あれ…?余裕だった?
「あー、もう!ひどい目にあった!」
「ははっ悪かったって、でもぼーっとしてたカノも悪い」
フィールドボスに挑めるのは始まりの草原の端、迷いの森が見え始めた辺りに紫色の霧が漂っており其処に踏み込んだら戦闘が始まるらしい。俺たちは今その紫の霧の目の前にいる、正確に言うと休憩していた。
「は⁉あれはそもそも…」
待ち合わせの後、草原の端までショートカットしたは良いがカノが酔ってしまったらしくボス戦前に少し休憩していたのだ。カノは昔から車酔いとか酷かったしな……とはいえ正直あの程度で酔っていては戦闘で支障が出そうなものだが攻撃は避けるより受け流して耐える派らしいのであまり酔うような機動をしないのだろう。
「……っと!」
カノはそこそこ有名なプレイヤーらしく前線で活躍しているそうだ。確かカノの戦闘の動画がアップされていたな…。
「…ン!」
やはりカノは美少女だしな。ファンクラブもあるとか……ちょっとしたアイドルみたいな感じか?
「セン!聞いてるの⁉」
「ん?」
「そろそろボス戦挑もうってさっきから言ってるのに!」
隣でカノが頬っぺたを膨らませて怒っている。……先からずっと怒ってないか?こいつ。
……まぁそんなことはどうでもいいか。
「おー、そうだな。」
ズッ
「……‼‼」
霧の中へ踏み込んだ瞬間、俺たちの周りに高い壁のようなものが生え、直径…10メートルくらいか?の円を形どった。
「……此処で戦えって事か……」
「そーいえばこんなのもあったような…無かったような…?」
「つまり覚えてないってことだろ?」
軽口を叩きながらも周囲を警戒する。取り合えず弓を装備して魔力で矢を作り出しておく。
「うーん……まぁこの後」
カノが武器である大剣を装備する。ヒュッという音ともに巨大な斧がカノの頭上に落ちてくるが、それを危なげもなく吹き飛ばす。
「こうなるのは覚えてたけど」
「先に言っとけよ、ビビるじゃねーか」
「またまた、全然ビビってないくせにぃー」
…まあ、途中で上空にやけに大きな影があることには気付いていたが。現実ではまず見ないほど巨大な斧が落ちてくれば少しは驚く。
大きな衝撃とともにゴブリンキングが地面に降り立つ。
お、凄い振動。
『ガァァァァッ!!!』
よし、折角お口ご丁寧に開けてもらってる訳だからね。お望み通り打ち込んでやるよ。
「【疾風】」
『⁉ギャアァァァァァ!!!』
「ナイスー」
苦しんでいる隙にカノが大剣をフルスイングしてゴブリンキングを吹き飛ばす。
「あは、ホームラーン」
「ほら、追加だ」
目玉と…いや、両方目玉でいいや。取り合えず連射で目玉集中攻撃。
「おー…あ、関心してる場合じゃないわ」
ゴブリンキングの持っていた斧を弾き飛ばして、そのまま足を切り落とす。
「えいっ」
……ワンサイドゲームかな?ちょっとゴブリンキングが可哀そうになってきた。
まあ、攻撃の手は一切緩めてないし、緩める気もないが。
『ガアアアァァァアァァ‼‼‼』
お、なんだ?
「HPがレッドゾーンに入ったっぽいよー」
成程。
「了解だ」
ゴブリンが片足で踏み切り、突進してくる。凄い迫力だな。
「ほっ、えいっ」
まあ、カノに捌き切られているが。
その間目やら口やら、クリティカルが入りやすい所だけを狙い撃ちにしていく。
…どうやらモンスターによってクリティカルが入りやすいところが違うらしいのだが、そういうモンスター別弱点一覧みたいのはあるのだろうか?やはり弱点は弓に限らず有用だからな。
『ガァ、アァ ァァ』
「お?終いか」
「あ、討伐完了だってー」
俺たちを囲んでいた壁が崩れて霧も晴れていく。カノはアナウンスをオフにしていないのか、討伐報酬や経験値等を聞いているようだ。
「「……」」
アナウンスを聞き終わったのかカノが微妙な顔をしている。かく言う俺も同じような顔をしているだろう。俺達は互いに顔を見合わせ、示し合わせたかのように同時に口を開く。
「「余裕かよ」」