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後輩の出現

 邦裕は軽音楽部でギターを担当している。中学の時に始めたアコースティックギターを高校からはエレキギターに変えた。ようやく一曲を弾きと押せる程度の腕なので、まだまだ修行中だ。

 軽音楽部で目立つのは、ボーカルとベース、ドラムの順だ。ギターはやる人が多いし、今時の曲はギターソロもないし、目立つ要素に欠けている。でも邦裕は、ギターそのものが好きで気に入っている。自分の感覚にぴったりあっていると思う。

 軽音楽部では、文化祭のライブ演奏の時に、曲を決めてから楽器の担当者を決める。邦裕は六月の文化祭では2曲担当した。 三年の部長がすばらしいボーカルなので、一曲を一緒にやれることが決まった時は嬉しかった。

 部長はルックスよし、性格もよしなので、下級生に人気があり、ファンクラブのようなものができている。文化祭のステージでも、部長が歌う時は女子の声援が飛び交って、最高に盛り上がった。ステージ前に詰めかけた大勢の女子が踊り狂う異常な光景が見られた。

 そのステージで、演奏を終えて袖に引っ込んだ邦裕に、一年生の後輩女子が、「かっこよかったですよ」と声をかけてきた。その時以来、この後輩がよく話しかけてくるようになった。かわいい顔立ちをしているし、歌も歌えるので、相手をしていた。そのうち飽きて離れていくだろうと高を括っていた。

 ところが、一学期の期末考査の終わった日、クラブをサボって帰っていると、家に入る直前に、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、その後輩が笑顔で立っていた。駅で見かけて後を付いてきたと言う。家の前で立ち話するのも具合が悪いので、邦裕は仕方なく後輩を家の中に入れた。


 リビングで話した。物おじしない子で、なぜシェアハウスに住んでいるのかとか、家族はどうしているのかとか、通常は遠慮して聞かないことを聞いてきた。答えられない問いはごまかした。彼女が次々と話題を出して、邦裕が話を合わせる。一時間ほど喋っていると、健人が帰ってきた。

 玄関に見慣れない靴があるのを見て、気づいていたようで、リビングの外から邦裕を呼ぶ声がして、行くと、「誰?」と声を出さずに聞く。

「クラブの後輩、あとをつけられた」と健人の耳にささやいた。

「仕方ないけど、朱莉のこともあるから、来させない方がいい」健人はそう言って、早く帰すように促した。


「そろそろバイトに行く時間だから駅まで送るよ」邦裕は後輩をすぐ帰すことにした。

 家を出たところで、朱莉と出くわした。朱莉は邦裕が女の子を連れて家を出るところから気づいていて、驚いた顔で立ち止まっていた。

「クラブの後輩、駅まで送ってくる」

「お邪魔しました、軽音部の高橋です」

後輩は、朱莉も住んでいることを知って驚いたようだ。駅まで歩く間、いろいろ聞きたそうに話してきたが、邦裕は朱莉のことは答えなかった。彼女は邦裕の口が重いのを察したのか、追求してこなかった。邦裕は、シェアハウスのことを彼女に強く口止めをした。


 帰るとリビングにいた朱莉が、「なんで連れてきたの」と言った。

「後を付けられたんだ」邦裕が弁解がましく言う。

「私のこと誰かに話さない?」

「ここのことは絶対話さないように口止めした」

「そう、それならいいんだけど」

朱莉はそう言うと、邦裕から顔を背けた。


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