鏡を見ろ
「この度はおめでとうございます」
披露宴が終わり、会場を出ると出席者を見送る為に並んでいた新郎新婦。
俺が頭を下げると二人の顔色が真っ青に変わる。
当然の反応だ。
新婦は俺の元婚約者、新郎は俺の親友だった男。
「...修二...お前なんのつもりだ?」
「...嘘、なんで?」
「式に呼ばれたからな」
新郎新婦だけじゃなく、並んで頭を下げていた二人の両親も言葉を失っている。
騒いで顔を潰されては堪らないと考えているんだろう。
「誰がお前に招待状を...」
親友だった男が呻く。
もう名前すら呼びたくない。
「参加者の名前を騙らして貰った、お前等得意だろ?
それに俺はずっとテーブルに座ってたんだ、キャンドルサービスの時に気づけよな」
「そんな...」
元婚約者が青白い顔で後ずさる。
まあ気づかないわな。
照明は落とされていたし、俺が座っていたテーブルは高砂席から離れていた。
なにより同じテーブルに座っていた連中はみんな無理矢理式に参加させられたんだ。
全員俺が元婚約者を寝取られた事も知っている。
俺達共通の友人以外で披露宴に呼べるだけの人数を集められなかったのは分かるが普通は諦めるだろ。
「顔色が悪いな、お腹の子に障るぞ」
意地悪かもしれないが事実なのだから仕方ない。
俺が一年の海外留学中にしでかすからだ。
まあお陰でコイツの裏切りが分かったんだが。
妊娠が分かったコイツらは中絶しようとしたらしいが、結局バレた。
奴は病院で中絶の書類に俺の名前を騙ろうとしたが偶然にも事務員が俺の両親の知り合いだった。
激怒する俺の両親に元婚約者と男はしらばっくれる事も出来ず全てが暴かれた。
男はほんの遊びで、元婚約者は寂しかったとか言ってたそうだが、連絡を受けた時、ショックで気を失いそうになった。
「すまない修二君...」
元婚約者の父が呻く。
恨みが無いとは言えないが娘のしでかした事の責任を男に取らせたから、それで良い。
「卑劣な奴等と縁切り出来たから感謝です」
その言葉に真っ赤な顔で睨む男。
奴には本命の彼女がいたが、破局したそうだ。
幾つも会社を経営する名家の一人娘。
卒業したら関係会社に入る予定だったのにな。
「鏡見ろよ、二人共酷え面だ」
最後に男の肩を叩いた。