vs. 蜂モドキ
あと……何十匹だよこれ…!!!
別にピンチとか、負けそうとか、そういうのは無い。これ以上のイレギュラーがないのであれば実力的に負けることは90%くらいの確率であり得ないと言えるだろう...。
ちなみに何故90%等という微妙な数字である理由としては、集中力の問題、そして増援の有無だ。
というのも現在俺はHPを殆ど削られていないに対して蜂は着実に無力化されていっているという現状である。字面だけど余裕に見えるし、実際危なげがあるわけでは無い。しかし、それも蜂を全部無力化するまで集中力が続いた場合。蜂の数はかなり膨大だ。万が一にも何か俺の集中力を切らしてしまうような出来事があった場合この状況は破られる。まだ確実では無いが蜂の針には毒があることが予想される。強い毒ではないようで肌に触れたくらいでは平気だったが刺された場合確実に何かしらの毒の状態以上にかかるだろう。もっと余裕のある状況であったら毒耐性をつけるくらいのことは出来たかもしれないが残念ながら今毒の状態以上で動きが鈍った場合は確実に負ける。一度でも集中力を切らせば蜂の針を避けるのは難しい。
つまり、俺は一回でもまともに攻撃を受けたらそこで実質負けってことだ。
また増援の有無も重要になる。当たり前だが何か集中を害するものがなければ永久に集中出来るというわけでも無い。人間の集中力は有限だ。今でもどのくらいの時間がかかるのか確かではないのに。もし更に増援が来たら?それが今と同じくらいの数だったら?俺は倍以上の時間この状況を維持出来るか?……答えは否、だ。
…さて、ここまで否定的思考だったが、勿論90%という高い確率を提示出来るほどの勝算はある。
一つ、蜂の装甲はかなり薄い。第二フィールドで初めて戦闘になったモンスターがこのようなVITが低いものだったことは運が良かった。増援を呼んだことは省いて、だが。
第二フィールドのモンスターは第一フィールドのものよりも貰える経験値も多いことが予想できる。そして俺のレベルはプレイヤーの中では低いほうだろう。カノ以外のプレイヤーのレベルを知らない為自分のレベルがどの位なのかは正直知らんのだが。とはいえ、ギルド「蒼星」の攻略度を考えればカノはここのモンスターを倒してレベルを上げた筈。つまりカノのレベルになるまでは少なくとも経験値的に美味い相手であるはず。そしてレベルアップした際はHP、MPが全回復する。HPは削らせるつもりがないので関係ないのだがMPは有難い。何故かって?MP回復が入ること前提で戦闘が出来るからだ。つまり、スキルを撃って回復、撃って回復をハムスターみたいに殲滅完了するまで続けるわけだ。あ、余談だがMPを使うスキルを先日獲得していた。魔法スキルも一応…まあ、魔法使いになる気がないのでスキルを育てる気は今のところ無いが。
二つ、相手が飛べさえしなければ機動力塵な相手であることだ。先ほども言ったがこの蜂は装甲が薄い、攻撃力はそこそこ高いし、毒もある。しかしそれは当たれば、俺はVIT特化では無い。つまり攻撃は受け流すこともあるし、避けることもある、しかし受けることは殆ど無い、つまり最大の武器である毒が意味を成していない。何が言いたいかというとこのモンスターは俺と相性が基本的に良い、ということだ。いや、どちらかというとこの蜂共からして俺との相性が最悪、という方が近いか?まあ、とにかくそんな相手の翅を一枚で良いから切る、もしくは大き目の切れ込みを入れる、というのは比較的楽なのだ。後は折をみて踏みつぶすなり、なんなりしてしまえばいいのだ。
ああ、一応言っておくが今自分の考えを纏めている間もちゃんと戦闘はしてるからな?
なお現在森の中も俺自身も真っ赤である。ポリゴンで。
何だか血みたいでまったく違和感を拭えない。だって蜂だぞ?何故蜂を殺すと血が出てくるんだ。
心の中で運営に文句を言う。勿論この間も集中を切らしてはいない。
蜂を避けて、避けて、翅毟って、避けて、切って、切って、避けて、避けて、避けて、切って。
……そろそろか?
「【喰牙】」
【喰牙】。まあ、端的に言えば範囲攻撃。ちょっと特殊なのがMPに範囲と威力が依存するところ……そしてもう一つはドレインみたいな効果があること。
短剣が淡く月色に光る。それに俺はMPを100込め、振りぬく。短剣の軌道上にいた蜂達のHPが一気に減った。
「…範囲攻撃、便利だな」
残念ながらHP回復にほぼ意味がないのだが。とはいえ、傍からみればかなり良いスキルなんだろうし、実際装甲が薄い蜂相手であればかなり便利である。このスキルをゲットしたのが俺でなければもっと有用だったんだろうが。
…正直ドレインなんて要らないから威力をもう少し高く設定してほしかったなぁ。まあ、手に入れてしまったものはしょうがない。
「もう一発【喰牙】」
今度は俺が飛べなくし、出来る限り纏めておいた蜂の方へ撃つ。地面でもがいていた蜂の大半がポリゴンになって弾けた。
次の瞬間、自分の身体が少し軽くなったような感覚がする。
レベルアップだ。
これでまたMPが回復したわけだが…。
「さて…何回これを繰り返せばお前等を殲滅できるんだろうな?」
さあ、単純作業の時間だ。
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切る、避ける、避ける、切る、避ける、【喰牙】、避けて、また【喰牙】、避けて、切って、切って。
お、レベルアップ。
また切って、切って、切って……あれ、なんか攻撃減った?…まあ、いいか。切って、切って、避けて、【喰牙】、切って、切って、切って、切って切って切って切って切って避けて切って避けて切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って、切って……。
そして、
最後の一匹が翅を切られて地面に落ちた。