1-24.ヨーク、説明しなさい
走るようにして、廊下を進み、アメリア先生のお部屋へ。 トントントン と、ナイチ先生がノックをすると、中から、どうぞ。 という無機質な声が、返って来た。
「すみません。 少々、手間取りました。」
「いえ、大丈夫です。 飲み物を 用意していたところですから。 ナイチ先生、『ヤスミンとドゥダイムのお茶』でいいですか?」
テーブルには、茶が入ったカップが5つ。 その前に、ヨーク、ジェイコブ、ケイシー、ルナ、ジェイコブが座る。
「はい、ありがとうございます。 あぁ、オリヴィア、こっちに座って。」
ナイチ先生が、椅子をスッと引いてくれたので、オリヴィアは、素直にそこに腰掛けたる。 そして、先生は、その隣へ。 腰かけた瞬間、エセクタの職員が、持ってきたカップを2つ、トントンと、テーブルの上に置いた。 オリヴィアの前、そして、ナイチ先生の前に。
「それでは、皆、揃いましたね。 オリバー、つらいでしょうけれども、今日起こったことの、状況を説明は、できますか?」
「はい、先生。」
答えるオリバーは、疲れ切った声で話し始めた。
[風と水の魔法使い] 【 1-24.アメリア先生のお部屋 】
アビーが、いきなり、道を外れて森の中へと足を踏み入れたこと。 岩肌が むき出しとなっている 道なき道を 走るように通り過ぎたこと。 遅れ始めたイヴリンを助けながら、森の中の開けた場所に たどり着いたこと。
訥々と、オリバーは、スタート地点を 出発してからの 歩みを話す。
「そして、森の奥・・・ 切り立った崖のような場所にある、黒水晶のついた祠-ホコラ に、たどり着いたんです。」
「黒水晶・・・ 祠っ!」
ナイチ先生が、ぐっと、身を乗り出した。
「ナイチ先生っ、それは、後で・・・ オリバー、私が、あなたの緊急信号を受けて、あそこにたどり着いた時には、黒水晶は 見当たりませんでした。 それに、祠ではなく、黒い・・・ 闇の洞窟がありました。」
「はい、そこが、祠だったんです。 ルナと、ヨークと、オリヴィアが出てくるときに、黒水晶が砕けて、祠の外観が消えてしまいました。 その後は、中が真っ暗・・・ じゃない、真っ黒にしか見えない 洞窟があるだけでした。 先生が、見た通りです。」
「分かりました。 それでは、アビーが、何をしたか 教えてください。」
「祠の入り口にあった、黒水晶に、ルナ、ボク、イヴリンの順番で、魔力を供給するように言われました。 ルナは、先に 供給してたんだよな?」
「私は、2人が到着する前に、魔力を注入しました。 アビーが、魔力を通すように言ったから・・・ でも、魔力を注いだ量は、ほんの少しです。」
「ボクも、たぶん、イヴリンも、少しだけしか、魔力を注入していません。」
「そうすると、魔力の登録。 贄-ニエ の魔術か・・・。」
「ナイチ先生、そう言ってました。 アビーが、『先に贄の魔力を通した後、闇の魔力を 通す』って・・・ それと、これは、『アードルフ・シタラ=ヒムゥラの祠だと』・・・」
「アビーが、そう言ったのですか? 名前を出した?」
今度は、アメリア先生が、身を乗り出した。
「はい、先生。 ルナも 聞いています。 確かに、『祠の持ち主は、『アードルフ・シタラ=ヒムゥラ』だと言っていました。」
「そうですか・・・ アビーは、あそこが、『アードルフ・シタラ=ヒムゥラ』の領域であることを分かって、皆さんを、連れて行ったということですね。 はぁ・・・」
アメリア先生が、疲れ切った顔で、ため息を吐く。
オリバーは、続ける。 イヴリンが宙を浮き、祠の方へ飛ばされたるように、中に吸い込まれたこと。 オリバーの使った緑の拘束が、アビーの使う闇の魔力に 無効化され、逆に、ルナと一緒に 捕らえられたこと・・・
そこまで話すと、オリバーは、顔を下に向け、すすり泣きはじめた。 それにつられて、ルナも 体を震わせる。
「少し 休みましょう。 オリバー、ルナ。 あなた方の前にある 『ヤースミーンとドゥダイームのお茶』には、神経を休める働きがあります。 気持ちが落ち着きますよ・・・ さて、ナイチ先生、いまの間に、馬車の片付けに、オリヴィアを連れて行った理由を 教えていただけますか?」
「ペーパーでの、馬への変換を、オリヴィアに任せたんですよ。」
その通り、ペーパー・・・ 魔術符を使い、オリヴィアは、ネズミを馬に変え、それを 元のネズミに戻した。。
「ナイチ先生っ、1年生に ペーパーを 使わせたのですか?」
「オリヴィアは、すでに、その知識を持っています。 隠す意味が ありません。」
「しかし・・・。」
そう言った後、アメリア先生は、オリヴィア以外の 5人の生徒たちを見て、続く言葉を飲み込んだ。
「そうですね。 それについては、後でお伺いします。 オリバー? もう、話せますか?」
「イヴリンの話は・・・ すみません。」
先程よりも、小さな声で、オリバーが、話し始める。 アビーの合図で、祠から、イヴリンが、物言わぬ状態で、飛び出てきたこと。 次に、ルナが祠に投げ込まれたこと。 そして、その次は、自分の番だと言われたこと・・・。
そうして、あきらめそうになった瞬間・・・ 突然、黒水晶が砕け、ヨークが現れたこと。アビーを拘束するまでの経過を、ゆっくりと、しかし、正確に 説明する。
「なるほど、分かりました。 つらい話をさせてしまいましたね。 しかし、同じ話を、もう一度していただくことになります。明日、学院長と、魔法省のランスロット・マーリン部の方が、事情をうかがうと思います。 ルナ、あなたもですよ。 今日は、オリバーだけが 話しましたけれども、あなたも、同じように、経過を話す必要があります。 2人の話が食い違った場合は、尋問に近い 聞き方を される可能性があります。 ルナから見て、今のオリバーの話に、間違いはありませんでしたか?」
ルナが、小さくうなずく。
「分かりました。 明日は、学院長と、魔法省の方に会う前に、もう一度、どのように話せばよいかを、説明します。 それでは、2人は、戻ってよろしい。 エセクタの職員が、寮まで付き添います。 ただし、今回の事件の話を誰にもしてはいけません。 分かりましたね。」
一息に、そう告げると、アメリア先生は、チリリンと ベルを鳴らす。 そのベルの音で、部屋のドアが開き、エセクタの職員制服を着た男女が、1人ずつ現れた。
「2人を、寮までお願いします。 2人とも、明日も、話をしなければなりません。 疲れているでしょう。 ゆっくり、おやすみなさい。」
口調は 優しいものの、何か追い立てるかのように、2人を部屋から出したアメリア先生は、ヨークの方に さっと、顔を向けた。
「ヨーク、状況を説明しなさい。 なぜ、あなたとオリヴィアは、闇の魔法使い『アードルフ・シタラ=ヒムゥラ』の祠の中から 出てきたのですか? 場合によっては、あなた方は、闇の魔法使いとして、アビーと一緒に 拘束しなければなりません。」
その強い言葉に、ヨークは、ハッと顔を上げ、オリヴィアは、ふっと息をのんだ・・・。
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