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1-33.アビーの憂鬱4

 ふっと目が覚めた。 窓の外は、まだ暗い。


 なんだか 手足が しびれている。 それに、窓枠が二重に見える。 声を出そうとすると、舌がもつれる。 そもそも 声が出ないのだ。


「ウヴヴ・・・。」


 しばらく、すると、声は出るようになったが、舌がもつれているせいだろう。 言葉にならない。 ルナ ルナ ルナっ、気づいて。 そう思ったけれども、ルナは、まだベッドの中。 昨日も、遅くまで 地図とにらめっこをして、ノートに 何かを書き込んでいたので、致し方ない。


 どうにかしようと、ベッドから起き上がって動こうとする。 ダメだ。 めまいがして、足がもつれる。


 こんなことは、はじめてだ。

 

「あー、あー、あー。」


 ようやく、足も 普通に動くようになり、声も普通に出るようになった。 洗面台の前に立ち、自分の顔を見つめる。 うん、きっと大丈夫。


 今日のフィールド教練は、絶対に1位を取るんだ。




[風と水の魔法使い]  【 1-33.アビーの出発 】




 ポクポクという馬の足音。 私たちは、森への道を進む。 カボチャの馬車は、2番目を走る 2号車であった。 エセクタの職員が、1人。 生徒は、私を含めて8人。 1号車には、アメリア先生と、ヨークたち。 それからナイチ先生。


 アメリア先生は、贔屓が過ぎると思う。 そう思いながら、隣を見る。 イヴリンが、オリバーの口に、チョコを放り込んでいた。 ほんと、朝から、ウザい。 そして、ルナは、私の肩に頭を傾けて スヤスヤお休み中。 ずっと頑張ってたもんね。


 古代森林公園。


 その魔法の森には、様々な動植物、魔獣などが生息する。 この魔法の森の入り口の前に 集合させられた私たちは、4人の班ごとに並べられた。 すぐ前には、ヨークの班の4人。 あっ、オリヴィアが、ボーっと よそ見をしていて怒られた。 ざまぁみろっ。


 って、思ったら、また「南の賢き魔女」の娘だから・・・。 もういいよ。 この子自体には、才能や 価値なんて ないじゃないの。


 そんなこんなで、ヨークたちの班がスタート。 ルナは、まとめたノートを、ぺらぺら めくりながら、まだ頑張っている。 オリバーとイヴリンは、しっかりと 手をつないで 飛び回るカラフルな小鳥を眺めている。


 オリバーと イヴリンの2人を見ていても、その甘ったるさに吐き気が するだけだし、ルナの邪魔もしたくない。 5分の待ち時間は、少し長い。 ちょっと居心地の悪く感じた私は、『賢き魔女の石』が組み込まれた石碑の前に立ち、そっと手を当てる。


 『賢き魔女の石』は、石碑の上部に埋め込まれている。 太陽の光に反射して、キラキラと光るその石。


 背伸びをしてグッと右手を伸ばす・・・届かない。 もうちょっと・・・ ピョンと、飛び跳ねて石に触った瞬間、なにか 黒いもやのような 霧が、噴き出したように見えた。


 目が、かすむ。目をこする・・・ 気のせい? なんか、朝と同じような感じ・・・ 手足がしびれる。 めまいがして、足がもつれる・・・。


「アビー? 大丈夫?」


 ルナの声が、聞こえた。 恐ろしいことに、口が、勝手に動く。手が勝手に動く。


「大丈夫っ。 ルナ、私、分かっちゃったかも しれない。」


 何が分かったの?わたし・・・


「何を? 何が、分かったの?」


「この石碑、森の地図になってる。 これ見て。」


 そんなの知らない。 何?口が、勝手に動く。 指が勝手に動く。 ルナは、私の指差した先・・・ 石碑の奇妙な模様を じぃっと見て、うなずく。


「うん。 確かに、森の地図と同じ形かもしれない。 アビー、スゴいよ。」


「あのね、宝の隠し場所? この『賢き魔女の石』がハマっている位置にと思ってる。 一直線に ここに 向かいたいんだけれど。ルナ、ついて来れそう?」


 少し、不安そうに、ルナが 答えた。


「う・・ うん。 大丈夫。 頑張る。」


 出発の時間が迫り、皆でルナのノートを見直す。 だけど、手が、思うように動かない。 足が、思うように動かない。 そして、思ってもいないことを 勝手に話し始める自分のクチ。



 風で、ルナのノートのページが、めくれてゆくのを見ながら、私は、言いようのない不安に 襲われていた。


 森に入ってからも、足は、勝手に動いていく。 道があろうとなかろうと、岩の上だろうと、丸太が倒れていようと、一方向へ向かって 直線的な動き。 ルナも、イヴリンも、オリバーさえも、ついて来るだけで精一杯。 こんな無茶な道を行くなら、アビーは、むしろ、途中で脱落してくれた方がいいかも・・・。


 そうしてたどり着いたのは、森の奥深くの、小さな湖。 その湖のほとり・・・ 岩壁に不自然に開いた大きな穴・・・。 入り口には、小さな黒い透明な石・・・ 黒水晶。


「ルナっ、これ 触って! たぶん、属性判別水晶と 同じ性質を 持ってるはず。」


 え? 色が、違うよ。 私、何 言ってるんだろう。 しかし、ルナは、素直に 手を水晶にかざし、そっと触れる。 赤色と青色。 かわいい火と水の魔女・・・。


 でも、その水晶に 魔力を 供給しちゃ ダメな気がする。


「ホントだっ。 面白いね。アビー? これって、南の賢き魔女の 残したものかな?」


 無邪気に笑う ルナが、心配でならない。


「おいっ アビー。 ここは、なんなんだ。」


 肩を支えるような形で イヴリンを助けるオリバーが、声をかけてきた。


「たぶん、ルナのノートにあった、聖なる魔の祠よ。」


 知らないっ。 ノートにそんな場所、書いてた? 私、見てないよ。


 2人に、同じように魔力を通すように促すと、先にオリバーが、続いてイヴリンが、黒の水晶に魔力を通す。 怖いっ。 何か 悪いことが 起こりそうな気がする。


 その心配が 当たったことを知らせたのは、私自身の声。


「先に 贄の魔力を通した後、闇の魔力を 通すだけよ。」


 え? 「贄の魔力」って何? 私は、自分の手が、黒水晶に魔力を通し、ツヤのある黒い光が周りを照らすのを、じっと見つめた。

手足が しびれて、舌がもつれている人は、高評価を押して次の話へ⇒

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