1-3.事故と治癒魔法
「みなさん。 厄介な魔獣が 実験棟から 逃げ出したようです。 しかし、この訓練棟の中であれば、安全です。 私たちが、魔獣の処理を終えるまで、この場で大人しく座って待ってください。 あと、魔法が使えるようになったからといって、勝手に使用して、ふざけてはいけませんよ。 大変危険ですからねっ。」
学院の職員の男を従え、アメリア先生は、魔法訓練塔のドアから 飛び出て行ってしまった。 角モグラの退治に 向かったのだろう。
トントントンと、肩を叩かれオリヴィアは、振りかえる。 そこには、イケメンが居た。 ナイチ先生が、クラスの列の最後尾に ポツンと座るオリヴィアの所に、やって来たのだ。
「オリヴィア、魔法の力については 気にする必要は無いよ。 訓練によって いくらでも強くなるし、例え、強さは変わらなくとも、使い方次第で、強力な魔法使いとの 力の差を ひっくり返すことなど いくらでも可能だ。 私は、クリームアン戦争で、キナコ公国まで従軍して、その実例を 何回も見てきている。」
小さくうなずいた オリヴィアの目を見ながら、ナイチ先生は言う。
「君の未来は、真っ白な・・・ そう、白紙だ。 自分の長所を 伸ばすことに 努力するといい。 君は、きっと いい魔女になる。」
その時、少女の大きな声が 聞こえた。
「こんなの 燃やしちゃえばいいのよっ。」
[風と水の魔女] 【 1-3.第3の属性 】
「なにするんだよ。 アビーっ。」
さきほど、ヨークが作り出した 土人形が、火に 包まれていた。
「私の魔法の方が、スゴイんだから。 ちょっと、アメリア先生に 褒められたからって、調子に乗らないでっ。」
「調子に なんか乗ってないだろ。 いい加減にしろっ。」
ヨークが、左手を広げ、風魔法を放射する。
「あぁ、いけないっ。」
ヒザをついて、オリヴィアに話しかけていた ナイチ先生が、慌てて立ち上がり 叫んだ。
「みんなっ、すぐに、その土人形から 離れなさい!」
しかし、その言葉は、すでに 遅かった。
ナイチ先生の声を聞き、皆が、事態に 気づいた時には、ヨークの風魔法は、すでに 燃える土人形に 届いていたのだ。
火に風・・・。 最悪の組み合わせである。
アビーが作り出し、土人形を燃やしていた炎は、ヨークの・・・ そう、Cクラスで1番の出来だと アメリア先生に評価された生徒の・・・手の平からが生み出した すさまじい風の渦に 巻き込まれていた。
そうして、風に巻き込まれた炎が、火炎の旋風となって 生徒たちに襲い掛かる。
「いやっ。 髪に火がぁぁぁ」
アビーの、自慢の赤毛には、燃え移った炎・・・ ツヤのある美しい髪の先から ドンドンと頭の方へと燃え上がる。
そして、風を放ったヨークも、被害を受けていないわけでは無かった。 燃え盛る火が、風の渦をたどり、導かれるように、ヨークの手元、服の袖口まで たどり着いたのだ。
「熱いっ。 助けてっ。」
アビーは、悲鳴を上げ、ヨークは、ローブの袖を 振り回しながら、床を 転げまわる。
散り散りに 逃げ惑うCクラスの生徒たち。 これを、阿鼻叫喚の図と 言えば いいのだろうか。
突然、オリヴィアの頬に、冷たい水滴が舞い落ちた。 ・・・と同時に、天井から大粒の水が、ザーッ という音とともに落ちる。
ナイチ先生が、スプリンクラーを 作動させたのだ。
「ヨーク、大丈夫かい? 痛いだろうが、ちょっとだけ我慢してくれ。 アビーは、頭に ヤケドを してしまっている。 こちらを 先に治療してしまうから。 終わったら すぐ君の治療に入るよ。」
腕と頭のヤケドであれば、当然ながら、頭のほうが重症だ。 ナイチ先生は、アビーを抱え、右手で治癒の魔法をかけ続ける。
「ヨーク、大丈夫?」
火は、消えたものの、痛む腕をおさえて 転がるヨークの元に、オリヴィアが、近づいて 膝をついた。 そうして、その左腕に 小さな手を 伸ばした。
「うるさい。 放っておいてくれっ。」
痛みを こらえながら、ヨークは、オリヴィアの手を 払いのけようとする。
「私の水魔法で、せめて、痛みだけでも・・・。」
水魔法は、治癒の能力も兼ね備える魔法である。 オリヴィアは、両手をヨークの左腕に添えて、指先から、魔力を放出する。
ジワリと暖かな魔力が 腕を包む。
すると、どうだろう。 ヨークの 腕の痛みが 取れていくだけではなく、赤く腫れあがった 皮膚・・・ ヤケドの症状が、どんどんと 消えていくではないか。
燃えてしまったローブの袖が、元に戻ることはない。 しかし、ヨークの手・・・腕にも、ヤケドの痕跡は、もはや 欠片も 見当たらない。
「あ・・・ ありがとう。」
信じられないといった、ビックリした顔で、自分の左腕を眺めながら、ヨークは、オリヴィアに礼を言った。
「うん、良かった。 あとは、ナイチ先生に 診てもらってね。」
「悪いっ。 待たせたね、ヨーク。」
そこへ、アビーの治療を終えたナイチ先生が、駆け寄って来た。
「ほぅ、オリヴィアが・・・。 水魔法の力か・・・ いや、完璧な処置が出来ている。 オリヴィア、素晴らしいよ。」
ヨークの左腕を ひととおり眺めると、ナイチ先生は、オリヴィアの頭を なでながら、言った。
「ヨーク、アビー。 列に戻って。 アメリア先生がお戻りになるまで、全員、そこに並んで立っているように。」
スプリンクラーの水で、訓練場の土は、びしょぬれだ。 さっきのように、座って待つことは出来ない。 火炎旋風の騒ぎに、散り散りになっていた Cクラスの生徒たちは、濡れたローブの裾をパタパタと振りながら、また あるものは、ぎゅっと絞りながら、整列していく。
「オリヴィア、君も戻りなさい。 うん、アメリア先生は、ヨークが クラスで1番の出来と言ったが、私に言わせると、君が一番だ。 水魔法で、ここまでの 治療が出来る魔法使いを、私は見たことが無い。 クリームアン戦争に従軍した 治癒の魔法使いの中に入っても、遜色ないはずだよ。 自信を持っていい。」
ナイチ先生に、ポンッと 背中を叩かれた オリヴィアは、頬を赤く染めながら、定位置・・・ つまり 列の最後尾へと 向かった。
入学したての1年生であれば、仕方がないことではあるが、治療を受けたヨークは、気づくことができなかった。 アビーの治療に集中していた ナイチ先生も、気づかなかった。 もちろん、火炎旋風に 驚いて逃げ回っていた Cクラスの生徒などは、オリヴィアが、ヨークの治療をしたことすら 気づいていなかった。
治癒の魔法使い ナイチ先生が、褒めたたえる 完璧な治癒。
オリヴィアが使ったのは、水魔法などではない。 れっきとした 治癒の魔法であったのだ。
右手に風魔法。 左手に水魔法。 2つの属性魔法の契約を、既に済ませてあるはずの、オリヴィアの3つ目の属性。
魔法則では、存在するはずのない 第3の属性は、父親から 言い含められている オリヴィアの秘密の1つであった。
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