1-13.白い石板の文字
第3のチェックポイントでの魔力供給。 水晶に魔力を注ぎ終えた時には、太陽は、南の空・・・ 中空高く昇り、日盛りに 差し掛かっていた。
「どうする? これで最後の水晶も手に入ったし、お昼に しないか?」
バッグの中に 第3の水晶をしまい込んだ ジェイコブが、ヨークに向かって提案した。
「そうだね。 チェックポイントは、ある程度セーフティなエリアっぽいから、ちょうどいいかな?」
「うん。 私、おなかすいた。 あのね、朝、オリヴィアと頑張って お弁当作ったんだよ。 だから、お昼にしよっ。」
そう言いながら、ジェイコブの腕を取ったケイシーの横で、ヨークは、敷物を地面に敷く代わりに、土魔法で、2メートル四方を石畳とする。
「ねぇ、ヨーク。 こんなことに 魔力を使って、魔力切れにならないの?」
「うん。大丈夫。 表面の土だけを薄く石にするだけだし、最後のチェックポイントが 終わったからね。 ここから後は、水晶へ注入するほど 多くの魔力を使うことも ないと思うよ。」
石畳の真ん中には、バスケット。 その中には、オリヴィアと、ケイシーが、朝早くから 頑張って作った お弁当が詰められていた。
[風と水の魔法使い] 【 1-13.砂の魔女? 】
「うめぇっ。」
ジェイコブが、舌鼓を打つ。
ケチャップ魔力ソースのハンバーグは、ケイシーが腕によりをかけて作った一品だ。 ハンバーグ自体は、合挽き肉に みじん切りして炒めた玉ねぎとを 混ぜて練った普通のものだが、ソースがケイシーのオリジナル。 市販のトマトケチャップに、グリフル・ジャッセレーの特製魔濃ソースを 大さじ2杯加え、バターを加えたもの。 ジャッセレーは、スットコランド最初の料理魔女と呼ばれ、魔術法で、ソースに魔力を注入する 方法を見つけたことで知られる。
「すごいなっ。 ソースに魔力を込めると うまいのは知ってたけれども、ケチャップとも合うとは思わなかった。」
「すごいでしょっ。 魔力ソースだけじゃ、この味は出ないのよね。 普通のケチャップと混ざると、ぜんぜん味が変わるのよ。」
ケイシーは、うれしそうに胸を張る。 食べる前に、火でちょっとあぶって 軽く焦げ目をつけたりと、かなりのこだわりを持って 作っていたようなので、ジェイコブが どんな反応をするか気にしていたのだ。
一方、ヨークは、オリヴィアの作った ハーフポケットサンドを食べて、満悦。 まぁ、作ったといっても、食パンを半分に切って、切れ込みを入れて、中身を入れただけ。 切れ込みに、マヨネーズをぎゅっと放り込む。ここに、ケイシーのケチャップ魔力ソースを ちょっともらってきて、ポトポトと垂らしたら、あとは、半分に切ったハムとスライスしたキュウリを切れ込み部分に挟むだけ。 なんともお手軽なサンドイッチの出来上がり。
「砂の魔女って、感じか?」
「それは、サンドウィッチだな。」
ヨークの前にあるサンドイッチに手を伸ばしながら、ジェイコブが冗談を飛ばし、ヨークは、笑いながら それに返事をする。
「この紅茶は、茶葉がいいんだ。 おいしいだろ?」
今、オリヴィアとケイシーが、飲んでいるミルクティは、ジェイコブが用意したもの。 優れた母樹・・・ 茶の木から1節1葉をとり、苗床に挿して育て クローン栽培を行ったものだ。
「おいしい紅茶の条件は、良い環境で栽培され、魔法使いが適切に魔力を通した葉の、良い部位のみの茶葉を 取ることなんだ。 茶摘みを終えた時点で、9割がた まずいか、おいしいかが 決まっている。 きれいな空気・土・水。 そして、適切な魔力・・・ 良い環境が、おいしい紅茶には 必須なんだよ。」
「はいはい。 美味しいのは、分かるけれども、うんちくは、いらないわ。 ジェイコブって、こうなのよ。 手摘みで、この部分だけ 取っているから おいしいとか、そういう話ばっかり。 それじゃ、せっかくの紅茶も、美味しくなくなるわっ。」
たしかに、ケイシーでなくとも、農場見学の解説のような話を聞きたいとは、思わないだろう。 オリヴィアは、パクっとサンドイッチにかぶりつきながら、クスリと笑った。
「食べながら、この後のことを 話し合っておきたいんだけどいいかな?」
ヨークは、今までの道のりを簡単に描いた魔法の森の地図を広げた。
「とりあえず、第3チェックポイントの水晶を得たことで、ボクたちは、ゴールする権利は、獲得したわけだ。 ここから、真っすぐゴールするのは簡単なことだけど、どうする?」
「オレは、宝を探したいな。 たぶん、宝を持ち帰らないと、7チーム中、2位か3位・・・。 ほかのチームが、宝を見つけたら4位以下もあり得ると思う。 ゴールは、いつでもできるしな。」
「そうね。 ただ、探して宝を見つけることが出来なければ、ゴールが遅くなる分、成績を悪くつけられても 仕方ないんだけれど・・・。 シェイコブは、ナイチ先生が隠した宝が、どこにあるか っていう 目途が たってるのかしら?」
「オリヴィアが、鍵になると思う。」
「えっ?」
この先の方針なんて、ヨークたちに任せておけば、大丈夫。 そう思って傍観していたら、急にボールが飛んできた。 オリヴィアは、ジェイコブが何を考えて そんなことを言っていのるか、全く分からないのに・・・。
「どういうこと?オリヴィアが、鍵になるって・・・。」
「なんだかんだ言って、オリヴィアは、ナイチ先生の唯一のお気に入りだ。 アメリア先生は、まんべんなく クラスの優秀な生徒の方を見ているけれども、ナイチ先生は、オリヴィアのことしか気にしていない。 だから、宝の内容や、隠し場所は、オリヴィアに関係する 何かをヒントにしている可能性が高いと思う。」
「ああ、確かに。 それは、あるね。 それにしても、ジェイコブは、そういう裏から 考察するのが、得意だよな。」
「そうね、この前なんて、アメリア先生の小テストの問題のヤマを、全部当ててたもん。 で、オリヴィア、どうなの? 宝の隠し場所とか、分かんない?」
「そんなこと言われても・・・。」
ナイチ先生の お気に入りだと言われても、なにか特別に教えてもらえるわけでもなく、また、私的に話をしてくれるわけでもない。 そんな風に期待されても、答えられることなど、何一つ思いつかない。
「まぁ、いきなり言われても、すぐには出てこないね。 あと10分くらい休憩時間にするから、10分後に1人ずつ意見を出そう。 宝に繋がりそうな意見が出るなら、宝探しをしてから ゴールを目指す。 アイデアが出てこないようなら、すぐにゴールを目指す。 これでどうかな?」
「そうね。 それがいいわっ。」
「うーん。 オレは、宝を持って帰りたいな。 オリヴィア。 君にかかってるから、頼むぜっ。」
「う・・・うん。 でも、自信ないわ。 何も 思いつかないんだもの。」
お弁当セットの片づけをしている間も、ナイチ先生の隠した宝について、良いアイデアなどは、思いつかない。 そもそも、宝探しのことなんて、頭から抜けていて、さっき、ヨークが話を出して、初めて 思い出したのだから 仕方ないことだが・・・。
そうして、残ったサンドイッチを茂みの中に捨て・・・ 獣を呼ぶことがあり、あまり推奨されることではないのだが・・・ 残った紅茶を木の根元に ドボドボと、流す。
「あれ? これは何かしら?」
オリヴィアは、その木の根元に、チラリと白い石の板のようなものを見つけた。 手で、パサパサと、土をはらい、石の表面がキレイに見えるようにする。 10年? いや20~30年は立っているようだ。 少し古い時代のモノなのだろう。 なかなか こびりついた土が取れない。 オリヴィアは、左手の指から水を出し、石の上へ流すと、右手の風魔法で、それを飛ばす。
こびりついた土に、水がしみ込み、右手から発せられる 弱い風に乾かされることで、ポロポロとはがれていった。
「あっ。 コレっ、秘密文字だわ。」
オリヴィアは、小さく声を上げた。
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