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1-10.緑の拘束

 第1のチェックポイントを過ぎ、魔の森の道を行く。


「これは、壊れない道だな。」


 ジェイコブの言葉に、ヨークが反応した。


「壊れない道?」


「道を通るのに、障害になる立木は、きれいに伐倒されているだろう? 天地返しと言って、柔らかい 上土を捨てて、底の硬い土を 路肩に寄せながら、掘削りを繰り返して 土を固めてある。 そして、削った斜面の勾配が、33度を超えている所は、木魔法をかけた 丸太を交差させて 土留めを施している。 盛った土の安定を図って、土を落ち着かせたうえで、植物が より早く促進するようにしてあるんだ。 これは、かなり高度な施工だと思う。」


「へぇ、それが、何で壊れない道なの?」


興味を持ったのか、ケイシーも話に加わった。


「まず、物理的に崩れにくい。 そこに木魔法をかけてあるので 土が流れない。 育った大型の植物の根が、地面に 這うと、地盤は より強固になる。 大雨が降っても 崩れない道になるわけだ。 さすが 南の賢き魔女様ってところだな。」


「へぇ、ジェイコブって、くだらないこと 知ってるのね。」


「ちょっ、お前、ふざけんな。 これは、植物研究家を 目指すものにとっては、知っておかなきゃならない、必須項目なんだぞ。」


 魔法の森の、壊れない道は、次のチェックポイントに続く道。 虫や、小鳥は見かけるが、危険な獣や、魔獣を見かけることはない。 道を外れなければ、危険なことなど そうそう起こるものではないのだ。




[風と水の魔法使い]  【 1-10.アードルフ・シタラ=ヒムゥラの祠 】




「いや、どんどん道を外れていくから、一体どこへ? って思ってたんだけれども、聖なる魔のほこら に たどり着く こんな 抜け道があったんだな。」


「でも、途中の 岩の連なったところなんて、もう けもの道でも なかったよね。 あれ、道じゃないよ。」


 不満そうに言う、イヴリンは、この道中の 岩の連なる厳しい山道で、ローブが 裾から大きく破れてしまっていた。


「とりあえず、2人も、この水晶に 魔力を通してみてっ。」


 アビーは、イヴリンの不満そうな表情も、オリバーが、イヴリンのローブを気にしている素振りを 見せていることも、全く 我に関せず といった感じで、2人に告げた。


 先にオリバーが、黒の水晶に魔力を通す。 そこから放たれる光は、強い緑色・・・ そして、黄色。 木の属性と、土の属性の魔法使いだ。 続いてイヴリンが、魔力を通す。 白い光があたりを照らし、そこに 薄い青色の光が 少し遠慮がちに 白色にかぶさって周りを染めた。 治癒と、水の魔女である。


「アビー。 魔力を通したが、これでどうなるんだ?」


「あぁ、先に贄の魔力を通した後、闇の魔力を 通すだけよ。」


「に・・にえ・・・贄? 何を言ってる?」 


「このほこらは、アードルフ・シタラ=ヒムゥラ様のもの。 黒水晶は、闇の魔力を 増幅させる。 ほら、見てっ。 この美しい輝きを。 闇に、あなたたちの魔力を 捧げるのよっ。」


 アビーは、そう言って、黒い水晶に手をかざす。 ・・・アビーの手から、すぅっと 魔力が吸い込まれる。 あたりに ツヤのある黒い光が たちこめ、そうして、闇の光が、あたりを・・・ あたり一帯を包むだけでなく、ルナルナ、オリバー、イヴリンの3人を包んだ。


「ナニコレっ?! 手から、離れない。」


 腕に 絡みついて来る 黒の光束から、身をよじって 逃れようとする イヴリン。


「闇属性の光? アビーは、火と土の魔女のはずなのにっ。 どういうことっ? アビー、どうなってるの?」


 流石に同室だけあって、ルナは、アビーのことを 一番よく知っている・・・ はずだった。 魔法の属性も、性格も。 なのに、闇の属性の光が、自分の腕に 絡みついて来るのだ。 パニックになり、狂ったように 腕を振っている。


 オリバーは、流石に冷静であった。 左手をサッと上げると、木魔法を発動する。 森の木々が ざわめき始める。


「アビー。 お前が何をしようとしているかは、分からない。 だけど、森の中で、木の属性の魔法使いにケンカを売るのは、間違いだ。 森の中で、木と土の魔法使いに 勝る属性は、ないっ。」


 森の中から、緑色のツタが、シュルシュルと伸びる。 そして、そのツタは、ルナと、イヴリンの体を クルクルと包む。


「ルナ、イヴリン。 ツタに身を任せろっ。 そのまま安全な場所まで 移動させる。 オレは、アビーを押さえる。 救援を呼んでくれっ。」


「でも、オリバー。 腕章は、アビーが持ってるし、ゼッケンは、あなたのローブに、くっついているのよっ。 どうやって。」


「道を戻って、後続の班に、助けを求めてくれっ。 見ての通り、俺のゼッケンは、この黒い光に包まれている。 さっきから、魔力を通そうとしているんだが、まったく 通らないんだっ。 おそらく、この黒の光を どうにかしないと発動できない。」


 そうする間にも、オリバーが魔法によって操る 緑色のツタは、どんどん伸びていく。 2人の女の子は、アビーと離れた場所へ。 そして、アビーへ向かって伸びるツタは、彼女の両腕、そして両足に巻き付き、身動きを とれぬものにした。


「アビー、聞き捨てならない言葉があった。 アードルフ・シタラ=ヒムゥラの祠とはなんだ。 それに、闇の属性魔法・・・。 属性契約は、一生もののはずだ。 1度、その魂に、両腕に刻み込んだ 魔法属性を 変えることはできない。 お前は、火と土の魔女のはずだ。 なのに、なんで、闇魔法が、使えるっ。 分かってるのか? 闇の魔法だぞ。」


 しかし、アビーが、その問いに 真面目に答えることはない。


「オリバーは、女の子を縛るのが 趣味なのかしら? 手足を拘束して、いったい、私に 何をしようと 思ってるのかな?」


 ツタにより、磔のごとく エックスの形に拘束されたアビーは、その言葉とは裏腹に、余裕たっぷりの 態度をみせて微笑んだ。 小さな可愛らしい唇は、左上に吊り上がり、恐ろしささえ 感じさせる。


「アビー、お前を 傷つけるつもりはない。 ただ、救援が来るまでは、このままだ。 動きを封じさせてもらう。」


「あら? そういうのが、オリバーの好みなのね。 いつも、イヴリンと コソコソしてると思ったら、そんなこと してたんだぁ。 あぁ、さっきも、イヴリンのローブの裾が 破れてる場所を、凝視してたもの。 そんなことを 考えてたのね。」


「うるさいっ。 黙ってろ。」


「黙ってて 欲しければ、口も塞げば いいじゃない? このツタで。」


 そう言って、アビーは、拘束された腕を動かし、人差し指を ツツツっと、ツタの先に当てた。 すると、どうだろう。 さっきまで緑色をしていたツタが、茶色に変色し、ボロボロと、枯れて落ちていくではないか。


「な・・・ なんで。」


「バカじゃない? こんな、ふにゃふにゃの ツタで、私を捕らえられると思うなんて・・・。 あのね、森の中で、木と土の魔法が、無敵だと思ってる お子ちゃまに、いいことを教えてあげる。 暗くじめじめとした 森の中で、最強なのは、闇魔法よっ。」


 自由になった手の平をかざしたアビーは、闇の魔法を放つ。 その魔力は、一直線に オリバーに向かって・・・ そう、オリバーに直撃することはなく、なぜか、顔の横をすり抜けていった。

田邊式で、森の道を作ったことのある人は、高評価を押して次の話へ⇒

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