1-23.木のかご? 鉄のケージ?
後方に見える 魔法の森・・・ 古代森林公園が、どんどんと、小さくなっていく。
ポクポクという蹄-ヒヅメ の音。 かぼちゃの馬車は、街道を進む。 土の道は、やがて石畳に変わり、高くそびえるエセクタ魔法魔術学院の塔が、はっきりと見えるようになった。
最大10人まで 乗ることが出来る この馬車の中には、ナイチ先生、オリヴィア、ヨーク、ジェイコブ、ケイシー・・・ そして、ルナが同乗しており、そのほかに、御者として、エセクタ魔法魔術学院の職員が、馬の手綱をとるために、外側・・・ 御者席に 座っている。
もちろん、そのほかの生徒も、エセクタの職員と ともに、違うかぼちゃに分乗し、オリヴィアたちの馬車の後ろから、ポクポクポクと 足音を響かせる。
「そう、気になってたんだけれども、イヴリンの体調は、どうだったの? あの子、私より先に、アビーに 何かを されたのよ。」
その瞬間、会話が止まり、馬の蹄が鳴らす音が、やけに 大きく 馬車の内側に 反響した。
ナイチ先生は、じっと、オリヴィアを見つめる。
(あぁ そっか、どこまで話しているか、ナイチ先生は、分かってないから 説明しにくいんだ。 どうしよう・・・ 私が言うべきかな?)
一瞬の間・・・ そして、その静けさを嫌うかのように、ヨークが、顔を上げて 告げた。
「ルナ・・・、残念だけど、イヴリンは・・・。」
「うそっ・・・ だって、3人は、エセクタに帰ったって。 アメリア先生と一緒に帰った って、オリヴィア、そう、言ったじゃない。 どういうことっ?」
「ごめんなさい。 ルナ・・・ 言えなかったの。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
ルナは、揺れる馬車の中で立ち上がり、頭を抱えた後、そのまま 膝をつき、泣き崩れた。
[風と水の魔法使い] 【 1-23.エセクタへの帰還 】
やっとのことで、椅子に 座らせることが出来た。 しかし、ルナが 泣き止むことはない。 ナイチ先生は、静かに言う。
「ルナ、すまないね。 クラスのみんなが、動揺する可能性が高いので、森から帰ってから伝えようと考えていたんだ。 オリヴィアや、ジェイコブ、ケイシーを 責めないでやってくれ。 森の中で 起こったことを 黙っているように言ったのは、私や、アメリア先生だからね。」
ルナの口からは、うっうっ という声が漏れるだけ・・・ 誰も何も言うことが出来ない。 規則正しく鳴り続ける馬のひづめの音、そして、馬車の車輪が、ガラガラと、石畳を叩く音を 聞きながら、オリヴィアたちは、エセクタに戻るのであった。
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「ナイチ先生、ありがとうございます。 えー、みなさん。 今日はよく頑張りました。 まだ、興奮して、疲れを感じていない方も いらっしゃるかもしれませんが、実際は、体が とても疲れているはずです。 寮に戻ったら、ゆっくり休んでください。 それでは、解散です。 ヨーク、ジェイコブ、ケイシー、オリヴィア。 それからルナは、このあと、私の部屋まで、来るように。 ナイチ先生も、お願いしますね。」
エセクタ魔法魔術学院に戻った生徒たちを 出迎えたのは、アメリア先生であった。 先生は、頑張った皆をねぎらうと、オリヴィアたちを除いて、解散を告げた。
「オリヴィア、ちょっと 待ってもらえるかな?」
ルナと手をつなぎ、ヨークたちと、アメリア先生の元へ行こうと 教室から出たオリヴィアを、ナイチ先生が 呼び止めた。
「はい?」
「いや、アメリア先生の部屋に行く前に、馬車の片づけをやっていこう。 放っておいても、0時になれば、元に戻るけれども、特に、ネズミは、はやくケージに戻してあげないと、職員の方々が 大変だからね。」
ペーパーと呼ばれる【魔術符】は、魔術の術式を描いた呪符だ。 一定の魔力を通せば、その効力を発揮し、通常の物であれば、午前0時に 解除されるように 作られている。
「ケイシー、ルナをお願い。じゃぁ、行ってくるね。」
ルナをケイシーにまかせ、ヨークに手を振ると、ナイチ先生と連れ立って、正門に停められている かぼちゃの馬車へと急ぐ。
「待たせたね。 馬を頼むよ。」
エセクタの職員たちに 声をかけたナイチ先生は、馬車の扉の部分に手をかけた。 すると どうだろう。 馬車が、みるみるうちに 元のかぼちゃに 戻っていくではないか。
エセクタの職員たちは、かぼちゃから 離れた馬たちをひいて、柵に繋いでゆく。 その間に、ナイチ先生は、次の馬車へ。 4つの馬車が、すべて カボチャに戻ったなら、次は、オリヴィアの出番だ。
「オリヴィア、ちょっと、待ってくれよ。 おーい。 ケージと 網を用意してくれ。」
馬を並べ、エセクタの職員たちが、網で ぐるりと取り囲む。
「OKです。 用意できました。」
これで準備完了。 オリヴィアは、馬たちに近づいた。 指を馬の腹の部分に当て、そっと魔力を込める。 魔力は、すぅっと、上空へと抜け、馬は みるみるうちに、小さくなっていく。
チュゥ・・・ タタタタタタッ
「そっちだっ。」
走り出したネズミが、網に引っかかる。 そうして、火バサミ・・・ ゴミ拾いトングとも 呼ばれる道具で、職員が、ピンセットのように挟みケージの中へ。
「なぜだろうね。 ネズミに戻ると、すぐに 逃げ出そうとするんだ。 馬の時は、大人しいんだけどね。」
「先生、戻った時に、大人しくなる ペーパーの図紋が、あったと思いますよ。」
「いや、それは、見せてはいけない。 あと、教えてもいけないよ。 ペーパーによる魔術は、アガ・・・ いや、南の賢き魔女が 作り出した秘術を、紙に描いて保存するものだからね。 魔法省の法律で、その図紋はすべて管理され、内容は、極秘 扱いされている。 厳しく取り締まられているから、絶対に、口にしないように。」
そんなこんなを 言いながら、バタバタと、ネズミを捕まえ、大騒ぎ。 12頭の馬を 全てネズミに戻し、ケージに収納したら、お片付け終了だ。
「ねぇ、先生。 なんで、鉄のケージなんですか? 森では、木のかごに ネズミを入れていたのに。」
「あぁ、ペーパーで馬にする時に、木のかご なら、すぐ壊れるだろう? 鉄だと、壊れないから、そのまま大きくなると、馬のひき肉が出来てしまう。 一度、ネズミを外に出してから、作業しなくちゃならない。 逃げ出されることなんかを 考えたら、ペーパーを使うときは、木のかごに入れておいて、馬に変化して 大きくなる時に 自分の体で壊させて、外に出すようにしているんだ。 合理的だろう?」
「なるほど。 確かにっ。」
「それより急ごう。 ちょっと、時間をかけ過ぎた。 みんな 待ちくたびれている時分だ。」
ネズミを捕まえるドタバタは、少なくとも、30分。 いや、もうちょっと? 確かに、時間が かかり過ぎている。
オリヴィアと、ナイチ先生は、ちょっと慌てて、アメリア先生のお部屋へと 向かうのであった。
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