1-34.アビーの憂鬱5
緑の拘束が、私の腕を、そして足を捉らえた。 オリバーが得意とする・・・ 植物のツタを操る難易度の高い 木魔法だ。
どうしよう。 焼き払えるかしら?
一旦 火が付いたならば、燃え広がりやすいという特徴はあるけれども、まだ生きている森の植物に、火をつけることは、実は、意外に難しい。 私の火魔法の能力で、このツタを燃やすことはできるだろうか? オリバーの魔法から 逃れることが出来るだろうか? それに、今の何かに操られているような体で、そもそも、火魔法を 使いこなすことが出来るのだろうか?
そんなことを考えているうちに、オリバーは、イヴリンと、ルナを森の中に引きずり込もうとした。 もちろん、魔法を使ってだ。 私を拘束するのとは、別に、植物のツタを発生させ、2人を 森の方向へ引きずって行ったのだ。
ルナ・・・大丈夫? 腰を打ちながら 引きずられるルナが、痛そうな顔をしている。 オリバー・・・ 女の子の扱いが、ひどすぎる。
「アビー、アードルフ・シタラ=ヒムゥラの祠とはなんだ。 闇の属性魔法・・・。 属性契約は、一生もののはずだ。 1度、その魂に、両腕に刻み込んだ 魔法属性を 変えることはできない。 お前は、火と土の魔女のはずだ。 なのに、なんで、闇魔法が、使えるっ。」
私だって、分かんないわよ。 そもそも 答えを求めてないでしょ。 質問が あまりに多すぎる。
「オリバーは、女の子を縛るのが 趣味なのかしら? 手足を拘束して、いったい、私に 何をしようと 思ってるのかな?」
え? 何? また、口が勝手にしゃべり始めた・・・ 怖いっ。
[風と水の魔法使い] 【 1-34.闇の魔力 】
オリバーの拘束は、確かに 私の手首をとらえていた・・・ はずなのに、私の指が、その緑のツタに触れた瞬間、茶色に変色し、ボロボロと、枯れて落ちていく。
自由になった私の手の平は、魔力を放出し、オリバーに襲い掛かる・・・ のかと思ったら、横をすり抜けた。 後ろへと抜けた黒い魔力・・・ それは、ルナと、イヴリンの方向へと、向かったのだ。 魔力は、オリバーのツタに似た形をとり、 2人をとらえた。
あぁ、せめて痛くしないであげて。 そんな風に願ったら、ズルズルと ルナとイヴリンを引きずる黒い魔力は、2人の下、つまり、地面と体の間にも クッションのように挟まってくれた。 良かった。 少なくとも ルナは、痛い思いをしていない。 すこし ホッとする。
しかし、体は、思うように動かない。それどころか、勝手に動き始める。 自分の口が、醜くく歪むのが分かる。 そこから漏れるのは、笑い声。
「オリバー、 拘束は、解けないわ。 そうね、あなたは、そこで見てなさい。」
そうして、私の腕が、勝手に振られる。 イヴリンの体が宙に浮いた。 怖いっ。 あの高さから落ちたら、絶対ケガをする。その状態で、私の口は、笑みを浮かべたまま恐ろしい言葉を放った・・・。
「偉大なアードルフ・シタラ=ヒムゥラ・・・ この魔力を捧げます。」
イヴリンの体が、宙を飛び、ほこらの中へと吸い込まれていった。 何が起こるかは、まったく分からないけれども、良いことが起こる気は、全くしない。
イヴリンの体が、祠に吸い込まれると、オリバーを捉えていた拘束が 緩まったようだ。 しかし、イヴリンを追って、中に入ろうと 駆け寄るオリバーに、またも、黒い拘束が飛んだ。 足は、がんじがらめ。 あれは、動けないだろうな。
ルナといえば、その場で 震えるばかり。
「ねぇ、アビー、イヴリンは、どうなっちゃうの?」
震える声で、ルナが、尋ねた。 分かんない。 分かんない。 分かんない。 私だって、怖いんだよ。 ルナ。
しばらくすると、黒い水晶が、不気味に点滅する。 そうして、私の右手は、まるで、中のイヴリンを掴みだすように、ひょいッと動き、同時に、イヴリンが祠から転がり出てきた。 ただでさえ色白美人だったのに、顔が真っ白になっている。 むしろ、青白いって言うべきか。 駆け寄ろうとするオリバーは、足を 黒いツタに取られて 近寄ることが出来ない。
私の足が動き、イヴリンの 白い顔をつま先で軽く・・・ 突っつくように蹴った。 足は、そのままイヴリンの体を、ゴロンっと転がして・・・ 横に押しやるように動かした。 おもっ・・・。
「おっもいわね。 邪魔だわっ、この子。 さてっと、ルナッ、あなたの番よっ。」
ちょっと待って、違うっ。 ルナは、ダメ。 だめなのっ。
そんな 私の想いもむなしく、ルナに まとわりつく闇の拘束が、その体をズルズルと、引きずる。 だめっぇぇぇぇ。
「助けてっ。 お願い、アビー。」
お願い、ルナを助けて。 しかし、私の口は、無情な言葉を 告げる。
「うんうん。 もちろん、助けるわよ。 あなたが、きちんと魔力を 捧げ終わったらね♪ 行ってらっしゃい。」
私の腕の動きに連動して、ルナの体が、ふわりと浮き、すさまじい勢いで、祠へと 吸い込まれた。
ルナが、吸い込まれた・・・。 足の力が抜け、岩に座り込む。 やだ。 どうなるの? 思うように動かない体、この後どうなるか全く分からない不安・・・ 震えが止まらない。
2分・・・ 3分・・・ 何もできないまま時間だけが 過ぎていく。
突然、祠の入り口から外へ・・・ 直線的に 数本の白い光が射すように放たれた。 黒水晶が、おかしな点滅を している。
バリぃぃンっ
突然、黒い水晶が、砕ける。 祠の入り口からは、何も見ることが出来ない。 見えるのは、奈落のような穴。 どうなったの? ルナは? ルナは?
「ヨーク? それに、オリヴィアっ。」
オリバーの声が聞こえる。 なんで? なんで、ヨークとオリヴィアなの? あっ、ルナっ。 大丈夫?
飛び出てきたのは、ヨークと、オリヴィア。 それから、私のルナ。 草の上に転がって、動かない。 ねぇ、大丈夫なの?
不思議なことに、3人の体は、白い光に包まれてる。
ヨークと、オリヴィアが、離れない。 抱き合ったまま。 胸の中に なにか 黒い もやもやが 沸き上がるような気分。 ルナ以外、全員、消えちゃえっ。 私は、はじめて 自分の感情で、黒い魔力を 放出した。
えっ? なんで? 白い光が、私の魔力をかき消す。 さっき、オリバーのツタも 簡単にボロボロにした 魔力なのに。
しかも、逆に、オリバーの攻撃が、私を捉らえる。 緑色のツタは、私を捉えて離さない。
「ボクは、今から、全ての魔力を使う。」
遠くから、ヨークの声が聞こえる。 なにか、危ないことを仕掛けてきそう。 必死で、緑の拘束から逃れようとするけれども、なぜか 今回は、ツタが 外れない。
その瞬間、私の周りが、土壁に覆われた。 何? こんな土魔法、見たことない。 目の前どころか周り一面は、真っ暗になり、次第に息苦しくなる。
そうして、私は、眠るように 意識を失った。
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恐ろしいことに、3本目の連載を書き始めました。
書き溜めは、もちろんありません。
風と水の魔女を、ほぼ毎日のように書くだけで、ギリギリなのに、大丈夫なんでしょうか?
しかも、新しいものは、春の推理用の小説で、5月12日までに完結する必要があります。
見切り発車の極みです。
どうか、期限内に、完結しますように。




