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1-2.転落!期待の星から、劣等生へ

トーキ漁村から、ひとりで エセクタ魔法魔術学院に入学した オリヴィアには、当然ながら 旧知の友人など居ない。


当たり前のように、食堂のテーブルの隅。 一人で食事をとった。


ランカシャー・ホットポットは、羊肉と、タマネギを厚手の鍋に入れ、ジャガイモをスライスして、フタをするようにかぶせ、低温のオーブンで一日かけて焼いたもの。 比較的安価で 大人数に提供できるため、学院の食堂において 無料で提供される料理の 定番だ。



 塩と胡椒が 良く効きすぎかな? ちょっとしょっぱいし、辛いわ。



そう思いながら、オリヴィアは、水で口の中をゆすぐように飲み込む。 モクモクと食べているようだが、頭の中は、午後からの実習のことで 頭がいっぱいだ。



 パパは、私は特別だから、人より弱く見えても 気にしてはいけない。 って言っていたけれども、本当に 大丈夫かしら? それに、風と水以外の魔法は、見せちゃいけない って言ってたし ・・・うん、とっても 不安だわ。



いつの間にか、人が少なくなっていた食堂。 午後の授業開始の鐘が鳴る 直前まで、少し冷えた ホットポットの皿をつつく オリヴィアがいた。




[風と水の魔法使い]  【 1-2.最初の実習と魔法発動 】




魔法訓練場は、東棟のはずれにある。 鐘の音が終わるまでに、訓練場に入らなければならない。


オリヴィアは、走る。 走る。 走る。


スカートの 裾が邪魔だ。 ドンッと 訓練場のドアを開けたのは、最後の鐘が 鳴り終わると 同時であった。


「あら? 道に 迷ったのかしら? そうね、ここは、東の外れ ですから 新入生には 分かりにくかったかもしれませんね。 でも、オリヴィアっ、一人遅れていますよ。 早く整列なさい。」


アメリア先生の、列に並ぶよう うながす声に、押されるように オリヴィアは、既に整列していたクラスの生徒の 最後尾に並ぶ。


「こちらは、フローレン・ナイチ先生です。 クリームアン戦争に 従軍されておられましたが、本日、学院に お戻りになられました。」


「ナイチです。 先日まで、帝政ロスマとの戦争に 治癒の魔法使いとして、従軍しておりました。 エセクタ魔法魔術学院では、実習で ケガ人が出た時など みなさんの健康異常に 対処することと なります。 本日は、私の所に来なくてもいいように、よく先生の話を聞いて、十分注意して、実習に のぞんでください。」


クリームアン戦争は、ダイエ帝国と、オフランスマン帝国、イヌデーニャ王国の同盟連合軍と、帝政ロスマが 戦った・・・つい先日まで行われていた戦争だ。 戦闘地域は、ドナドナ川から クリームア半島、さらには、東の果て、カムチカ半島にまで およんだ まれにみる大規模戦争であっだ。


「先生は、あの虐殺も、見られたのですか?」


目をキラキラと輝かせて、アビーと呼ばれていた少女が たずねる。


あの虐殺とは、赤海北岸の港湾都市シブノで 停泊中であった オフランスマン帝国の艦隊が、帝政ロスマの赤海艦隊に奇襲され、艦隊のみならず 港湾の施設まで 徹底的に破壊された海戦である。


オフランスマン帝国に 多数の死者が出たことから、シブノの虐殺と呼ばれる。


「赤海沿岸は、血で染まっていた。 まさに赤海と呼ぶべき色だった。 私を含め、多くの治癒の魔法使いは、懸命にケガ人を救おうとしたが、いかんせん 治癒の魔法使いは、数が少ない。 助けることが出来たのは、少数だったよ。 しかし、アビー。 その話は、今することでは ない。 ここは、実習の場だよ。」


「はいはい。 ナイチ先生の言う通りですよ。 今日は、午前中に契約した魔法を、1人ずつ皆さんに 見せてもらいます。 そうですね。 オリヴィアっ。 最初に お手本を 見せてもらえますか?」


急に、声をかけられて ビックリしたオリヴィアは、きょろきょろと 周りを見た後に 言った。


「な・・ 何をすれば よいのでしょうか?」


「そうですね。 こちらの広い空き地部分に向かって、水魔法で、水を発生させてごらんなさい。 その後、その水を 風で、散らして もらいましょうか。」


アメリア先生の言葉に うなずいた オリヴィアは、左手を広げた。


ぎゅっと指先に力を入れて、水魔法を発動する。 そうして広げた 人差し指の先から・・・ ちょろちょろと、水が流れ出た。


ざわざわ という声が 本当に聞こえるよう。 誰が どう言いつくろおうと、その ざわめきには、失望の色が、にじんでいた。


「オリヴィアっ。 手の平から 水を出してごらんなさい。」


慌てて、アメリア先生が アドバイスする。


「先生・・・ 私、指先からしか 魔法を出すことが 出来ないんです。」


オリヴィアのこたえに、目を見開いた アメリア先生は、言う。


「それでは、右手の 風魔法は、どうです? この木の葉を 散らしてごらんなさい。」


アメリア先生が、数枚の葉っぱを 上に投げると、不思議なことに、葉は、オリヴィアの 目の前まで飛んで、浮かんだままと なった。


右手を上げ、指先に 魔力を集中させる。 人差し指からは、そよ風が、噴き出した。 浮かんだ木の葉が、ゆらゆらと 揺れる。


ざわざわ という声は、今度は、くすくすという 笑い声にかわった。


「オリヴィア。 もういいですわ。 がんばりましたわね。 これからも 一生懸命に 学ぶのですよ。」


その言葉とは 裏腹に、アメリア先生の目も、浮かんだ 失望の色は 隠せていない。


自分が 失敗したことに 気づいたオリヴィアは、意気消沈して 列の最後尾に戻った。 最初は、授業開始ギリギリに、遅れてきたから、最後尾であったわけだが、どうやら 今後も ここが オリヴィアの定位置に なりそうな雰囲気が すでに できていた。


うつむく オリヴィアを置いて 時間は 過ぎていく。


Cクラスの生徒たちは、順番に、午前中に契約した 自分の属性魔法を 披露していった。


いかんせん 魔法契約を終えたばかりの、新入生である。


その魔法は、上手いわけがないし、強力なわけがない。


しかし、確実に オリヴィアより 強い魔法が、分かりやすく 手の平から放出される。 そう、彼らが 魔法を発動するために 放出する魔力は、指先ではなく、手の平から 放たれているのだ。


最後の一人が、土魔法により、成人男性と同じくらいの大きさの 土人形を出した瞬間、アメリア先生は、拍手をしほめたたえた。


「ヨーク、素晴らしいですわ。 クラスで1番の出来です。 今後が楽しみですね。」


ヨークと呼ばれた少年は、頭を書き、照れ笑いをしながら、列に戻った。 整列した生徒も、彼を拍手で迎えた。 もうすでに、オリヴィアの魔法のことなど だれも、覚えていなかった。


その時、魔法訓練場のドアが 音を立てて開いた。


「アメリア先生っ。 実験棟から、角モグラが、大量に逃げ出しました。 すみませんが、助力をお願いできないでしょうか?」


エセクタ魔法魔術学院の 職員制服を着た若い男性が 飛び込んできたのだ。

昨日、角モグラの胎児を退治した人は、高評価を押して次の話へ⇒


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