1-32.アビーの憂鬱3
食事を終え、寮に戻っていたオリバーは、明日の古代森林公園で行われる フィールド教練について考えていた。 普通に考えた場合、今回のグループ分けは、良い成績を得るには やや不利だ。 その理由は、イヴリンとルナ。 この2人は、体力があまりに不足している。 おそらく、オリバーと、アビーで 助けなければならないだろう。 しかし、オリバーはともかく、アビーは、女の子。 森の中に入ってしまえば、自分のことで 精一杯になる可能性が高い。
自分が、2人分の荷物を持つ くらいの気持ちでいないと、下手したら、途中で、リタイアというはめに 陥りかねない。
バッグを手元に寄せて、フィールド教練に、持ち込む荷物を まとめる。 詰める物は、最低限の必要なものだけ。 森の中で役に立ちそうだと、いろいろ 荷物を多くしすぎると、自分の首を絞めることになりかねない。
イヴリンとルナが、水の魔法使いであることを考えると、水は、補充できる。 なので、水筒は、小さなもの。 そして、少し考えた後、携帯用の簡易食糧をバッグのポケットに放り込んだ。 イヴリンが、いつも 朝食を摂っていないことを 思うと、必要になる可能性があるからだ。
そうやって、荷物を一通りまとめ終えた時、コツンコツンという 窓を叩く音に気付いた。 伝書鳩が くちばしで 窓を叩いていたのだ。
「おいおい、この時間は、フクロウを使えよ。」
暗くなると、鳥目の鳩は、周りが見えなくなる。 そのため、時間が 遅くなった時の連絡には、フクロウか、コウモリを使うのが普通だ。 鳩は、足についた筒を取り上げると、フラフラと、空へと飛び立っていった。
「大丈夫かよ? 小屋にたどり着く前に、どこかで 獣に襲われてそうだな。」
そう言いながら、筒の中に 納められている 丸まった紙を 伸ばした。
「えっ、ルナとアビーが来る? マジかよ?」
[風と水の魔法使い] 【 1-32.男子寮は、刺激的っ 】
伝書鳩で、訪問の予定を伝える。 女子寮を出ようとする時には、もう、ルナの目の色は いつもと まったく 違ってた。 なんて言ったらいいんだろう? お散歩に行く 行く って、リードを限界まで ピンと張って、ご主人を 引っ張る 犬みたいな感じ。
あっ、私がご主人ね。
男子寮についたころには、さっきまで 赤く染まっていた西の塔の壁も、少し暗くなり始めていた。 生徒の人影も、まばら。 階段を上り、オリバーのお部屋へ。 ルームメイトは、まだ戻ってないみたい。 まぁ、明日がフィールド教練だから、班のみんなで集まっていて、今の時間は、お部屋に居ない人が 多いのかもね。
「オリバー、時間は、大丈夫だった?」
「あぁ、明日の準備をしていたところだから、問題ない。」
「良かった。 あのね、ルナが、フィールド教練について考えてくれたんだ。 ちょっと 聞いてくれないかな?」
「ルナが? アビーが、考えたんじゃないのか。 へぇ、どんな話なんだ?」
「えっ、あの・・・」
顔を真っ赤にしたルナが、さっき、私に話した内容を、所々 詰まりながらも、丁寧に 説明していくと、最初は、あまり話を聞くような体勢でなかったオリバーも、身を乗り出して、真剣な顔で、うなずき始めた。
「お前、すごいなっ。 こんなノートも、見たことない。 去年の宝の話なんて、秘密にされてるはずだぞ。 一体どこで調べたんだ。」
「どう? このやり方で、やってみない?」
「あぁ、よく考えられてる。 さっきまで、ちょっと不安だったんだけど、これなら、1位を狙えると思う。」
「じゃぁ、寮に帰ってから、アビーと、もう ちょっと計画を詰めておくね。」
オリバーに褒められたことで、ルナは、破顔して答える。
ただ、私と、計画を詰めるって、それは、間違った答えだね。 ルナ、今、オリバーと計画を詰めるのよ。 ついでに、オリバーとの距離も詰めちゃえばいいのっ。 そんな風に思ってみていても、ルナは、いつものように、スグ一歩引いてしまう。
「本当のことを言うと、ルナの魔力と体力の不足が心配だったんだ。 だけど、今は、とんでもない当たりくじを引いた気分だ。 明日が楽しみだよ。」
オリバーは、ルナの肩をポンっと、叩いた。
うわぁ、ルナの顔が、真っ赤。 当たりくじって ルナにとって、たぶん最高の誉め言葉だったんだろうね。 でもね、今までハズレって 思ってたってことだからね。 私がそう思って 口を挟もうとした時、ガチャリと 後ろのドアが開いた。
「あぁ、イヴリンっ。 すごいぞ。ルナは。」
いい感じだったのに、イヴリンが やって来てしまった。 なんて間が悪いんだろう。 そうして、オリバーは、イヴリンに、ルナの計画を 説明し始める。
この子、かわいい。 そして、あざとい。 ただ単に、説明を聞いてるだけなのに、目を潤ませてる。 オリバーの目は、イヴリンに釘付け。 おーい。 その計画作ったのは、こっちに居る ルナだよ。
オリバーと、イヴリンが、2人の世界に入ってしまったため、居心地が悪くなったみたい。 ルナが、寮に帰ろうと言い始めた。 もう、ちょっと気を使いやがれ。 オリバーは、そういう所ダメだな。
男子寮の階段を下っていると、泣きそうな顔で、ルナが、言う。
「オリバー、私の魔力と体力の不足が 心配って 言ってたよね? 私、大丈夫かな?」
いやいや、そっちの心配かいっ。 本気で、ルナが、悪い男に引っかからないか 心配になってきた。 しかし、こういう時のルナは、イヴリンなんかより、絶対、かわいい。 よし、私が一肌脱いであげよう。
「ルナ。 フィールド教練は、明日だから、体力不足は、気力で何とかするしかないよね。 だけど、魔力なら、私、ちょっとだけ、あなたを 助けてあげられる。 手を 出して。」
ルナが、両腕を差し出す。 んー、素直でかわいい。 抱きしめたくなるわ。
差し出されたその腕に、私のブレスレットを はめる。
「この腕輪には、3か月近くの間、私の魔力が、ちょっとずつ吸収されてるはずなの。 だから、本当に、魔力が足りないって思ったら、この腕輪に、働きかけたら、自分の魔力を補ってくれるはずよ。 それにね、魔力や、体力がちょっと足りなくても、ルナは、大丈夫だから。 あんなスゴい計画も立てられるんだし。」
「うんっ。 アビー、ホントにありがとう。」
そうやって、ルナの腕を取った瞬間だった。 ルナの後ろ、5メートルくらいの場所を 2人の女の子と、1人の男の子が通った。
ヨーク・・・ そして、オリヴィア。 また、手をつないでるっ。
「アビー? 痛いよ。」
「あぁ、ごめん。 ちょっと、強く 握りしめちゃった。」
空は、紺色に変わり、大きな月が ゆらゆらと揺れる。 ヨークたちを見た後、地面に映るアビーの影が、伸び縮みしていたことに、ルナが気づくことが、無かった。
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予告通り、1-31の2.【閑話】ルナと親友は、削除いたします。