1-15.道なき道のその先に
石板が指し示す道を進むため、並び・・・ 順番を決める。
と言っても、先ほどのキツネような魔獣が襲ってくることも考えると、先頭と、しんがりは、ヨークか、ジェイコブに 決まっている。 ということで、宝探しに 突き進もうとする ジェイコブが、先頭。 ジェイコブの近くには、ケイシーが・・・ ということで、2番目は、ケイシー。 その後ろに、オリヴィア、ヨークと 続くこととなった。
木々の枝をかき分ける・・・ 森の奥深くに続く道。 それは、道と言うには、あまりにも荒れ果てていた。
「いや、確かに、何十年前は、壊れぬ道だったのかも しれないな。」
「うんうん。 木の枝が、ぼうぼうと生えてるから、ぱっと見は、道に 見えないけれども、少なくとも、地面を固めてあるのが、私でも分かるわ。 ただ、これは、道じゃないっ。 ほら、また、ローブが 引っかかった。 もぉっ。」
トゲを持った イバラに似た木に 引っかかったローブの裾を、引っ張るように 外す ケイシー。
「そうだね。 ケイシーが言うのは、正しいかもしれない。 そうなると、ジェイコブの予想は、外れるかも しれない。」
「なんでだ。 ヨーク、お前も、宝がある可能性はある って思ったんだろ?」
「この道以外に、南の賢き魔女のほこら に続く道があるなら別だけど・・・。 この道をナイチ先生が通って、教練用の宝を隠したとは、どうしても、思えない。 だいたい、火を操るキツネが、出る道だぞ? さすがに 他の一年生では、対応できないだろう?」
「まぁ、それは、確かにそうだが・・・。 だけど、地図の 順路・・・ 教練のコースとして記されている道でも、角モグラだって出たじゃないか。 多少の危険は、先生方も、織り込み済みだろうっ。」
ヨークたちが、簡単に撃退出来てるので、あまり気にならないかもしれないが、確かに、角モグラも、狐火を操るキツネも、一年生が対応するには、すこし 手に余る 魔獣だ。
「うん。 だけど、あまりにも、道が悪すぎる。 もし、宝が、この先に 隠されているとしたら、たぶん、祠に通じる もう少し通りやすい 安全な道が あると思う。 でないと、あまりに難易度が高すぎる。 ジェイコブ、そう思わないか? 自分のアイデアに、固執し過ぎだぞ。」
[風と水の魔法使い] 【 1-15.石造りの神殿と湖 】
「この邪魔な枝は、燃やしちゃダメかな?」
「バカっ、ケイシー。 それこそ、あの魔法訓練場での アビーの火炎放射と同じになるぞっ。 今度は、森の中だ。 スプリンクラーなんて、ないんだぞ。」
「もぉ、言ってみただけよ。 ほら、この袖を見て。 ズタズタになっちゃった。 ってか、オリヴィアは、なんで、そんなに スタスタと 歩けてるのよ。」
「え? ほら、前を ケイシーとジェイコブが歩いてくれてるから。 危ない枝は、ジェイコブが、払ってくれているか、先に、ケイシーが、引っかかっててる。」
「あっ・・・。 そっか、後ろの方が良かったかも。 そだ、ちょっと、ジェイコブ。 もうちょっと、木の枝を 払っておいてよ。」
「んー。 真面目に答えると、枝を払うのに 気を使いすぎると、周りを警戒できなくなるから 無理だっ。 自分でどうにかしてくれ。」
「じゃぁ、やっぱり、焼き払うわよ。」
「あぁぁぁ、分かった。 ちょっと 多く枝を払うから、その代わり、オレの 真後ろを 歩いてくれ、横にずれられると、払う枝が 多くなって、負担が 大きい。」
「うん、最初から、そう言えば いいのよね。」
そんな風に悪戦苦闘をしながらも、4人が、枝をかき分け、進んだ先。 そこには 小さな湖があった。 その湖のほとり・・・ 佇むように 建っていたのは、白い石造りの神殿であった。
「なにこれ? 祠じゃないの? なんで神殿?」
「オレも、こんなのがあるのは、知らない・・・。ヨーク?」
「うん。 聞いたことない。 オリヴィア、何か知らないか?」
「全然、分からないわ。」
不思議なことに、神殿には、入口も出口も見当たらない。 ただ湖のほとりに ポツンと建つだけ。
「どうやって入るんだ? これ。」
ジェイコブが、白い石造りの 壁を撫でる。
「ねぇ、こっち。 水の中に、台みたいなのがあるわよ。」
いつの間にか、湖の岸辺に腰を下ろしていた ケイシーが、3人を呼ぶ。
「おいっ、危ないだろ。 離れるなよっ。」
「大丈夫よっ。 ほら、水も、透明で すごくキレイッ。」
ケイシーが座る湖岸。 その先、水の上に、小さな台が 浮かんで見える。
「あれ、浮いてる?」
「でしょ? ほら、何か乗ってるの見えない? オリヴィア、あそこまで泳げる? あなた、海の見える村の出身でしょ?」
「え・・ ちょっと、怖いかな?」
「ウソよっ。 冗談。 さすがに、森に入って、泳ぐ準備まで してきたわけじゃないんだもの。 ほら、ジェイコブ、出番よ。 泳いで見てきて。」
「おいおい、これ、まだ かなり 冷たいぜ。」
「ん、戻ってくるまでに、火を用意してあげるから。」
ジェイコブは、文句を言いながらも、左手からスルスルと、植物のツルを出すと、水に浮かべた。 そうして、バサッと、ローブを脱ぐ・・・ といっても、あの時・・・ ゼッケンを縫い付けた時のように、下着姿ではない。 伸縮性の高い生地が、身体に密着するタイプの 機能性ウェアを着ていたのだ。
「何、カッコつけた服を、下に着てるのよ。」
「この服は、筋肉や関節への負荷を緩和してくれる上に、筋肉を支えて助ける働きもある。 疲れにくくなるんだ。 いくら同じ班に、ヨークが居るといっても、森に入るからな。 何が起こるか分からないだろ? ケイシーも、魔法植物の研究家を 目指してるんだから、そういうのも 考えた方がいいぞっ。」
「えっ? ケイシー、研究家志望なの?」
「あっ、ちょっとね。 小さい頃、ジェイコブのお父さんの 書いた子供向けの本を 読んだことがあって・・・。 志望ってわけじゃないのよ。 興味があるかな?ってくらい。」
そんな話をしている間にも、ジェイコブは、水に浮かべていた 植物のツタを 自分の体に結び付け、もう片方の端を、ヨークに渡す。
「その木に、結び付けておいてくれ。」
「あぁ。 水は、透明だし おそらく安全だろうけど、気をつけてな。」
ヨークは、木の幹に、ジェイコブのツタを結びつけると、手で、OKサインを出した。
「行ってくる。」
パシャパシャという音をたて、ジェイコブは、湖に入って行った。 水に浮かぶ台を 目指して・・・。
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