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1-35.アビーの憂鬱6

 気づいた時、目の前に見えたのは、土の地面。 地べたに くっついている顔を 起こそうとするけれども、とにかく 体が 自由に動かない。


 しかし、それよりも、水・・・ とにかく水。 喉が、渇いているのだ。


「アビー、気が 付きましたか?」


 アメリア先生の声が 聞こえる。


「そこに、カップがあります。 ゆっくり お飲みなさい。」


 そう、今必要なのは、水だ。 大きめのカップが見える。 両手で そのカップを持ち、一気に飲み干す。 生ぬるいっ。 だけど、たぶん、こんなに 水を美味しく感じたのは、生まれて初めてだろう。


 ぐるりと あたりを見渡す。 なにか、変。 ここは・・・


「訓練場・・・?」


 立っているのは、アメリア先生。 その後ろに、ナイチ先生。


 あと、一番偉そうなこの男の人は、誰? 私の顔、そして 体を 値踏みするように 見つめている。


「そうです。 訓練場です。 あなたは、今日、自分が 何をしたか 覚えていますか?」


 アメリア先生の、顔を見つめる。 この男の人を紹介してくれる気は 無いんだ・・・。 仕方なく 質問に答えようとした瞬間、朝と同じ症状・・・ 手足が しびれ、舌がもつれる。 先生に、答えたいと思うのに、口から言葉が出てこない。


 あぁ、まだおかしな状態は、治ってなかった。 なら、ルナが 倒れてたのも、夢じゃいんだよね・・・。




[風と水の魔法使い]  【 1-35.解けた封印 】




「はじめまして、私は、ランスロット・マーリン部の ガラハド・マルジン部長だ。」


 ランスロット・マーリン部・・・ 闇属性魔法の使い手を 捕縛や無力化する 魔法省の部署・・・ そんな恐ろしい所の・・・ しかも、部長ってトップの人。 なんで?


 名前を聞かれるが、口が動かない・・・ いや、動いた。 でも、私が 答えてるんじゃない。 勝手に、口が動いている。 怖い。 もしかして、この口の動きが、闇の魔法なの?


「答え方が、誠実ではない。 意図的に行っているのであれば、かなり狡猾だ。」


 アメリア先生は、私を かばってくれている 口調なんだけれども、私の口が答える内容は、ガラハド部長には、不満だったみたい。


 誠実でない・・・狡猾・・・かなり悪い表現で評価されている。


「封じるか・・・。」


 ガラハド部長が、紐・・・ これは、反省のヒモだ。 それに、魔力銀の鎖を 取り出した。


「アビゲイル君。 今の君の回答は、私を満足させるものでは無かった。 今から 君の魔力を封じることとなる。 両腕を 前に 出しなさい。」


 やだっ。 3か月も、魔力を封じられていたのに、また、同じことをされるの? 逃げ出したいのに、足が・・・ 体が動かない。 ぐぐぅっと、動いたのは、両腕。 そんな動きを しようとは思っていないのに、両腕が 前に差し出される。


 左、右・・・ 腕に 垂らされた反省のヒモ。 その緋色のヒモは、3か月前と同じように、クルクルと腕に巻き付いた。 次は、魔力銀の鎖。 同じように、クルクル来ると、腕に 巻き付いていく。


 鎖が 完全に巻き付くと、ガラハド部長によって2枚のペーパー魔術符が、置かれた。 魔力が通された魔術符は、白い光を放ち、ルース魔法文字を、宙に描く。


 その瞬間、頭の中に 男の人の声が 響いた。


『なるほど、アガサの封印は、単純な魔法の重ね掛けか。 しかも、行程を1個の魔術に見えるように 偽装している。 どおりで 解けぬわけだ。 しかし、このバカが、オレに 同じ術式を見せた。 これで、封印の大半が 解けるぞ。』


 封印? 術式? それに、なんで、頭の中で男の人の声が 響くの? 分からない。 私、一体どうなっちゃうんだろう・・・。


 そうして、頭の中でまたも、変な言葉が響く。 同じ男の人だと思うんだけれども、理解できない。外国の言葉・・・ 呪文?


『ДоброеутроДобрийранокДобрайраніцы・・・・・・・・・。』



 プチンっ!!!



 私の頭の中で、血管が切れたようなという音が聞こえた。


 さっきと、何かが 違う。 黒いモヤに包まれて ボーっとしている気分。 何かを しゃべろうとしても、舌がもつれて しゃべれなかった状態だったのが、舌すら もつれない 。自分の意思で、自分の体を コントロールすることが、全くできないのだ。 手足の しびれも、もはや、感じない。 自分の 手の感覚、足の感覚すら、感じることが 出来ない感じ。


 しかし、魔力の動き・・・ それだけは、感じ取れた。 自分の手が、勝手に動くのも、分かる。 そうして、私の手の平から放出された魔力が、衝撃波となって、後ろを向いたガラハド部長の背を襲った。


「がっ・・・ 何っ。」


 ドサリという音を立てて、ガラハド部長が、倒れる。


 動いているのは、自分の唇。 だけれども、私の意思は全く働かない。 そこからは、低い男の声が 響くだけだ。


「おっ、ナイチか。 まだ、エセクタに居たか。」


「まさか・・・ アデノーイ。」


 ナイチ先生を呼び捨て・・・ 先生と、知り合い? この男の声の持ち主は・・・。 まさか、ナイチ先生が、私をこんな風する 手助けをした?


 ううん。 先生は、ガラハド部長を治療している。 たぶん、この男の人の仲間ではないみたい。 じゃぁ、私を助け出してくれる?


「ガラハド部長、あの姿ではありますが、中身は、おそらく、アードルフ・シタラ=ヒムゥラです。 子供は、憑かれているのでしょう。」


 ナイチ先生が、囁く声が聞こえる。アードルフ・シタラ=ヒムゥラ・・・歴史上の有名な昔の闇の魔法使い。なんで、そんな名前が・・・。 ちがうっ。 助けて ナイチ先生。


「信じられん。 滅した魔法使いが、復活するなど・・・ 蘇ることが できるものなのか?」


 出来るわけないでしょ。 そんなこと。 もう、やだっ。


「あぁ、懐かしき友に、懐かしき恩師。 なんと素晴らしい光景か。」


 私の口は、流ちょうな言葉で、先生たちと話をする。 男の声で・・・。 嘘だよ。 本当に、アードルフ・シタラ=ヒムゥラなの?


「魔力を封じても、魔法を使うことが出来る。 そういうことか? アードルフ・シタラ=ヒムゥラよ。」


 えっ? 何、言ってるのよ。 封じられてなんかいないわ。 ランスロット・マーリン部の人なのに、そんなことも、分からないの?


「今、オレは、この魔術を解くことが出来るようになった。 おまえが、目の前で、ペーパーの術式を 見せたからな。」


 私の両腕が持ち上がり、手の平を ガラハド部長に向かって、広げた。 腕の鎖が、銀色の蛇となって、部長に襲い掛かる。 次は、緋色の蛇っ。 ついさっき、私にそうしたように、2つの拘束道具は、ガラハド部長の両腕に 巻き付いた。


「Яхочуестьяголоднийягалодны・・・・・・・・・。」


 両の腕を封じられた ガラハド部長があげる 唸り声が、聞こえる。


「アメリア先生それから、ニミュエ先生、いや、今は、学院長か。 少なくとも あなたたちには、昔、教えを乞うた恩がある。 今日の所は、見逃しましょう。 それから、ナイチっ。 前のことは、忘れてやる。 今度は、どちら側につくか よく考えろ。」


 アメリア先生も、学院長も、ナイチ先生も・・・ アードルフ・シタラ=ヒムゥラと 知り合い・・・ 知らなかった。 そんな話、聞いたことが無い。


 私の足は、スタスタと、出口へ進む。 誰も、私を止めようとしない。 エセクタの職員も、何か 信じがたい化け物を見るような目で 私を見る。 そうして、私の前に立ちふさがることなく道を開けた。


 訓練場の外は、真っ暗。


 魔術具の灯りと、燃やされている松明。 そして、空に瞬く星と、やや陰りのある月の光。 ただ、それだけが、私の前に続く道を 照らしていた。

いつも『ДоброеутроДобрийранокДобрайраніцы』の声掛けが出来ている人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★


あっ、10万字超えてる。

無理すれば、1か月半で、10万字 超えるものなんですね。

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