくときに 何と言ったか・・・ あなたは、覚えていますか?」


「わ・・ 私だけじゃない。 ヨークが、風魔法を使わなければ、こんなことに ならなかったんだもん。」


「アビーっ。 質問に答えなさい。 私が、この訓練場を出ていくときに、どのような 指示を出したかを たずねているのです。」


「座って 待っているように 言われました。」


「そうですね。 その他には?」


「勝手に・・・ 魔法を使っては いけない。」


「はい、その通りです。 では、両腕を出しなさい。」


「え?」


きょとんとした顔で、アビーが アメリア先生を見上げる。


「両腕を出しなさいと 言ったのです。 アビー。」





[風と水の魔法使い]  【 1-4.初めての友達 】





おずおずと、両腕を まっすぐ前に上げるアビー。


そのアビーの腕の上に、アメリア先生が、緋色のヒモを2本かけた。 すると、どうだろう。 2本のヒモが、意志を持った生き物・・・ まるでヘビのように、アビーの腕に 巻き付いていくではないか。


「ひぃっ。」


巻き付くヒモの感触に、アビーが 思わず声を上げる。


「魔法の拘束具です。 このヒモが切れるまでは、あなたは 魔法を使うことが できなくなります。 これを、あなたへの罰とします。」


「そんなっ。 私だけじゃ ないんですよ。 ヨークが、火を 周りにまき散らしたから、こうなったのにっ。」


「ヨークには、今から話を聞きます。 アビーは、列にお戻りなさい。 さぁ、ヨーク、こちらへいらっしゃい。」


アメリア先生の前に出たヨークは、燃えた袖口を気にしながら、みずから 両腕を前に出した。


「まだですよ、ヨーク。 なぜ、風魔法を使ったかを 答えなさい。」


「ボクの土人形につけられた火を 風で 消そうと思いました。 考えが浅かったと 思います。 風で、火の粉が 舞ってしまいました。 また、先生の指示も 破ってしまいました。 申し訳ありません。」


「なるほど。 それでは、左腕を出しなさい。」


アメリア先生が取り出した 緋色のヒモは1本。 それを、ヨークの左腕に乗せる。 アビーの時と同じように、ヒモは、クルリと ヨークの腕に巻き付いた。


「これが切れるまでは、風魔法は使えません。 右の土魔法は、そのままに しております。 反省するのですよ。」


「はい、先生。」


「それでは、ヨークも列に戻りなさい。 ナイチ先生、他に 魔法を使った者は?」


その言葉に、列に戻った ヨークが反応する。 チラリとオリヴィアのほうを見て ・・・慌てて目を伏せた。 胸を ドキドキさせながら、オリヴィアは、ナイチ先生を見た。


「いや、ひとりいるのだが、その子は、水魔法で治癒を助けてくれた。 名前を出す必要はないな。」


「治癒を助ける? あぁ、水魔法? 木魔法? えーと・・・光魔法を使える生徒は このクラスにはいませんでしたね。 分かりました。 それが ナイチ先生の ご判断なら、結構です。」


オリヴィアが、ホッと 息を吐くと同時に 魔法訓練場に、鐘の音が響いた。


「あら? もうこんな時間。 午後の実習は終了です。 みなさん、濡れたままのローブでは、風邪をひきます。 まず、寮に戻って着替えるように。 それでは、解散っ。」


パンパンパンと、手を叩くと、アメリア先生が 授業の終了を告げた。


ナイチ先生は、オリヴィアの方を見て ひとつ頷き、そうして、アメリア先生と 何かを話しながら、訓練場を後にした。 その後に続いて、クラスメイトたちも、それぞれが 訓練場のドアから 出て行く。


「オリヴィア、ありがとう。 助かったよ。」


振り向くと、そこには、ヨークが居た。


「オリヴィアのおかげで、痛みもなければ、後遺症もない。 君は、スゴイ魔女だ。 どうだろう? ボクと、友達になってくれないか?」


「え? 私と?」


「あぁ そうだ。 ボクは、君の友達であることが ふさわしいと思われるように 努力するつもりだ。」


そうして、ヨークは、その左手 ・・・緋色のヒモの巻き付いた腕を、オリヴィアの前に差し出した。


オリヴィアが、みずからの左手を前に差し出すまでの少しの間は、彼女のの戸惑いの時間であった。 やがて、彼女の顔には 笑みがこぼれ、差し出した その手は、ヨークの左手の中に包まれた。


「うん。 私こそ、よろしくね。」


エセクタ魔法魔術学院で出来た、オリヴィアの初めての友達。 ヨーク・ラファエル・プランタジネットは、にっこり笑うと、優しく 手に力を込めた。


そうして、2人は、手をつないだまま 訓練場を 後にするのであった。



*****************************



「・・・なんで ・・・なんで ・・・私が 両腕で、ヨークは、左腕だけなの? 不公平じゃないっ。 それに、なに?あの女。 手なんか繋いじゃって・・・。 アガサ・ボナム=カーターの娘 っていったって、そよ風と、チョロチョロと水を出すだけの、ダメ魔女じゃないのっ。 許せないわっ。」


自らの 火に焼かれ、ボサボサになってしまった赤毛 ・・・その指をクシのように使って、赤髪をすいて撫でながら、アビーは、2人の後姿を じっと見つめた。


ヨークへのライバル心、そして 淡い恋心・・・オリヴィアへの嫉妬心。 入り混じる気持ちを、うまく消化できずに・・・。


そうして、Cクラスの生徒たちが、訓練場を去り、ひとりぼっちになったアビー。 その耳に、不思議な声が届いた。




  扉は開かれたり


   アードルフ・シタラ=ヒムゥラを継ぐものよ


     その魔力を捧げよ




アビーには、声が、天からでもなく、地からでもなく、どこからでもない場所から、聞こえてきたように感じた。


「うそっ。 取れちゃった?」


そう、いつの間にか、アメリア先生の緋色のヒモの形が、そして色が変わっていた。


緋色のヒモは、頭の形がひし形で、まだら模様の ヘビ へ姿を変え、アビーの腕からスルリとほどけて 地に落ちてゆく。


まだら模様のヘビは、そのまま訓練場の地に潜る。 その瞬間、アビーの両手から、魔力が引き出された。


「きゃっ。 いやぁ、なんで? 止まらない。」


ドンドンと、引き出され 吸い出される魔力・・・。


たまらず、アビーは ヒザをつき、そして体は倒れ、その意識は、夢の世界へと 旅立っていた。

「まだらの紐」と「緋色の研究」の区別がつく人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★

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