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1-22.ガラスの靴は、無いけれども

 ゴール地点から少し離れた場所に、布のシートが敷かれた。 そこには、ルナが寝かされ、ナイチ先生が、様子を見ている。


「オリヴィア、少しの間、ルナを 見ておいて もらっていいかな?」


「ナイチ先生、どこかへ 行かれるんですか?」


「いや、そろそろ、後ろの班が、ゴールしはじめるはずだ。 アメリア先生は、エセクタに戻られたからね。 私が、チェックして、採点することになる。」


 すぐ傍には、エセクタ魔法魔術学院の職員が いるにもかかわらず、ナイチ先生は、横たわる ルナを オリヴィアに任せようとする。


「あの・・ エセクタの方もいらっしゃるのに、私でいいんですか?」


「あぁ、魔力の流れは、感じ取れたんだろう? おかしいと感じたら、まず、それを 確認すればいい。 難しいと思えば、すぐに 私を呼んだらいいだけだよ。 頼んだよ。」


 ぽんっと、オリヴィアの肩を叩くと、ナイチ先生は、生徒たちを迎え入れるため、ゴール地点へと移動する。


「ケイシー、こっちに来てっ。」


 ジェイコブと話し込む ケイシーに 一緒についてきてもらい、ルナの枕元へ。 といっても、枕ではなく、布を クルクルと丸めて 枕替わりにしたものだが。


「オリヴィア、ルナは、大丈夫なんだよね?」


「うん、寝てるだけの状態のはず。 たぶん。」


 その時、ルナのまぶたが、ピクピクと 動いた。




[風と水の魔法使い]  【 1-22.かぼちゃの馬車 】




「え・・・ ケイシー? オリヴィア?」


 目覚めたルナが、周りを きょろきょろと見渡す。


「えっと・・・ ここは、どこ?」


「ゴールよ。 大丈夫、ナイチ先生も あっちに居るし、なにも心配はないわ。」


 体を起こし、ぶるぶると 震え始めたルナを、ケイシーが ぎゅっと抱きしめた。


「アビーは? イヴリンと、オリバーは、どうなったの?」


 ケイシーの腕の抱きしめられたまま、ルナは、オリヴィアの顔を じっと見つめた。


「オリバーも・・・ うん、イヴリンも、エセクタに向かったわ。 アメリア先生と一緒に。 それから、アビーも。」


「良かった。 アビーが、突然、変になっちゃって、大変だったの。 オリバーは、緊急信号を上げられたのね。」


 オリヴィアは、何も言えず、ケイシーと目を合わせ・・ そのとたん、ケイシーが、視線を外し 立ち上がった。


「私、ナイチ先生に、知らせてくるわ。 ルナが、目を覚ましたって。 オリヴィアっ、お願いね。」


(あっ・・・ ずるいっ。 逃げた。)


 残されたオリヴィアは、ルナと 1対1。 何を話していいのか、分からない。 


「ルナ、体の調子が 悪いとかは ない? 一応、魔力の流れは、正常だったみたい なんだけれど。」


 イヴリンの話は、それに、アビーの話もしたくない。 困り果てたオリヴィアは、ルナの体調をたずねる。


「うん、ちょっと寒いけれども、大丈夫。 私、どのくらい 寝てたんだろ?」


「うーん、ゴールに着いてからは、1時間くらいかな? 確かに、ここでずっと寝てたら、ちょっと寒いね? 風邪っぽい感じはない?。」


「それも、大丈夫。 ありがと。」


 当たり障りのない会話・・・ しかし、オリヴィアの心臓は、ドキドキと 拍動する。 いつ、話題が、イヴリンたちに 飛ぶのか、気が気でないのだ。


「お目覚めですか? お姫様っ。」


「えっ?」


 ルナが、後ろを振り返った。 目の前には 一人の男の子。 そして、その後ろにケイシー。


「いやぁ、すごく かわいい寝顔だったねー。」


「もぉ、ジェイコブ。 やめてよっ。 ケイシーに 怒られちゃうよ。」


 ケイシーが、ジェイコブを 連れてきたのだ。


「こっちは、オリヴィアに任せるって、ナイチ先生は言ってる。 あと、ヨークは、先生のお手伝いをしてるみたい。 (ジェイコブを連れて来たわ。 ちょっと頼りないけど、うまく話してくれると思う。)」


「そうなの? んー 任せるって、何が出来るわけでもないのに・・・。(ありがと、ケイシー。)」


 小声で、ケイシーと会話する。 ルナに気づかれないように。 そう、ケイシーは、危ない会話から 逃げ出したのではなかった。 ナイチ先生に報告に行くように見せながらも、機転が利いて 口のまわる ジェイコブを こちらに連れてきたのだ。 彼ならば、イヴリンたちの話題も、上手く対応するだろうと期待して。


「いやいや、ケイシーなんて、ぜんぜんっ。 ルナみたいな可愛い子とは、比べものにならないよ。 やだなぁ。」


 ポッと顔を赤らめ、うつむくルナ。 ジェイコブは、ケイシーの方を向いて 首をフルフルと振っている。 さすがに、今のは 言い過ぎたと 思ってるのだろう。


(あっ、ケイシー、ニラんでる。 そりゃ 怒るよね。)


 そんな感じで、触れたくない話題を避けながら、ルナと、いくぶんぎこちない 会話を続けていると、次々と、Cクラスの生徒が戻ってき始めた。 オリヴィアたちの周りも、すこし、騒がしくなってゆく。


(うーん。 でも、このくらい騒がしい方が、いいのかな? ルナの気も まぎれるだろうし・・・)


 残りの5班が、全てゴール地点にたどり着いたときには、日が、西へと傾き始めていた。


「オリヴィア、それに、ケイシーとジェイコブもっ。 ありがとう。 助かったよ。 ルナ、大丈夫かい? まぁ、オリヴィアがついてるから、問題なかったと思うが。」


 夕日で 顔を赤くそめた ナイチ先生が、声をかけたのは、ルナが目覚めてから すでに 4時間ほどたったころ。


「先生、大丈夫です。 あっ、でも、もう一回、森を歩いて 出発地点まで行けっ ていわれたら、歩けませんけど。」


「そりゃそうだ。 たぶん、半分以上の子は、そうだろう。」


「ボクも、魔力が、ほとんど 残ってないから 無理だね。」


 先生の後ろに立つ ヨークが、口をはさむ。


「それじゃぁ、班ごとに集合して、帰りの馬車に乗るんだけれども、ルナは、ヨークたちと一緒に居るように。 おーい、馬車の用意を頼む。」


 Cクラスの フィールド教練に、随行していた エセクタ魔法魔術学院の職員たちが、あわてて、かぼちゃを4つ取り出す。 そして、カゴに入ったネズミを 少し離れたその横に・・・。

 かぼちゃは、街道に5メートルほどの間隔に置かれ、ネズミのカゴは、そこから さらに5メートル・・・。


「オリヴィア、こっちに来て 見てるといい。」


 ナイチ先生は、オリヴィアの背に手を当て、かぼちゃと ネズミの前に 連れていく。 そうして、ペーパーと呼ばれる魔術符を数枚、手に取った。


「見たことは、あるかな?」


「家では、よく使ってました。 でも、私、書くのが遅いから、苦手です。」


「ペーパーを、書けるのかい? そうか・・。」


 そういうと、ナイチ先生は、1枚、2枚、3枚・・・ と、かぼちゃの上、そして、ネズミの入ったカゴの上に、魔術符を置いていく。


「さすがに、4台の馬車となると、結構 距離があるね。」


 そう言いながら、魔術符に 手の平を当てると、魔力を注ぐ。


「おぉっと、危ないっ。」


 緑色のかぼちゃは、見る見るうちに大きくなる。 危うく 押しつぶされそうになった ナイチ先生は、慌てて飛びのいた。


 こうして、4台の馬車が出来ると、次は、ネズミだ。


「そうだ、ネズミは、オリヴィアが、やるといい。 家で 使ってたんだよね?」


「はいっ、でも、私、生き物は、フェニックスにしか 使ったことないんです。 その時、10メートル以上の大きさに なっちゃって、小屋が1つ潰れたので、そのあとは、生き物に使うのは、禁止されちゃいました。」


「あぁ、そうだね。 まぁ、ネズミなら大丈夫だろう。 私も横で見てるから、やってごらん。 ほら、ペーパーに手を当てるんだ。」


 ナイチ先生にうながされ、オリヴィアは、指先を5本、魔術符に押し付ける。 そのまま、水晶に注入した時のように、魔力を注ぐ。


「よしっ、離れよう。 もう十分だ。 おーい、君たち、こっちを頼むっ。」


 後ろから、ナイチ先生の声が、かかる。 エセクタ魔法魔術学院の職員たちが、ネズミのカゴの近くに寄って来た。


 かごを突き破り、グングンと大きくなるネズミたち。 そうして現れたのは、ネズミによく似た毛色の、12頭の葦毛の馬。 職員たちは、1頭1頭に、装具をつけ、馬車へとつないでいく。


「オリヴィア、良くできたね。 これで、みんなを エセクタに 連れて帰ることが出来る。」


 ヨシヨシと、ナイチ先生に頭をなでられ、オリヴィアは、にっこり ほほ笑んだ。

カボチャの馬車に乗ったことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒

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