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1-14.白い石板。その指し示す先に

 木の根元に埋まっていたのは、白い石板であった。 オリヴィアの左手が撫でる その石の上に刻まれていたのは、見覚えのある文字。


 ガサッ・・・ ガサガサっ。


 指先が、石板を撫でる。 1文字ずつ 文字をなぞる その指の上に、ポタリと雫が落ちる。 水魔法・・・ ではない。オリヴィアの目から 零れ 落ちたものだ。


 そうして、文字を追うオリヴィアは、小さなキツネが、目の前に現れていることに 気づくことが出来なかった。


「離れろっ。 オリヴィアっ。」


 ヨークの声が響く。 パっと前を見ると、キツネが、火の玉・・・狐火を纏って、オリヴィアを見ながら、唸っている。


 小さな土人形が、オリヴィアの前に現れるのと、オレンジ色の火が、土人形を溶かすのは、同時であった。 そして、オリヴィアのローブが、後ろから 引っ張られる。


「離れるのよ。 ここから。」


 ケイシーの手が、オリヴィアの襟を掴んで、引っ張ったのだ。 ジェイコブが、魔法で作り出した植物のツタをキツネへと飛ばす。 キツネは、後ろにピョンと飛び、緑色のツタをかわすと、咥えていたサンドイッチを 落として走り去った・・・。


「あぁ、サンドイッチの残りを 取ろうとしてたのね。 オリヴィア、あなた、残ったサンドイッチを、ここに捨てたんでしょ。」


「う・・うん。 ごめん。まさか、こんなことに なるとは 思わなかった。」


「仕方ない。 とりあえず、ここから離れよう。」


「えーと・・・。 ヨーク。 ケイシー、ジェイコブ。 もうちょっとここに居ていい? これ、ママのメッセージが、書いてるの。」


 オリヴィアの人差し指が、指したのは、もちろん 木の根元にある白い石板の文字 であった・・・。




[風と水の魔法使い]  【 1-14.ルース魔法文字 】




「これは、ルース魔法文字・・・。 まさか、オリヴィアは、これが読めるのか?」


 ジェイコブが、驚いた表情で、オリヴィアの顔を見た。 ヨークは、しゃがみ込んで、オリヴィアの指が、再び撫で始めた その文字を見つめている。


 古代ルースで使われたルース魔法文字。 今では、考古学者ですら、ほとんど解読が 出来ないため、これで書かれた文書を読み解くことができたなら、ランスロット・マーリン勲章を もらえる。と言われるくらいだ。


「オリヴィア、本当に読めるのかい? ルースの後継国家を自認するキナコ公国でも、ペラルース公国も、帝政ロスマであっても、これを読める者は 居ないんだ。」


「そうなの? あのね、ヨーク。 これ、私のママが、教えてくれた秘密文字なの。 小さい頃、周りの人に、内緒のお話をしたい時は、この文字で お手紙を書いて ママに渡してた。」 


 古き魔法国家、ルース公国は、東から来たモンゴ・キチャクプ=ハンの一族に滅ぼされた。 そうして、キナコ公国、ペラルース公国、帝政ロスマが、その後継国家として登場するのは、その数百年後・・・。


 その数百年もの間、失われた魔法文字が、南の賢き魔女 アガサ・ボナム=カーターによって 解読されていたことに、ヨークと、ジェイコブの2人は、驚きを隠せない。


「・・・南の賢き魔女は、ルース文字を解読していたのか。 これは、歴史が、変わるな・・・。 驚きだ。」


 ジェイコブが、ため息をついた。


「歴史とか、どうでもいいよ。 オリヴィアっ。 この石板、何って 書いているの?」


「んーと・・・。 ここから道を外れて、あっち。 キツネが逃げていった方角に ママの部屋・・・ アガサの部屋って書いてるの。 で、逆に進むと、クラーラとアイオロスの息子の部屋がある。 って、書いてあるんだと思う。」


「クラーラと、アイオロスの息子? 誰よ。 それ・・・。」


「ケイシー、問題は、そっちじゃない。 アガサの部屋だ。 ヨーク、これじゃないか?」


「いや、ナイチ先生でも、ルーシ文字は、読めない。 確かに、これは、オリヴィアだから 解読できた ヒントだ。 でも、ナイチ先生には、読めないとなると、宝探しのヒントとしては、不適切だ。 ジェイコブ、考察をするのは、悪くないが、あまりに思い込みの部分が、大きすぎる。」


「ヨーク、違うっ。 南の賢き魔女のほこら だ。 アガサの部屋って 書かれていると 聞いたから、私的な部屋だと 思いがちだけれども、そうじゃない。 魔法の森にある 聖なる魔の祠 の話は、有名じゃないか。」


「聖なる魔の祠って、何よ。 聞いたことないわよ。」


「ケイシー。 アメリア先生の授業でも、出てきたぞっ。 南の賢き魔女が、魔法の森の中でも、光の魔力が集まる場所に作った、聖なる祠っ。 闇以外の魔法の力が、増幅される特別な場所。 宝の隠し場所として、一番 ふさわしいと思わないか?」


「そう? ヨークは、どう思うの?」


「ナイチ先生が、オリヴィアと関連する場所に宝を隠したと仮定した場合は、そこに宝があったとしても、おかしくないと思う。 ただ、ジェイコブが、言うほどの確信は、持てない。」


「なんでだよっ。 そこに宝があることには、確信しか持てないぞっ。 理屈は、完璧じゃないか。 どこに不安があるんだ?」


「いや、ナイチ先生が、クラスの中で、ただ一人、オリヴィアを気にかけているというのは、分かる。 だから、オリヴィアの関係する場所に 宝を隠す可能性もあるとは思う。 ただ、そこは推測でしかないんだ。 クラスの生徒全員に 公平な場所を 用意している可能性だってある。」


「だから、南の賢き魔女の聖なる祠 ってだけで、全員に公平な場所なんだよっ。 その上、オリヴィアに関係しているっ。 ほかに、ふさわしい場所なんて、思いつかないぞっ。」


「だから、可能性はある って言ってるだろ。ゴールの時間を 遅らせても、行ってみる 価値はあると思うよ。」


「ヨークが、そう言うなら、行ってみるべきね。 オリヴィア、こっちの方向で、いいのよね。」


「うん。 ほら、矢印が見えるでしょ? この三角形の図柄の所。」


「あぁ、これ、矢印なのね。 じゃ、さっさと片付けをして、そっちに向かいましょ。 ジェイコブっ、グズグズしてないで、荷物を、片づけるわよ。」


「お前っ、食休みぃぃ って、座り込んでたのは、ケイシーだろっ。 ふざけんな。」


「はいはい。 男が、ぐだぐだ 言わないっ。 ほら、ヨークは、オリヴィアの荷物まで、まとめてくれてるじゃない。 見習いなさいよっ。」


「あっ・・・ ごめん。 ヨークありがとう。」


 なおも、懐かしそうに、座ったまま 石板の文字を 撫で続けていたオリヴィアは、慌てて立ち上がり、ヨークから、その荷物を受け取った。

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