1-11.闇の拘束
両手を広げたアビーの放った、闇の魔法。 その魔力は、オリバーの頬をかすめて、その後ろへと抜けていく。 オリバーの木魔法は、緑色をした植物のツルであったが、アビーの物は、ツヤのある黒色のツル。 それが、ルナと、イヴリンに、向かったのだ。 黒のツルは、走るルナの足を後ろから捕らえる。・・・そして、もう1本の黒いツルが、イヴリンの腕を捕らえる。 そうして、そのまま ズルズルと2人を引きずって、オリバーの横へ・・・。
「イヴリンっ。 ルナっ。」
自分の隣に 転がるルナと、イヴリン。 それを 闇の拘束から助けようとする オリバー。
しかし、アビーは、それを からかうように・・・ 楽しむように あざ笑う。
「あら、戻って来ちゃったわね。 そうよね。 このフィールド教練は、4人が 揃って行動しなきゃ ダメだもん。 一緒に居ようねっ。」
「アビー。 お願いだ。 やめてくれっ。」
「そんなことしても無理よっ。 拘束は、解けないわ。 あなたは、そこで見てなさい。」
オリバーの太い腕が、何をしようとも、黒いツル・・・闇の拘束が、その繋縛を解くことはない。
「きゃぁぁ。」
クスクスと 笑いながら、ひょいっと、アビーが腕を振る。 すると どうだろう。闇の拘束を受けたまま イヴリンの体が宙に浮いたのだ。
「偉大なアードルフ・シタラ=ヒムゥラ・・・ この魔力を捧げます。」
そうして アビーが、祈るように呟くと、イヴリンの体は、すぅぅっと、宙を飛び、ほこらの中へと吸い込まれていった。
[風と水の魔法使い] 【 1-11.角モグラの棘 】
壊れぬ道を、ずんずんと進む。 時折、オリヴィアが見つけた珍しい植物を採取し、貴重な素材を得ながらも、ヨークのチームは、順調に前へと進んでいった。 第2のチェックポイントを過ぎ・・・ この第2チェックポイントの水晶を運ぶのは、約束通り ジェイコブだ。 少し重くなった背中のカバン。 しかし、さすがに この程度は 楽に運んでいる。
「地面が、何かおかしいっ。 注意しろっ。」
ヨークが、鋭く叫んだ。 Cクラスでは、1番とアメリア先生に評価されるヨークは、1年生とは思えぬ土魔法の使い手。 その力で、地面の下・・・土の中の異常を 感じ取ったのだ。
「いやっ。 なんか変っ。」
そのうち、オリヴィアも、ケイシーも、ジェイコブも、足元の この異様な雰囲気を 感じ取った。
「なんか、もこもこ 動いてない? ほらっ、そこ・・・オリヴィアの足元っ。」
オリヴィアの足元の土が モコリと揺れて浮き上がる。 鼻を出したのは、モグラ・・・ いや、額に小さな角が見える。 『角モグラ』だっ。 一瞬、顔を出した角モグラは、小さなトゲを飛ばし、再び、地面に もぐりこむ。
「いたいっ。」
「ケイシー。 手を見せろ。」
ジェイコブが、ケイシーの腕をつかむ。 モグラの飛ばした トゲが、ケイシーの左手を 直撃したのだ。 トゲは、彼女の 手の甲に刺さり、そこには 血がにじんでいた。
「大丈夫。 そこまでの ケガじゃないわ。」
「何を言っている。 弱いとはいえ、角モグラには、魔痺毒が あるんだぞ。」
魔痺毒は、魔力を滞らせる毒である。 角モグラの魔痺毒は、それほど強いとは 言えないが、ケイシーは、左手・・・ 一番得意とする属性魔法の発する手に、そのトゲを 受けたのだ。 毒で、魔力の放出が 思うように出来ない状態で、なにかことが起こったら、致命的なミスを生む可能性がある。 また、長く放置すると、一時的な症状ではなく、慢性症状として、魔力放出の停滞を 引き起こす可能性があるため、早めの応急処置が 必要となる。
ジェイコブは、水筒の中の水を 一気にケイシーの左手にかけ、洗うと、その傷口に 口をつけた。 つつぅ っと トゲを吸い出し、ペッと吐き出す。 3~4回、それを繰り返した後に 言った。
「ヨーク、水をくれ。 たぶんトゲは、抜けた。 もう一度、洗わないとだダメだ。 あとは、救援信号を 上げてくれっ。」
「ちょっと、ジェイコブ。 水は、大切よ。 それに、救援信号を上げたら、リタイアじゃない。 イヤよ。 私は、ゴールするわ。 たかだか、角モグラじゃない。」
「何を言ってる。 もう、そんなことを言っている 段階じゃない。」
「ケイシー、ジェイコブ。 待って、私が 治療するわ。」
オリヴィアは、2人の間に割って入ると、ケイシーの左手を取った。 オリヴィアの左手が、水属性の魔法を、発動する。 チョロチョロっと、指先から ほとばしるのは、純粋な魔力水。 傷口を清浄に保ち、汚れを洗い流すためのものだ。
「・・・つっ。」
「ご、ごめん。しみた?」
「ううん。 大丈夫。 そうね、オリヴィアの水魔法は、ジェイコブの水筒の水なんかより、よっぽど 気持ちいいわ。」
「おいおい、1回も口をつけてないから、キレイなはずだぞ。」
「それでも、ジェイコブの水筒だからねぇ。 ははっ。」
「きれいになったから、治癒する魔法をかけるね。」
傷口のある手を取り、オリヴィアは、そっと、両手を添える。 水魔法の左手だけではなく、両手だ。 そうして、魔力を流し始めるとと、傷口は、またたく間にふさがった。
「ケイシー、左手の魔力の放出は、どう? 上手く 流れるかしら?」
「ん? 大丈夫だと思うけど・・・。」
ケイシーは、手の平の上に 小さな火の玉を出した。
「うん。 問題なさそう。 っていうか、ヨーク・・・何してるの?」
火の玉を消したケイシーは、妙な気配を感じて、後ろを振り向いた。 そこには、ヨークが しゃがみ込み、左手を地面につけていたのだ。
「あぁ、このあたりの土を、薄い石に変えたんだ。 ほら、固いだろう?」
コンコンっと、石になった 地面をたたく。
オリヴィアとケイシーは、あたりを見渡して驚いた。 みんなが座り込んでいる・・・ ジェイコブは、立っていたが・・・ その周辺2メートル四方くらいが、まるで 石畳のように なっていたのだ。
「ほら、アメリア先生が、言ってただろう? 角モグラは、光のあたる場所では、動きが遅けれど、土に潜った途端、今までの動きは 何だったのだろうと思うくらいのスピードで 動くって。 薄くてもいいから、地面を石にしておくことで、地面から出てくることが出来なくなる上に、もし、周りから飛び出てきて、石の上に現れた時には、ボクらでも、すぐに退治が出来る ってわけさ。」
「さすが、ヨークね。 こんな範囲の地面を石に変えてしまうなんて、ビックリだわ。 あっそだ。ジェイコブ、水筒を出して。」
オリヴィアは、ついでと言った感じで、水魔法を使って、空になってしまった ジェイコブの水筒を満タンにした。 それを見たヨークが、自分の水筒の中身を、土の上に・・・石畳の外側に・・・ ジャバジャバと捨てる。
「ボクも、オリヴィアの水が いい。」
「もぉ、ヨークったら・・・。」
「はいはいっ、ごちそうさま。」
「ケイシーだって、ジェイコブと ラブラブしてたじゃない。」
ちょっと、こぶしを上げて、ケイシーの頭を殴るマネをするオリヴィア。 その時だった。
「おいっ 後ろだ。 ヨーク。」
ヨークの後ろ・・・ さっき、水を捨てた場所・・・ そこに、4匹の角モグラが、飛び出して来たのだ。
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