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1-29.恐ろしい夜が明けて

「くっ・・・ 魔力が、全く動かせないっ。」


 信じられないといった顔で、自分の両腕を眺めるガラハド部長。 腕に銀色の鎖と、まだら模様の緋色のヒモを 巻きつけ、部長が呟く。


「これは、完全なる 魔法使い封じですね。 はぁ・・・ おそらく、あの女子生徒に宿る何かは、アードルフ・シタラ=ヒムゥラで、間違いないでしょう。 私が知る限り、アガサ以外で、あそこまでの 術式を組める者は居ません。」


 アメリア先生は、ガラハド部長の両腕を見て ため息をついた。


 ニミュエ学院長が、アメリア先生に尋ねる。


「しかし、アメリア、ペーパー・・・ 魔術符無しで このようなことが、出来るものなのです?」

 

「魔法省が扱っている ペーパー魔術符は、アガサが作ったものです。 その術式は、ルース魔法文字を使って、組まれています。 ルース魔法文字が、使えぬものが、それを唱える代わりとしてペーパーを用いると言ってもいいでしょう。 そして、アガサと、アードルフ・シタラ=ヒムゥラは、ルース文字を 理解しておりました。 私たち以上に・・・ そうですね、ナイチ先生。」


「はい。 学生のころから、すでに あの2人は、研究を専門とする魔法使いをしのぐ 知識を持っていました。 おそらく、2人を上回る魔女や、魔法使いは、居ないとおもわれます。」


「と、すると・・・ 解呪は、無理ということですか。」

 

 呻く ガラハド部長の両腕を 見つめたまま、ニミュエ学院長が、小さな声で呟いた。




[風と水の魔法使い]  【 1-29.寝坊と寝ぐせ! 】




 翌朝、オリヴィアとケイシーは、エセクタの女性職員が、ドアを ノックする音で 起こされた。


「ちょっと、オリヴィア。 起こしてくれるはず だったでしょ?」


「ごめんっ。 完全に、寝坊した。」


 慌てて、ベッドから飛び起きて、準備をする。 ぼさぼさの髪を手で押さえ、服を 着替え・・・


「ごめんなさいっ。今行きます。」


「ちょっと、オリヴィアっ。 私、まだだよ。 ごめんなさぁい。 もうちょっとだけ、待ってください。」


 ケイシーの髪は、ボッサボサのまま。 パシャパシャと、アリス・テーキラのオシャレ整髪液を頭に振りかけたら、オリヴィアにOKサインを出す。


 ケイシーの その仕草・・・OKサインを見てから、オリヴィアは、ドアを開けた。


「ニミュエ学院長先生のお部屋へ、ご案内します。」


 エセクタの職員は、2人の前を歩く。 そして、ひときわ立派なドアの前へ立ち、トントンと、ノックをした。 開かれたニミュエ学院長の部屋には、すでに、ヨークと、ジェイコブが すでにそこに並んでおり、疲れ切った顔のニミュエ学院長が、目の前にある 大きなデスクの椅子に 腰かけていた。


「ヨークと、ジェイコブの隣に 並びなさい。」


 ニミュエ学院長の隣に立っていた アメリア先生が、オリヴィアとケイシーに、その立ち位置を示した。


「ケイシーと、オリヴィアですね。 おはようございます。」


 挨拶もそこそこに、ニミュエ学院長は、4人に向かって話を始めた。


「時間がありません。 急いでお伝えして 聞いておくことが あります。 まず、この後の魔法省の聴取は、中止となりました。 おそらく、皆さんが思っている以上に、今後、エセクタは、困難な事態に陥ります。 アビーが、逃走しました。」


「えっ? 先生方が居て、逃走?」


 ジェイコブが、驚きの声を上げた。


「そうですね。 恥ずかしいことですが、先生と、魔法省の人間が、居たにもかかわらず、そういう事態になったということです。 もう少し、ランスロット・マーリン部から、人数を派遣してもらうべきでした。 そして、最も重大な事柄は、アードルフ・シタラ=ヒムゥラが、アビーに憑りついているであろう ということです。」


「まさかっ、アードルフ・シタラ=ヒムゥラ・・・。」


 ニミュエ学院長の言葉が信じられなかったのか、ヨークが、アメリア先生の顔を見上げる。 先生は、何も言わず、ヨークに向かって頷き、学院長の言葉を肯定した。


「信じられない・・・ というか、信じたくないのは、私たちも同じです。 しかし、危険な魔法使いが世に解き放たれたことは、事実なのです。 そこで、あなたたちに聞いておきたい。 なぜ、アビーを取り押さえられたか? ということを。 あれが、アードルフ・シタラ=ヒムゥラなら、それを制圧するとなると、軍の動員が必要になる水準でしょう。 アメリア先生からお伺いした限りは、オリバーでは、アビーを押さえることが 出来なかったと聞きます。 ヨーク、ジェイコブ、ケイシー、オリヴィア、あなた方は、どうやって、アビーを押さえたのですか?」


「先生、ぼくたち・・・ ぼくとケイシーは、アビーを押さえる現場に いませんでした。」


 ジェイコブが、口を開く。


「それも、お伺いしています。 しかし、4人は、賢き南の魔女の神殿には、行ったのでしょう?」


「えーと・・・ ヨーク、説明してくれ。」


「ボクと、オリヴィアが、神殿に入りました。 そこから、なぜかアビーたちの居る場所に移動したんです。 その場所では、白い光が、ボクたちを 守ってくれました。 もし、学院長先生がおっしゃるように、アビーに憑りついているというのが 本当であれば、白い光が、アードルフ・シタラ=ヒムゥラを 制してくれていて、ボクたちが、対決した相手は、本来のアビーであったため、抑え込むことができたのでは ないでしょうか?」


「白い光・・・ 普通に考えたら、光魔法ですね。 アメリア、どうですか?」


「アガサは、あの研究室で、主に 光魔法と、古代ルーシ魔法を 研究していたと聞いています。 おそらく、光魔法と 考えて良いでしょう。」


「研究室とは、神殿ですね。」


 ニミュエ学院長の言葉に、アメリア先生が頷く。


「分かりました。 それでは、もう1つ大切なことをお伺いします。 あなた方から見て、言動がおかしかったのは、アビーだけでしたか? オリバーと ルナは、自らの意思で動いているように見えましたか?」


「ルナは、しばらくの間、意識が無かったのでわかりません。 ただ、オリバーは、アビーを捕らえるために働きました。 ボクが、土のドームで、アビーを封じ込められたのは、オリバーの木魔法による 拘束があったからです。」


 ヨークは、真っすぐ ニミュエ学院長の 目を見て 答えた。


「ほかの3人は? 何か気づいたことは?」


「良く分かりません。 おかしな行動は、無かった気がします。」


 ジェイコブが答え、ケイシーと オリヴィアも、首を振る。


「4人とも、ありがとう。 この後、今回の事態について、教室で、説明があります。 パニックを起こさないため、クラスごとにお話ししますので、皆さんは、その説明があるまで、何も話さないでください。 また、話していい内容は、教室で、説明に出てきた内容だけです。 それ以上のことを 周りに教えるのは、許可できません。 状況次第では、魔法省による監視がつくなど、行動に 制約をかけられる可能性がありますので、目立つ行動は、とにかく避けてください。 分かりましたねっ。 アメリア、この子たちは、寮に帰してよろしいでしょう。 次は、オリバーとルナです。」


 ニミュエ学院長が、手を軽く振ると、エセクタの職員が、さっとドアを開けた。


「4人とも、帰ってよろしい。 くれぐれも、言動に気を付けるのですよ。」


 オリヴィアは、ヨークと少し話をしたいと思ったけれども、エセクタの女性職員が、ケイシーとオリヴィアを すぐに女子寮へと引率しようと待ち構えていた。


 仕方なく、ヨークに手を振って、ちょっと笑いかけると、隣でケイシーが、ジェイコブに同じことをしているのが見えた。 ケイシーが、こっちを見て言う。


「まぁ、考えることは同じね。 ちょっと 話をするくらいの 時間をくれてもいいのに。」


「ホント、でも、先生たちも、いっぱい いっぱい って感じだったわ。」


 そう、小さな声で、囁き合うと、2人は、エセクタの職員の後に続き、女子寮へと戻るのであった。

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